第24話 1-21 新世界
レゾナと二人で、歓楽街の中にあるレストラン街から、更に西に向かって通りの奥へと歩いて行く。
「キー様、この歓楽街一帯は、ニヤタ通りと申します」
「ふーん、ニヤタか。何か意味はあるのかい?」
「いや、昔はあったらしいのですが、私めも不勉強でしてな……」
「まあ、地名なんて元々の意味から変わっちまうからな。で、酒場は未だかい?」
「間もなくでございます。ああ、彼処に娘達が大勢居る店が、そうでございます」
「へえー、何で、女が大勢集まっているんだ? って、なんか、みんな色っぽいな」
「はい。あの娘達は、店で働く娘達でしてな。ああやって、客を呼び込んでおるのです」
「成る程、呼び込みか。俺の居た国じゃ、昔は良かったみたいだけど、今じゃ禁止されちまった行為だな」
「なんと、アズマ国では、客の呼び込みが禁止されておるのですか?」
「ああ、そうなんだよ。それでも、隠れてやっている連中は大勢いて、時たま一斉に成敗されるんだけどな」
「それはまた、店にとっては難儀ですな」
「水商売だから、それでも儲かるみたいだけどな」
俺とレゾナは、そんな話をしながら、色っぽく若い娘達が大勢、店の入り口の前で客の呼び込みをしている場所まで行く。
すると、女達は「いらっさいませ~」と何故か、訛りのある言葉で俺達を出迎えた。
なんなんだ、地方出身者が多いのかよ、この店。
レゾナは、女達の群を掻き分ける様にして、店のドアを開けて中へと入って行く。
俺も、レゾナに遅れまいとドアを潜るが、何故か大勢の女達も俺に続いて店の中へと入って来た。
「「「「「いらっさいませ~」」」」」
店に入ると、店の中にも大勢の若い女達が居て、今度は一斉にまたまた訛った言葉で挨拶をしてきた。
しかし、その挨拶は、ハーモニーを奏でる様な声で何処か色っぽい。
女達の中から一人、服装の違う女が俺達に向かって歩み寄って来た。
どうやらホステスでは無く、支配人か何かなのだろうか、黒のベストに白いブラウス、そして黒のタイトスカート姿だ。
「予約してあったレゾナだが」
「はい、レゾナ様ですね。お待ち申し上げておりました。個室をご用意致しておりますので、ご案内致します。その前に、女の子を選んでください」
「そうでしたな。キー様、この娘達が酒の酌を致しますので、気に入った娘が居れば指名してください」
「ふーん。指名制のキャバレーみたいな店なのか」
「私めは、キャバレーを存じ上げませんが、それもアズマ国での呼び名でしょうか?」
「ああ、キャバレーとか、クラブとか言うみたいだな。俺は、行った事がねぇから良く知らねぇけどな」
俺が、レゾナにそう言うと、レゾナが俺の耳元まで来て、小声で話す。
「キー様、娘達の胸に付けている名札がございますな」
「ああ、みんな付けているな。あれは、女の名前が書いてあるのか?」
「いいえ、あの名札が赤の場合、酒を飲み終わった後、一緒に連れ出す事が出来ます」
「はあ? なんだ、連れ出しって……ああ、そう言う意味か。お持ち帰り出来る女なんだな」
「はい、そうでございます。料金は、一晩、朝までで銀貨一枚程度が相場でございますな。そして白い名札の娘は、連れ出す事は出来ません」
「な、成る程な、名札で区別できるのか。そりゃ、判りやすいな。赤い名札でも連れ出さなくても良いのかい?」
「大丈夫ですが、娘達は良い顔は致しませんな」
「ふーん、最初から連れ出される事が前提なのか……。まあ、俺は未だ宿も取ってねぇから、今夜は止めとくけどな」
「宿の心配はご無用ですぞ、キー様。私めの家には、来客用の離れがございますから、そこをお使い下さい」
「そりゃ有り難い話だけど、連れが二人も居るんで今夜は止めとくよ。レゾナは、俺に気兼ねせずに選んでくれよ」
「何を仰います。私めにも妻が三人も居りますので、連れ帰ったら修羅場が確定して血の雨が降り注ぎます」
「な、なんだと、レゾナの旦那には、嫁さんが三人も居るのかよ?」
「はい。王都の商人であれば、普通でございますがな」
(……何てこった。この世界は、一夫多妻が当たり前だったのかよ)
「そ、そうか。それじゃ、白い名札の女を選ぶわ」
「はい、私めも同じでございます」
レゾナの解説で、この店のシステムが判った。
それにしても、お持ち帰りが可能なホステスとは、何ちゅうシステムだよ。
日本でこんな店を経営しようもんなら、即摘発されてちまう。
とは言え、男にとっては魅力敵な店でもあるよな。
俺だって、一人なら間違い無く赤バッジの女を指名しちまうよ、くそっ!
