第17話 1-14 昼食

 ポチットが、肉を焼く匂いの方へと歩いて行くのを見失わない様に、俺とレイはポチットの後を追う。

 人混みの中を少し歩いて行くと、広場の様な空き地の周囲に、屋台が無数の集まっており、やっと俺にも肉を焼く匂いが漂っているのが判った。

 どうやら、此処は屋台が中心に商いをしている場所らしい。

 既に、昼時は大分過ぎているのだが、かなりの人数が屋台の前に並んでいる。

 さて、何処の屋台にするか、迷ってしまうぜ。


「ポチット、お前の一番、良い匂いだと思う屋台へ行こう」

「は、はい。では、肉を焼いている屋台で、一番美味しそうな匂いのする屋台は、あそこの屋台です」

「そうか、かなり人が並んでいるな。良し、それじゃ彼処にしようぜ」


 俺は、ポチットの鼻を信じて、屋台の行列の最後尾へ並んだ。

 どうやら、串に肉を刺して、炭火で焼いている様で、確かに美味そうで香ばしい匂いだぜ。

 待ち行列は、直ぐに俺達の順番に回ってきたので、どんな肉なのかを観察する。

 見た目は、一回り大きな焼き鳥の様な感じで、串に4,5個の肉塊が刺さっており、それをこんがりと焼いただけみたいだ。


「おばさん、この肉は何の肉なんだい?」

「ああ、走鳥の肉だよ。油も多くて美味しいよ」

「走鳥? ふーん、一本幾らだい?」

「1本、錫貨12枚だけど、10本なら銅貨一枚だよ」

「そうか、それじゃ、10本くれ」

「兄さん、気前が良いね。はいよ、どうぞ」

「どうも。そんじゃ、銅貨一枚な」

「毎度ありがとうね」


 どうも、貨幣価値が判らねぇ上に、知らねぇ鳥の名前まで出されちゃ更に判らねぇぜ。

 まあ、ポチットに聞いてみれば良いか。

 しかし、10本は買いすぎちまった気もするが、貨幣価値を調べるには、まず銅貨一枚が、日本円で幾らに相当するかを確かめるのが先決だ。

 でも、銅貨の下に錫貨があるとは、またまた新しい情報だぜ。

 おばさんは、串に刺さった焼き肉を、何だか判らねぇ大きな葉っぱに包んでくれて、俺に渡してきた。

 その葉っぱの包みを持ち、俺はレイとポチットの待っている所へ戻る。


「待たせたな。焼き肉、買ってきたぞ。10本で銅貨一枚だったぜ」

「ご、ご主人さま。10本もお買いになられたのですか?」

「ああ、何でも一本、錫貨12枚だけど、10本なら銅貨一枚に割り引きだったからな。さあ、みんな食え」

「ご主人さま、立って食べるよりは、彼処の木陰で頂きましょうよ」

「おっと、そうだな。そんじゃ、彼処が良いかな」

「そうですね。行きましょう、ポチットちゃん」

「は、はい」


 俺達は、レイの指さした木陰まで行き、そこに腰を下ろしてから葉っぱの包みを開いた。

 香ばしい焼き肉の匂いが食欲をそそるが、どんな味の肉なのかは、さっぱり判らねぇ。


「さあ、食え。ポチット、遠慮するなよ」

「は、はい。こんな高級な串焼きのお肉は、滅多に食べられません。いただきます」

「いただきます」


 串に刺さった肉を食ってみると、肉汁が口の中に広がり、油の甘みがしてくる。

 塩胡椒をしていねぇ焼いただけの肉なのに、肉の旨みが強いので美味いぜ。

 この肉を、ちゃんと料理してやれば、更に美味いだろうな。

 おばさんが言っていた、走鳥というのが、どんな鳥なのか判らなかったので、ポチットに尋ねてみた。


「ポチット、この肉は走鳥って言われたんだけど、どんな鳥だか知っているか?」

「は、はい。走鳥は、草原に住んでいる飛べない鳥で、とっても早く走る大きな鳥です」

「ふーん、ダチョウみたいな鳥かな……見た事ねぇから判らねぇけど」

