第19話 1-16 商業ギルド

 露天の看板娘に教えてもらった商業ギルドの場所は、思った以上に市場からは近かった。

 40分ほど、城門から続いている広い通りを歩いて行くと、大きな石造りの建物が見えて来る。

 建物は、五階建てみたいに見えるけど、ちゃんとしたガラスの窓もあって、立派な建物だ。

 商業ギルドの入り口の大きな扉を開くと、まるで銀行の様な窓口が沢山並んでいて、窓口の奥には美人揃いの受付嬢が居る。

 それぞれの窓口には、此処でも行列が出来ていて、やっぱり並ばないと駄目みたいだ。

 どの行列も似た様な人数だったので、何処でも良かったんだけど、窓口の受付嬢が、一番綺麗な行列に並んじまったのは、やっぱり男の性か。


 三人で並んでも無駄なので、レイとポチットは、ロビーの様な所にあった椅子に座らせて待たせる事にする。

 行列の流れは、想像以上に早く流れて、15分程で俺の順番になった。

 窓口の綺麗な受付嬢は、俺の顔を営業スマイルだろうけど、ニコニコしながら言う。


「いらっしゃいませ。今日は、どの様な事で、お出でになられたのでしょうか?」

「えっと、俺の名前は、コータ……コータ・キーって言うんだけど、此処で商人のレゾナさんと会う約束をしたんだけど判るかな?」

「キー様ですね。少し、お待ち下さいませ」


 受付嬢は、そう言うと窓口の席から立ち上がり、後ろの方の事務の娘さんが居る方へ行き、何やら話しをしている。

 そして、直ぐに窓口まで戻ってきて、またもや営業スマイルを浮かべて言った。


「キー様、お待たせしました。レゾナ様が、二階の7番会議室でお待ちですので、唯今、係の者がご案内を致します」

「ああ、良かった。ちゃんと待っていてくれたんだ。それじゃ、案内を頼むよ」

「はい。あちらの入り口へどうぞ」

「どうも。あっ、連れも一緒で大丈夫かな?」

「もちろんでございます。ご一緒にどうぞ」

「どうも、有り難うな」

「どういたしまして。またのご利用をお待ちしております」


 受付嬢は、最後まで営業スマイルのまま、俺を見送ってくれる。

 うん、笑顔はプライスレスで、最高のサービスとは良く言ったのものだ。

 特に、美人の笑顔のサービスは、心を和やかにしてくれるけど、時として高いものに付く事も俺は知っている。

 まあ、此処はそんなサービスの店じゃねぇから、心配は無用だけどな。

 その手の店じゃ、プライスレスどころか、ぼったくられるのが判りきっている。


 俺は、受付嬢に言われた入り口へ向かいつつ、レイとポチットを手招きして呼び寄せる。

 大声を出して呼び寄せるのは、流石にはばかられる場所なので、手招きだけだ。

 レイとポチットは、俺の方を注視していたらしく、俺の手招きに直ぐ気がつき、俺の方へと走り寄って来た。

 すると、入り口へ先ほど受付嬢と話しをしていた事務員の娘がやってきて、頭を下げてから俺に言う。


「キー様、レゾナ様がお待ちの会議室まで、ご案内いたします」

「あ、よろしく」

「では、此方へどうぞ」


 事務員の娘は、入り口のドアを開けると、そのまま奥へと歩いて行き、階段の昇って行く。

 俺とレイ、ポチットは、彼女の後に続いて、階段を上って行き二階へ行くと、そこは廊下の両側に幾つもの扉があり、どうやら全てが会議室というか、打ち合わせ用の部屋らしかった。

