第42話 1-39 コーヒー
夕食を済まして、ガキども四人は孤児院へと帰って行った。
フェアは一人残って居て俺達と絶賛、食後の雑談中だ。
お茶を出そうにも、茶葉なんかねぇ。
屋台にも茶葉は積んでねぇしな。
おっと、忘れてた。
インスタント・コーヒーが積んであった。
俺は、屋台の引き出しからアルミ・パックに入っている補充用のインスタント・コーヒーを取り出す。
何故ビン入りのインスタント・コーヒーじゃねぇかと言うと、こっちの方が軽いからだ。
某スーパーで日替わり特売で安売りしてた時に買った代物だ。
幸いにも、ティーカップは皿などと一緒に準備されている。
お湯も沸かしてあるので問題なし。
自分用に、ちょっと濃い目のブラック・コーヒーを作る。
そして標準の濃さでフェア用にもブラックで作り、レイとポチット用に薄目のも作った。
砂糖は、好みで各自で好きなだけ入れて貰おう。
「フェア、お茶がねぇんだけど、これ飲んでみるか?」
「真っ黒な飲み物ですね……なんと言う飲み物でしょうか?」
「コーヒーって言うんだ。ちょっと苦いから、好みで砂糖を入れてくれ」
「頂きますわ」
「レイとポチットはいるか?」
「わたしは結構です。眠れなくなりますから」
「確かにな。お子ちゃまにはそうだろうな。ポチットは?」
「に、苦いのですか?」
「ああ、少しな。砂糖入れれば甘くなるぞ」
「で、では、お砂糖をお願いします」
「おお、チャレンジャーだな。いいぞ、いいぞ。何事も挑戦だよな」
レイはコーヒーを知っている筈だから、大人の飲み物だと知っているはずだ。
年齢詐称してなければ十分に大人のババアなんだから、コーヒーくらい飲めば良いのによ。
まあ、無理に飲ませる事はねぇ。
シュガー・ポットなんて気の利いた物もねぇから、ビニール袋のままの砂糖を出す。
「さあ、飲んでくれ。砂糖は、一口飲んでから入れた方が良いかもな」
「頂きます……に、苦いですわね、確かに」
「その苦さが、止められなくなるんだけどな」
「そうなのですか……お砂糖を頂きます。あら、大分円やかになりましたわ」
「そうかい。本当はミルクを入れると、もっと円やかになるんだけど、済まん、ねぇんだ」
「ミルクと一緒なら、確かに美味しそうですわね」
「ああ、今度ミルクも買っておくよ。育ち盛りのポチットもいるしな。さあ、ポチットも飲んでみろ」
「は、はい。頂きます。……に、苦いです! ご主人さま……」
「そうか、ポチットには、薄く作ったんだけどな。砂糖を入れろ。好きなだけ入れろ」
「は、はい。砂糖なんて貴重品を、宜しいのでしょうか?」
「構わねぇぞ。たっぷり入れて甘くして飲め」
「は、はい……。あっ、美味しいです、これ。甘さだけでなく、ちょっと苦みがあって、あたし好きです」
「おお、大人の味が判るとは、大した味覚の持ち主だ」
「お、恐れ入ります、ご主人さま」
「わたしも、折角、ご主人さまが入れてくださったので、頂きますね」
「眠れなくなっても、俺は知らねぇからな、レイ」
「大丈夫です。それじゃ、ポチットちゃんと同じ位、砂糖を入れてと……。に、苦いですう~」
「もう少し、砂糖入れてみろ」
「はい……。まだ苦いけど、これなら飲めます」
「なんか、コーヒーって言うよりも砂糖湯だな、そりゃ」
「でも、身体が温まります。ミルクがあれば、もっと美味しいのですか?」
「ああ、コーヒー牛乳は、冷やしておいて風呂上がりに飲むんだ。最高に美味いぞ」
「キー様、今度ミルクをお持ちしますので、是非子供達にも飲ませてあげてくださいな」
「いいとも。俺の国じゃ、牛乳嫌いのガキでも、コーヒー牛乳は好きだって奴、多いからな」
「子供達の中にも、ミルクが嫌いな子が居ります。このコーヒーならば喜んで飲むかもしれませんわ」
「たぶんな。俺もガキの時、牛乳が嫌いだったけど、お袋がコーヒー牛乳にしてくれて、ミルク嫌いを克服したんだ」
「優しいお母様でしたのね」
「はははは……、もういねぇけどな。今じゃ、ミルクよりもコーヒーの方が好きになっちまった」
「そうですか」
フェアとコーヒーを飲みながら雑談を続けた。
雑談の中で、この歓楽街の情報も色々と教えてもらう。
治安は、王都の警備兵や私設の警備隊が居るので、他の地区よりも安全なのだと言う。
しかし、よそ者もやって来るので、全く安全だとも言えないそうだ。
