第21話 1-18 営業許可

「キー様、盗賊団の所持品以外にも、幾つかの品物がございますが、これは?」

「ああ、たぶん盗賊団に殺されちまった奴隷商人の持ち物じゃねぇかな」

「成る程、となると、その奴隷商人の遺品と言う事になりますね」

「そうなるな。この収納鞄も、殺された奴隷商人の持ち物だったんだけど、シルビア、いやブルーバードの姉さんが言うには、全て俺の所有物になったんで、そのまま使って良いって言っていたんだけど、駄目なのかい?」

「いいえ、そのままお使い頂いて構いません。ただ、この指輪などは、殺された奴隷商人に家族が居た場合、遺品として家族が買い取りを行います。収納鞄の場合は、既製品で同じ物が沢山あるので、特に遺品扱いされる事は殆どありません」

「成る程。確かに、遺品ならば家族が居れば欲しいだろうな」

「はい。奴隷商人の名前や身分票は、騎士団に記録があるでしょうから、そちらへ尋ねて家族が居れば私どもで連絡をいたします」

「そうしてくれると、死んだ奴隷商人も浮かばれるだろうから、頼んだよ」

「はい。では、そうさせて頂きます」


 暫く女鑑定士のチェリーは、10人分の武器や装備を査定し、加えて奴隷商人の遺品なども査定して行く。

 そして、全ての査定が終わったところで俺に言った。


「キー様、査定が終了しました。盗賊団の武器や装備は、どれも量産品でございますので、まとめて銀貨5枚と銅貨8枚となります。奴隷商人の持ち物は、かなり高価な品ですので銀貨4枚で買い取らせて頂きますが、それで宜しいでしょうか?」

「ああ、それで構わねぇよ。ちゃんと、査定料もさっ引いてくれたのかい?」

「はい、勿論でございます」

「そんじゃ、合計で銀貨9枚と銅貨8枚ちゅう事で宜しく」

「はい。今、代金をお持ちして参りますので少々お待ち下さい。合わせて、奴隷の譲渡手続きを行う係の者を呼んで参ります」

「ああ、宜しく頼むよ。おっと、あと一つ聞かせてくれないか。この収納鞄って、幾ら位するものなんだい?」

「そうですね……キー様がお持ちの収納鞄であれば、金貨一枚の買い取り価格になるかと思います。収納能力や個人認証の機能が付いていれば、もっと高価なのですが、その収納鞄は一般的な収納だけの機能しか無いので……」

