第31話 1-28 入浴

 俺は、浴室の脱衣所へと入りパッパツと服を脱ぎ、下着も脱いでスッポンポンになる。

 風呂に入るのに水着を着用なんて、何処の馬鹿がするんだ。

 風呂は、プールじゃねぇんだよ。

 脱衣所には、脱いだ着衣を入れて置くための籠が有ったので、それに脱いだ衣服を入れる。

 そして、備え付けの小さなタオルを持ち、湯船のある浴室へと入った。

 この世界の入浴方法、と言うか欧米流の入浴方法を、俺は全く知らねぇので、日本流で入る事にする。


 先ずは、湯船に満たされているお湯を手桶で汲んでから、タオルを濡らして備え付けの石鹸で泡立たせ身体をを洗う。

 そして、また湯船からお湯を汲んで身体の泡を流し落とす。

 ふー、さっぱりするなあ。

 そして、湯船……と言うか、どう見てもバスタブという表現がピッタリなんだが、お湯に身体を沈める。

 自然と俺は、「ふあぁ~」と声を発してしまうが、やっぱり風呂は良いよな。

 少し温めの湯だけど、やっぱり風呂は最高だよ。


 疲れが一気に、何処かへ飛んで行ってしまう気がする。

 湯船のお湯で、顔を洗うのは下品だとか言うけど、やっぱり顔も洗いたいから、やってしまう。

 あぁ、さっぱりするよ。

 暫く目を閉じていると、何だか眠くなってきてしまったので、もう一度を顔をお湯で洗う。

 やばい、このままだと湯船で寝てしまいそうだ。

 俺は、湯船から上がって髪の毛も洗う。

 シャンプーなんて気の利いたものは、流石に高級宿でも完備してない様なので、仕方なく石鹸で洗うか。


 まあ、昔のシャンプーなんて無く皆が銭湯を使用して居た時代、頭髪も石鹸で洗っていたんだろうな。

 幸い、俺の髪の毛は短く切っていたので、石鹸でも十分に泡立った。

 再び、湯船からお湯を手桶で汲み出し、髪の毛の泡を流し落とす。

 シャワーが欲しいところだが、そんな物は無いし、水道の蛇口すらねぇよ。

 一体、この湯船のお湯は、何処から運び入れて来たのだろうか。

 大きな桶で、何度もお湯を人海戦術で運び入れたのかもしれないが、どえらい作業だ。


 高級な宿で、この入浴設備なんだから、一般家庭での入浴はどうしているのだろうか。

 少なくとも、王都手前の宿場町の宿には、風呂らしき設備は無かったし、銭湯の様な施設も無さそうだったしな。

 それでも、この宿みたいに高級な宿には風呂の設備が有るんだから、貴族みたいな上流階級は、入浴の風習が有ると言う事だろうな。

 一般庶民の、入浴事情も調べて置かねぇと、これからの生活に困ってしまう。

 後で、ポチットにでも聞いてみるか。


 そう言えば、俺の下着類もレイの収納に入っているんだっけ。

 折角さっぱりとしたんだから、下着も替えないとな。

 俺は、浴室から出て脱衣所に有った大きなバスタオルで身体を拭き、そしてそのバスタオルを腰に巻き付けてから浴室を出る。


「おーい、レイ。俺の換えの下着を収納から出してくれねぇか?」

「ご主人様、私はご主人様のタンスでは有りませんよ……。それに、若い女の子が二人も居る所へ、バスタオルを巻いただけで現れないで下さい、もう……」

「悪りぃ、悪りぃ。風呂に入る前に言うべきだったよな」

「はい、どうぞ。下着と換えの衣服です」

「おお、有り難うな。そんじゃ、着ていたのは、収納してくれるか」

「もう、持ってきてください」

「いや、脱衣所の籠に入れてあるから、そこのを収納しておいてくれ。お前達も風呂、入るだろう?」

「私は、入浴は不要なのですけど……」

「はあ? あぁ、そうか。風呂いらずだったけ。そんじゃ、ポチット、お前、風呂に入れ」

「わ、わたしですか? お、お風呂なんて、入った事がありません」

「えぇ? 風呂、入った事がねぇだと?」

「も、申し訳ありません、ご主人さま。わ、わたしの住んで居た村には、お風呂が有りませんでした。近くの川で水浴びをして身体を洗っておりました」

「川で水浴びか……。夏は良いだろうけど、冬でもか?」

「は、はい。ふ、冬は、川の水を汲んできて、お湯にしてから身体を拭いていました」

「ふーん、大変だったんだな。そんじゃ、風呂の入り方や、石鹸も知らねぇか……」

「せ、石鹸は、高価だったので、木の実を砕いて、その汁を代わりに使っておりました」