無法者も居ない訳では無いし、夜間は十分に警戒して欲しいとも言われた。
まあ、屋台の夜間営業なんだから、それは仕方が無い。
しかし、この世界の危険って言うのは、死に繋がる危険なので身を守る武器は常に携帯すべきとも言われた。
「武器って言うと、騎士や用心棒のレパードが持っていた剣か?」
「冒険者や騎士様は剣が多いですわね。でも、商人の場合は短剣を身につける事が殆どです」
「包丁じゃ駄目かな?」
「ホーチョーとは、どんな武器なのでしょうか?」
「包丁は、包丁だよ。実物見た方が早いな。持ってくるわ」
俺は、そう言って屋台に仕舞ってある、数種類の包丁を持って来る。
「これが、包丁だ。この大きなのが中華包丁って言うんだけど、一番良く使う包丁だな」
「これをお料理に使うのですか……まるで、薄い
「そうだな。俺の国でも、あまり一般的じゃねぇけどな。こっちが一般的な和包丁だ」
「これは、そのまま短剣ですわね。これならば十分に身を守れますわ。綺麗に手入れされてますし」
「う~ん、あまりこれを喧嘩に使うのは、頂けねぇけどな。まあ、いざとなれば仕方ねえけどな」
「私の知り合いの料理人達は、主にナイフを使いますわ」
「そうなんだ。……ああ、俺もそれは聞いた事があるな。他の国では、
「子供達にお料理を教えて頂く際、できればナイフの扱いも教えて欲しいのですけど」
「ああ、刃物の扱いも教えるよ。手入れの方法もな。砥石の扱いは、基本中の'基本さ」
「ありがとうございます。この家の厨房にも、ナイフは備えてありますので、宜しくお願いします」
「任せておけって。ところで、孤児院を出るのは、幾つになってからだ?」
「十二歳から十三歳ですわ」
「そうか、そんで孤児院出身者で、仕事に就けなかった奴らは、どうしてるんだ?」
「出来るだけ、歓楽街で仕事を斡旋しています」
「そうか、そいつらにも、料理を今から教えてやるぞ。時間があればだけど」
「本当ですか? ならば、是非お願いをします!」
「そうだな、手っ取り早く商売の出来る料理を仕込んで、独り立ちさせるってのも良いな」
「是非、是非お願いしますわ!」
「店を持たせるのは資金的にも無理だから、取り敢えず屋台を始められるようにするのが良いかもな」
「屋台をでございますか?」
「そうだ。俺のラーメン屋台は、ちょと食材のネタを作るのが難しいけど、それ程難しくねぇ屋台もあるぞ」
「キー様、本当に宜しいのでしょうか?」
「ああ、いいとも。同じ天涯孤独の仲間だしな。屋台もいろいろと有った方が客も集まってくるからな」
「子供達には、出来れば夜の営業はさせたくないのですけど……」
「なら、昼間営業すれば良いだろう。市場には、沢山の屋台が出てたぞ」
「そうですわね。明るいうちの屋台ならば、危険もありませんから」
「歓楽街は、昼間は閑散としているのか?」
「料理店が集まっている区画以外は、そうですわね」
「なら、庶民向けに屋台区画を作るとかな。もちろん、日が沈むまでの間だけだ」
「それは、良い考えですわ。さっそく、管理者様へ相談いたしますわ」
「そうしてくれ、あの仮面のドリル金髪女なら、前向きに検討してくれるだろうさ」
「ドリル金髪? それは、どんな意味でしょうか?」
「ほれ、金髪が、くるくるとカールして両脇に下がっているだろ。あのくるくる金髪が、俺の国じゃドリルって言う工具にそっくりなんだよ」
「ぷっ……ほほほほ……。お、お腹が痛いですわ、キー様……」
フェアは、俺が管理者の姿を表現した、金髪ドリルと言う表現がツボにはまったようで、腹を押さえて笑い出す。
暫く笑い転げたあと、フェアは涙を拭きながら、
「ごちそうさまでした。それは、お休みなさいませ」
と言って、俺達の家を出て行った。
しかし、孤児院を出たガキども、本当に仕事にありつけねぇみたいだ。
なんなら、俺の屋台を毎日一台づつ召喚して、それを貸し与えてもいいかもな。
燃料のボンベが空になるまでは使えるし、料理に合わせて若干改造してやればOKだ。
うん、屋台のレンタルも含めて料理技術も教え込み屋台のフランチャイズ展開。
仕事にありつけねぇ孤児院卒業者の救済にもなって、一石二鳥だ。
俺は異世界屋台軍団構想を、三杯目のコーヒーを飲みながら本気で考え始めるのだった。
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