俺の目の前には、身体の線がハッキリと判る色っぽいドレスを着た女が20人以上居る。
そして女達は、無言のまま微笑んで俺の方を見つめて、自分を売り込んで居る様だ。
どうやら、売り込みの言葉を発するのは御法度らしく、誰も口を開かない。
それにしても、この状況じゃ、どっちが指名される側なのか判りゃしねぇ。
まるで、こっちが値踏みされている状況だよ。
俺は、生唾を飲み込みながら、
白いバッジを付けた女は、8人位居たが、どの女も若く綺麗な顔立ちをしていて、目移りしてしまう。
そんな中、一人の女が俺の目に止まった。
その女は、青い髪の毛をしいて、瞳も同じ様な鮮やかな青いだった。
どの女も皆が長い髪をしていて、この女も同じく長く青い髪だ。
日本でも、髪を染めて青くしている女は居たけど、この世界でも髪の毛を染める風習が有るのか。
女は、俺と目が合うのを避けるかの様に、俯いてしまう。
青い髪の女は、他の女達が俺の方を見て愛想を振りまいているのに、何故かそのまま下を向いたままだった。
よし、この女にしよう。
「俺は、そこの青い髪の毛の女にするよ」
「「「「「おぉ~」」」」」
俺が青い髪の女を指名すると、他の女からどよめきと共に歓声があがった。
なんなんだよ、この異常な雰囲気は。
「……はい」
「キー様が選んだ娘は、白の8番ですな。では。私めも……そこの白の30番の娘にしましょう」
「はいっ。有り難うございます」
どうやら、バッジには、番号が書かれて居た様で名前では無かったみたいだ。
レゾナは、俺が女を選ぶまで待っていてくれた様で流石に商人、接客上手だよ。
俺達の選んだ女二人は、返事をすると集団の中から歩み出てきて、俺達の傍らに来た。
すると、集まって居た女達は嫌な顔もせずに解散して、店の外へ出て行く女や、入り口の周辺へ戻って行く女達と、それぞれが元の守備位置へと帰って行く。
それにしても、凄い光景だよ。
こんなに若くて、色っぽい美人揃いの集団に囲まれるなんて、人生初めての経験だ。
俺達が女を選び終わると、支配人らしき女が「では、ご案内いたします。こちらへどうぞ」と言って、店の奥へ案内してくれた。
そして、店の奥にある階段を上って行き、二階の廊下を進んで行く。
廊下の両脇には、複数のドアが並んでいるので、二階は個室になっている様だ。
そのドアの一つを開き、「どうぞ、此方へ」と俺達を中へ招き入れる。
部屋の中は薄暗いが、灯りはちゃんと有り、如何にも高級クラブかキャバレーと言う感じだ。
俺達が中へ入ると、選んだ女達も俺達の後へ続き入室して来た。
部屋の中には、高級そうなソファーが設置されていて、低めのテーブルも見える。
俺は、支配人らしき女に誘導されてソファーに腰を掛ける。
すると、俺の脇へ青い髪の女も座る。
甘ったるい良い香りが、俺の鼻を
なんて良い香りなんだよ、理性が何処かへすっ飛んで行きそうだよ。
レゾナも案内されて、向かい側のソファーへ座り、その隣にレゾナの選んだ小柄な金髪の女が座る。
俺達がソファーへ腰を沈めると、支配人らしき赤い髪の女が口を開いた。
「改めまして今宵は、ようこそ"新世界"へお出で頂きました。お飲み物は何になさいましょうか?」
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