第22話 1-19 譲渡手続
「そうなのでございます。王都内で、夜間まで営業を行っているのは、歓楽街地区なのですが、そこは商業ギルドの管轄ではなく、一個人が管理している地区なのです」
「一個人が歓楽街を管理? それって、ヤクザ……いや、暴力団とか?」
「暴力団とは何か、私めには判りませんが、歓楽街は元々が一個人が一代で作り上げた場所でしてな。以後、その子孫が歓楽街を管理しており、それは王様も許可しております正当な地区なのです」
「ふーん。って事は、その歓楽街で屋台を営業するには、その管理している貴族だか、なんだかの許可がいるって事か」
「管理者は、貴族ではありませんが、そのとおりでございます」
「その歓楽街で、屋台を運用する場合は、商業ギルドの許可はいらねぇって事かい?」
「はい、歓楽街の事は、全てを管理者が行っております」
「なるほどな。それじゃ、その管理者へ屋台運用の申請をしなきゃ駄目って事だな」
「はい、そうなのでございますが……」
「何か、未だ問題があるのかい?」
「管理者が、誰なのかが、全く判らないのでございます」
「はあ?」
「はい。会いたくても、会えないのでございますよ」
「……参ったな、そりゃ」
「一部の貴族や、王族は知っておられると聞いておりますが、この商業ギルドの会長でさえ、歓楽街の管理者とは会った事もなければ、名前も聞いた事が無いそうです」
「は~……。それじゃ、貴族から情報を集めるしか無さそうだな。グロリアにでも相談してみるか……」
「スカイライン様や、ブルーバード様なら、可能性は低いですが、或いは……」
「判った。有り難うよ。まあ、一度その歓楽街って所へ行ってみるしかねぇな」
「そうですな。それでは、夕食を歓楽街でとり、その後に酒を飲みに参りましょう」
「おっと、そりゃ願ってもねぇな。助かるよ」
「いえ、いえ、私めも歓楽街にはご無沙汰しておりましたから、キー様とご一緒できるなら願ったり叶ったりです」
「悪りぃな、レゾナの旦那。そんじゃ、そう言う事で宜しく頼むわ」
「はい、お任せ下さい」
俺とレゾナが、王都の歓楽街の話をしていると、女鑑定士のチェリーが部屋へ戻って来る。
もう一人、かなり歳をとった男を連れており、この男が奴隷の譲渡手続を行ってくれるのか。
男は、手押しのワゴンを押してきて、なんだかホテルのボーイみたいだ。
「キー様、お待たせしました。此方が買い取り品の代金でございます。お確かめ頂き、宜しければ、この受取書にお名前をご記入下さい」
「どうも。それじゃ、確かめさせてもらうな。レイ、受取書を確認してくれ」
「はい、ご主人さま」
俺は、チェリーから受け取った買い取り品の代金を確かめる。
銀貨9枚と銅貨8枚が確かに有ったので、レイの方を見ると、レイは「問題ありません。代金の受け取りをしたと言う事だけです」と言う。
受取書は、一枚だけなので、これを商業ギルドで保管するのだろう。
まあ、買い取り価格が、金貨一枚分にも満たない価格だったので二枚作る程でもねぇんだろうな。
俺は、先ほどと同じ様に、書きにくい羽根ペンで受取書へ漢字で名前を記入した。
「それでは、キー様。買い取りはこれで完了です。では、次に奴隷の譲渡手続をさせて頂きますが、宜しいでしょうか?」
「ああ、頼むよ」
「奴隷の譲渡手続と登録は、このダットが行います」
「キー様、初めまして。私は、商業ギルドで奴隷関係の担当をしております、ダットと申します。以後、お見知りおきを」
「ダットさんか、俺はコータ、コータ・キーって者だ。宜しく」
「はい。それでは、早速に手続をさせて頂きましょう。先ず、お預かりした奴隷の買い取り証書をお預かりして宜しいでしょうか?」
「いいよ、これな」
俺は、ダットへシルビアから貰った奴隷商人が持っていた証書を渡す。
ダット、証書を読み「確かに、その娘の買い取り証書です」と言って、俺に証書を返してきた。
「10年契約の奴隷なので、この印を奴隷の左手の甲へ押します。この印は特殊な魔法インクで、押されてから10年で自然と消えます」
「へぇ~凄いな。つまり、10年で奴隷じゃ無くなるって事だな」
「そうでございます。再契約は、奴隷本人の意思が必要になります。犯罪奴隷の場合には、インクではなく、入れ墨の印となり、死ぬまで消えません」