「へえ、それでも金貨一枚の価値があるんだ……驚いたな。いや、有り難う。参考になったよ」

「それでは、少しお待ち下さい」


 女鑑定士のチェリーは、そう言って、部屋を出て行く。

 濡れ手に粟で手に入れた収納鞄が、金貨一枚もするとはな。

 今回の査定で一番高価だったのが、この収納鞄って事になる。

 いや、ポチットの方が高価なんだろうが、奴隷の値踏みなんて、俺には全く判らねぇし、ポチットが居る前で、本人の値段を尋ねる程、俺も無慈悲じゃねぇからな。

 まあ、奴隷の価格ってのも、気になってしまうのだけれど……。


 女鑑定士と入れ替わりに、バイソンが部屋へ戻って来る。

 入室するなり、「お待たせしました」とレゾナに言い、小さな革袋を渡す。

 あの小さな革袋の中身は、胡椒の代金なんだろうけど、やけに小せぇ。

 まあ、幾らでも良いんだけど、当面の生活費の足しになれば十分だ。

 取り敢えず、俺とレイ、そしてポチットが寝られる宿屋の代金位は欲しい所だ。


「キー様、お待たせしました。こちらが胡椒の代金と、受け渡しの証書になります」

「ああ、証書も有るのか。サインが居るんだろう?」

「はい、ご面倒でもお名前を頂きたく……」

「おい、レイ。証書を読んでくれ」

「はい、ご主人さま」


 レゾナから証書を受け取り、レイが読み始める。

 証書と言っても、紙じゃ無くて革を薄く伸ばして紙風にした感じだ。

 羊皮紙って言うやつなんだろうなと、レイの読んでいる証書を見ながら思う。


「ご主人さま、問題はございません。領収書も兼ねているので、この証書へご主人さまとレゾナ様のサインを記入すれば、売買が成立します」

「おお、判ったぜ。そんじゃ、レゾナの旦那、何処へサインすれば良いんだ?」

「はい、此方へお願い致します。このペンをお使い下さい」


 レゾナは、そう言うと、昔映画で見た事のある古風な羽根ペンを用意し、合わせて小さなインク壺をテーブルの上に置く。

 羽根ペンなんて、俺は初めて使うけど、本当にこのでかい羽根で書けるのかよ。

 俺は、羽根ペンの先をインク壺に入れて、インクを吸わせてから、二枚の羊皮紙の最下段の空白へ、俺の名前を書く。

 もちろん、この世界の文字なんて書けねぇから日本語、しかも漢字で"紀伊 幸太"と書いた。

 普段、ボールペンかフェルトペンしか使わねぇ上、羊皮紙の滑りが悪いので漢字が震えているみたいになっちまった。

 まあ、サインなんて個性的な方が良いって聞いた事があるし、この世界で漢字を書ける奴なんて、居るわきゃねぇから問題なしだ。


 俺に続いて、レゾナも証書二枚にサインをする。

 流石に普段から羽根ペンと羊皮紙に慣れている様で、すらすらと書いて行く。

 と言っても、俺には全く読めねぇ文字だったけど。


「それでは、この証書の一枚は私めが保管させて頂きます。もう一枚はキー様がお持ち下さい。そでは、此方が胡椒の代金でございます。中をお確かめ下さい」

「ああ、判った」


 俺は、レゾナから小さな革製の袋を受け取り、袋の口を縛ってある革製の紐を解き、中身をテーブルの上に出した。

 袋の中からは、金色に輝く硬貨が、じゃらじゃらと出てくる。

 おお、初めて金貨なんて見たぜ。

 金貨の数は、なんと二十枚もあった。

 400gの胡椒で、20gを一枚ってレゾナは言ってたけど、金貨一枚って事だったのか。

 この世界って、胡椒がそんなにも高価だったとは驚きだ。


 これじゃ、ラーメン屋台が失敗しても、胡椒を売って行けば余裕で生活出来る。

 いやいや、そんな弱気じゃ駄目だ。

 絶対に、俺はラーメン屋で成功してみせるからな。

 でも、儲からなかったその時は、胡椒の助けも……。

 いや、駄目だ、駄目だ。

 それは最後の手段として、封印しておかないとな。


「確かに。レゾナの旦那、金貨20枚、受け取った」

「はい。キー様。それと、胡椒は、また補充されるのでしょうか?」

「……当面の分は確保してあるんだけどな。無くなっちまえば補充する事になると思うけど……」

「おお、その際には、是非とも私めにお売り頂ける分も合わせて補充して頂く事は出来ますでしょうか?」

「ああ、大丈夫だぜ。補充する時は、レゾナの旦那へ売る分も考えておくよ」

「おお、有り難い。是非とも、宜しくお願いを致します」

「ただし、ただしだぞ。次はアズマ国から運んで来てもらうんだから、時間もかかるし運搬費用もかかるから、今回の値段じゃ売れねぇかもな。それだけは、了承しておいてくれよ」

「……はい。そうでしょうな。今回が、特別と言う事、肝に銘じて起きます。ですが、他の商人へ売る前に、是非とも私めへ最初にお声掛けください」

「ああ、これからも色々と世話になるから、持ちつ持たれつと言う関係で宜しくな」

「はい。宜しくお願い致します」

「で、一つ聞いて置きてぇ事が有るんだけどよ。屋台の営業許可って、この商業ギルドで手続をするんかい?」

「はい。市場で商いをする露天商や屋台は、必ず商業ギルドで登録が必要でございます」

「やっぱりな。営業許可って、申請は大変なのか?」

「いいえ、商業ギルドへ登録されている方であれば、簡単でございますよ。キー様は、ギルドへの登録はされておられるのですよね?」

「どうなんだろ……。おい、レイ。お前、知っているか?」

「わたしと、ご主人さまは、アズマ国で登録済みです。身分票は、商業ギルドで発行してもらったのですよ」

「ああ、この身分票は、商業ギルドの発行だったのか。となると、後は屋台の営業許可申請だけだな」

「そうですね。でも、あの市場って、夜はどうなんでしょうか?」

「夜でございますか。市場は日没と同時に露店も屋台も引き払います。ああ、キー様の屋台は、あの明るい魔法の光を発しておりましたな。なるほど、夜の営業となると、場所は限られてしまいますな……となると少し、厄介かもしれませんな」

「厄介?」


 何やら、ラーメン屋台の営業に、暗雲が立ち込める言葉をレゾナが言い放った。







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