 事務員の娘は、廊下を歩いて行き、何個目かの扉の前で止まり、ドアをノックしてから言う。


「レゾナ様、キー様がお見えになりました」

「おお、早かったですな。どうぞ、お入りください」


 事務員の娘がドアを開くと、部屋の中には応接セットのソファーが有り、そこにレゾナと従業員のバイソンが座っていた。

 俺達の姿を見ると、レゾナとバイソンはソファーから立ち上がって、「ようこそ、商業ギルドへ」と言って、俺達を出迎えてくれる。

 そして、俺達もソファーに座る様に言ってから、自分達もまたソファーへ座った。

 事務員の娘は、そのまま「では、失礼します」と言ってから、部屋を出て行く。


「キー様、直ぐに商業ギルドの場所は判りましたかな?」

「ああ、市場で尋ねたら、直ぐに教えてくれたから、迷わずに来られたよ」

「おお、市場へ行っておられたのですか。何か、面白い物はございましたかな?」

「食材関係は、色々と有ったけど、知らない食材も多くて驚いたな」

「そうです、あの市場は庶民向けの市場ですので、安価な食材が多いのですよ。貴族様向けの市場だと、より高価な食材も売られております」

「成る程、それで米も無かったのか」

「米でございますか。そうですな、米は庶民にとっては高価なため、あまり庶民は食しませんな」

「やっぱりな。レゾナの旦那は、主に何を商っているんだい?」

「何でも商っておりますが、主に貴族様向けの商いを行っております」

「ふーん。それでブルーバード家へも出入りしてたって訳か」

「そうでございます。さて、早々でございますが、例の胡椒の取引をさせていただきたいのでございますが……」

「ああ、良いよ。レイ、出してくれ」

「はい、ご主人さま」


 昨晩、屋台をレイの収納へ仕舞い込む際、業務用の胡椒缶だけ、レイの背負っているリュックへ移しておいたのを取り出してもらった。

 420g缶なので、かなり大きい缶だけど、重さはそれ程でも無いので、レイも重くは無かったろう。

 もっとも、レイは電動アシストが効いている様なので、多少重くても問題はないみたいだ。


「ほんじゃ、これな。中身を確かめてくれ。少しだけ使っているけど、多分400gは有ると思うから、重さも確かめてくれ。缶はサービスするよ」

「おお! これが全て黒胡椒とは……。しかも、この鉄の缶は美しい塗装までしてありますな。いや、珍しい加工を施した缶ですな。私めも初めて見ました」

「蓋の部分が良くできていて、中身が湿気ねぇ様になっているんだよ。だから、別の容器に詰め替えたりすると、湿気やすくなっちまうから注意してくれ」

「な、成る程。蓋の部分は、見たこ事もない素材ですな。何と言うのでしょうか?」

「何だっけかな……。プラスチック? いやビニール? 済まねぇ、俺も良く知らねぇんだ」

「いや、いや、構いません。それで、買い取り価格なのですが……」

「レゾナの旦那の言い値で構わねぇよ。王都まで馬車で乗せてきてもらった分も、さっ引いてもらって構わねぇからな」

「いや、馬車は美味しい夕食を頂けたお礼ですので、お気になさらずに。それでは、これから中身を専門の鑑定人に確かめさせて頂きますが、20グラムで1枚と言う事で宜しいでしょうか?」

(一枚って、銅貨かな? それも中世ヨーロッパじゃ、胡椒は高価だったて事だから銀貨かもしれねぇな……)

「ああ、それで良いよ。重さも確かめてくれ。缶の重さも鉄だから、それなりに有るからな」

「おお、有り難うございます。こんな上等の胡椒なので、1枚じゃ安すすぎると言われてしまうかもしれないと思いました」

「旦那の言い値で売ると言ったんだから、それで良いよ。男に二言はねぇさ」

「はい、それでは、早速に鑑定人を呼んで参ります。おい、バイソン」

「はい、ご主人様。少しお待ち下さい。呼んで参ります」

「頼みましたよ。他に、キー様、何かございますかな?」

「何でも買い取ってくれるのかい?」

「品物にもよりますが、私めでは無く商業ギルドの買い取りであれば、どんな物でも買い取り出来ますが」

「それじゃ、これも買い取って欲しいんだ」


 俺は、シルビアから渡された盗賊団の持ち物を、此処で換金する事にした。

 俺が持っていても、何の役にも立ちそうもねぇ武器や装備ばっかりだったので、正直言って邪魔だったんだ。

 俺は、レイの収納から出してもらった、奴隷商人の持ち物だった収納鞄の中から、邪魔臭い剣や装備を取り出す。

 それらを収納鞄から取り出すと、収納鞄の重さが一気に軽くなった。

 どうやら、レイの収納と違って、収納鞄は中身の重さが軽減されるだけで無くなる訳じゃねぇみたいだ。

 また俺は、新しい発見をしてしまったと思っていると、ドアがノックされて商業ギルドの鑑定人とやらが来た様だった。







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