「入れ墨か……昔の犯罪人みたいだな。まあ、焼き印じゃ無くて良かったけどな」
「……昔は、焼き印を用いておりましたが、訳あって廃止されました」
「そりゃ、良かった。焼き印じゃ痛そうだもんな」
「はい。そして、これが奴隷の身分票になります。これを首輪に着けておくのが慣例です」
「首輪も此処で手配できるのかい?」
「はい。普通は、黒の首輪ですが、お好みの色を奴隷に付けさせる事も可能です。貴族様方は、黒では無く、色つきの首輪を付けさせます。ちなみに、犯罪奴隷は、鎖の首輪を巻かれます」
「ふーん。それじゃ、赤いの有るかい?」
「ございます。こちらになります」
ダットは、そう言うと、手押しのワゴンの中から赤い首輪を取りだした。
なんて事はねぇ、昔飼っていたポチがしていた首輪が赤だっただけだ。
「それでは、キー様の身分票をお貸し頂けますか? 登録をさせて頂きますので……」
「まさか、俺を奴隷に登録するんじぇねぇよな?」
「めっそうもございません。その奴隷が、キー様の所有物である事を身分票へ記録するのでございます」
「判った。そんじゃ、これな」
俺は、首に掛けていた身分票をダットへ渡す。
すると、ダットは、城門で見た青い板に良く似た板を手押しワゴンから取り出し、俺の身分票とポチットの身分票になる革製のタグみたいなのを重ねて青い板へ当てる。
「奴隷の名前は、ポチットで宜しいのですね?」
「ああ、そうだよ」
ポチットの名前を確認すると、青い板を操作して様な仕草をしているが、言われなきゃタブレット端末を操作してスマートフォンの利用者登録をしているみたいだ。
「これで、登録は終わりましたので、奴隷……ポチットの左手の甲へ印を押すだけです」
「ポチット、左手を出してくれ」
「は、はい、ご主人さま」
ポチットは、怯えた風でもなく、すんなりと左手をダットへ差し出す。
ダットは、手押しワゴンの中から、スタンプを取り出すと、それをポチットの手の甲へ押し当てる。
見た目じゃ、普通のスタンプだけど特殊なインクで10年消えねぇとは、恐れ入ったよ。
俺の屋台に積んである、強力な洗剤でも落ちねぇのかな。
「これで、譲渡とキー様への登録手続は、全て完了です」
「以外と簡単なんだな。どうも有り難うよ、ダットさん」
「いえ、この作業は限られた者しか出来ませんので、誰でもが行える手続ではございません。奴隷商人でも、上位の者でないと行えないのです」
「へえ、そうなんだ。それじゃ、これが女騎士から預かっていた書類なんで後は宜しく」
「はい、お預かり致します。ポチット、赤い首輪は貴族様の奴隷で無いと出来ないのだ。大事にする様にな」
「は、はい。大事にします」
ポチットは、ダットから受け取った身分票付きの首輪を受け取り自分で首に巻く。
なんだか、その仕草は飼ってた犬のポチが散歩へ行きたい時に、自分で首輪を
俺も、自分の身分票をダットから受け取り再び首に掛ける。
「それでは、これで全て完了です。キー様、大変にお待たせいたしました」
「チェリーさん、ダットさん、どうも有り難うな。助かったよ」
「いえ、いえ、また何かご用がございましたら商業ギルドへお越し下さい」
「ああ、そうさせて貰うよ」
「それでは、キー様、我々は食事に行きましょう。チェリー殿、お世話掛けましたな。ダット殿も、お手数をお掛けしましたな」
「レゾナ様も、お待たせして、申し訳ありませんでした。またのご利用をお待ちしております」
「はい、はい。それでは失礼致します。キー様、参りましょうかな」
「ああ、判った。レイ、ポチット、行くぞ」
「「はい、ご主人さま」」
俺達は、退室するレゾナとバイソンの後に続いて歩いて行き、階段を降りて商業ギルドの裏口から外へ出る。
そこは、馬車置き場の駐車場になっており、俺達を王都まで乗せてくれた馬車が止めてあり御者席へバイソンが乗り、客室へはレゾナと俺、そしてレイとポチットが乗り込んだ。
既に、日は沈みかけており辺りは薄暗くなり始めている。
さあて、これから問題の歓楽街へと出向いて夕飯、そして酒場へと繰り出す訳だが、歓楽街って、どんな所なのか俺は興味津々だよ。
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