「ああ、そんな木の実が有るのは、俺も聞いた事があるよ。そんじゃ、レイは風呂の入り方は知っているだろうから、レイが一緒に入って教えてやれ」

「そうですね。私も入った事はありませんが、作法だけは知っていますから。では、ポチットちゃん、一緒に入りましょう」

「は、はい。レイ様。宜しくお願いします」

「様は無しだよ、ポチットちゃん。それじゃ、ご主人様、二人で入らせて頂きますね」

「ああ、宜しく頼むな。ゆっくり入って来いや」

「し、失礼します……」

「ああ、ポチットが今、着ている服は、この宿で洗濯してくれるかもしれねぇから、聞いておいてやる。風呂から出たら今日買った、新しい服に着替えろよ」

「は、はい。有り難うございます」

「そんじゃな」


 俺は、二人が浴室へ入るのを待ってから、レイが収納から出してくれた下着と服を着る。

 腰に巻いて居たバスタオルは、椅子に掛けておき、この部屋へ案内してくれた女が教えてくれた、壁から下がっている紐を引く。

 なんの音も聞こえて来なかったが、どこかでベルでも鳴る仕掛けなのかな。

 暫くすると、ドアがノックされて、女の声で「失礼します。お呼びでしょうか?」とドアの外から聞こえて来た。

 俺がドアを開けると、ドアの外には、メイドの様な格好をした若い女が立っている。


「ああ、悪いな呼んじまって。服の洗濯って頼めるかい?」

「はい、承っております。今、お預かりすれば、明日の朝までには洗濯、乾燥まで終わります」

「へぇー、凄いな。乾燥まで出来ちゃうのか」

「はい、火魔法を使う者が常駐しておりますので」

「ま、魔法使いが火を出して洗濯物を乾かすのか!?」

「そうでございます」

「そ、そうか。それじゃ、頼むよ……。一緒に、来てくれ」

「はい」


 俺は、メイド服の若い女を部屋に入れて、浴室へと案内する。

 そして、脱衣室へ入ると、メイドの女も招き入れてから、入浴中の二人へ声をかけた。


「おい、洗濯物は、今出せば、朝までには終わるとさ。今、メイドさんに来てもらっているから、ポチットの服をメイドさんへ渡せ。俺は、脱衣所から出てるからな」

「は~い。今、出ますから、ご主人様は、とっとと脱衣所から出てくださいね~」

「わ、判っているさ。ほんじゃな」


 俺は、レイに言われるまでもなく、とっととメイドを脱衣所に残して、脱衣所から退散した。

 まったく、本当に女の入浴は、面倒くせぇよな。

 少しすると、メイドがポチットの衣類を籠ごと抱えて、脱衣所から出てきた。


「それでは、お預かり致します。明日の朝に、ロビーの受付でお受け取り下さい」

「ああ、頼むよ。悪かったな」

「いいえ、それでは失礼致します。お休みなさいませ」

「ああ、有りがとうな」


 メイド姿の若い女は、ドアを出てから頭を下げて立ち去って行った。

 全く、乾燥要員に魔法使いまで常駐しているなんて、流石に高級宿だよ。

 しかも、火魔法とか、どんだけファンタジーな世界なんだ。

 俺が知っているビジネス・ホテルじゃ、24時間運用のコイン・ランドリーが有ったんで、それを愛用してたよ。

 最も、金の有る正社員は、Yシャツだけは洗濯に出してたけど、金のねぇ俺はランドリーに設置してあったアイロンを使ってたけどな。


 俺は、椅子に腰掛けてテーブルに置いてある水差しから、コップへ水を注いで喉を潤す。

 風呂上がりに、冷たいビールが飲みたかったな。

 くそ、屋台を収納に仕舞う前に、クーラー・ボックスから缶ビールを出しておきゃ良かったよ。

 水を飲み終え、ソファーに持たれかかると、背中に何か感じる。

 ああ、さっき椅子に引っかけておいた、バスタオルだ。

 女どもが、身体を拭くのにも必要だよな。

 俺は、バスタオルを手に取り脱衣所へと向かい、ドアを開けた。


「きゃー! ご主人様が覗きに来ました!」

「わ、わたし……。ど、どうすれば良いのでしょうか……」


 くそ、何てこった。

 俺は、見たくもねぇ、レイのぺっちゃんこの胸を見てしまった。

 そして、ポチットの二つの胸の膨らみと、お尻から生えている立派な尻尾も見てしまう。

 あぁ~、何て面倒くせぇんだよ……。






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