「でも、美味しい肉ですね、ご主人様。塩を少し振れば、もっと美味しいと思いますけど」

「そうだなあ、塩胡椒すれば、もっと美味くなるだろうな」

「あ、あたしは十分に美味しいと思います……」

「ポチット、もっと食え。遠慮するなよ。俺は、3本も食えば十分だからよ」

「私も、同じで3本頂きますから、ポチットちゃんは4本ね」

「よ、宜しいのでしょうか? 奴隷の分際で、ご主人さまよりも多く頂いて」

「気にするなよ。食え、食え、どんどん食え」

「は、はい。ありがとうございます。では、いただきます!」


 日本の焼き鳥よりも一回り大きい肉の塊だったので、3本も食えば十分だし、他の屋台も美味そうなものがあれば食ってみたかったしな。

 ポチットは、嬉しそうに走鳥の焼き鳥を、平らげていく。

 一本、串を食べ終わると、「走鳥の焼き肉なんて、年に数回しか食べる事が出来ませんでした」と言い、次の串に手を伸ばす。

 更に、次の串を食べ終わると、「一家三人で、一本の串を分けて食べていました」と、悲しい過去も語る。

 本当に、ポチットの家は、貧しかった様だぜ。


「さて、次は何を食ってみるかな?」

「そうですね。わたしは、何か甘い物が食べてみたいです」

「そうか、食後のデザートも良いな」

「えっ、未だお食べになるのですか?」

「当然だろ、ポチット。焼き鳥3本、4本で昼飯終わりとか、悲し過ぎるだろうが」

「……あ、あたしは、一日分の食事と言われましても、全く不思議ではありません」

「ポチット、正直に言え。まだ満腹じゃねぇよな?」

「……は、はい」

「よし、じゃあ次の屋台を探そうぜ。次はレイが探せ」

「はーい。お任せ下さい」

「……お前だけに任せると不安なんだよな。ポチットの意見も聞けよ」

「……判りました。ポチットちゃん、何か甘い果物とか知らない?」

「く、果物なら存じております」

「そう。それじゃ探そう」

「は、はい」


 レイは、ポチットの手を取り、再び屋台の方へと行く。

 俺は、此処で待っている事にして、レイには銅貨を一枚だけ渡した。

 この焼き鳥の価格からすれば、果物なんて同じか、それ以下だろうからな。

 余ったら、レイの収納に入れて置けば良いし、野菜とか果物が収納できるかのテストにもなるから、好都合だ。

 本当は、ラーメンに似た麺料理があれば、それを食って見たかったのだけど、ざっと見回した限りでは、それらしき屋台は残念ながら無かったんだよ。


 取り敢えず、焼き鳥の価格から判った貨幣価値は、焼き鳥一本が、錫貨幣12枚で、10本だと銅貨一枚になるって事だ。

 と言う事は、錫貨幣が100枚で銅貨一枚に相当する訳だから、焼き鳥一本が日本と同じ120円位だとすれば、錫貨10枚が百円程度って事になるな。

 となると、銅貨一枚が1000円相当になる訳で、銅貨が何枚で銀貨になるんだろうか。

 仮に銅貨10枚が銀貨一枚だとすれば、グロリアやレゾナが、俺のラーメン一杯に銀貨一枚分の価値が有ると言っていたけど、俺のラーメンに一万円を支払ったって事になっちまうぜ。

 やはり、貴族や上流階級の商人の価値判断は、参考にはならねぇな。


 グロリアが支払ってくれた宿屋の料金も、聞いておけば良かったぜ。

 まあ、今更だから悔やんでも仕方がねぇけどな。

 俺がこの世界の通貨価値を日本円に換算していると、レイとポチットが戻ってきた。

 二人とも、大きな葉っぱの包みを抱えていて、どうやらお目当ての甘い物か、果物を買ってきた様だ。

 さて、どんなデザートが食えるんだろうか。


「ご主人さま、お待たせなのです。美味しそうな果物がありましたよ」

「そうかい、早速、食わせてくれ」

「はい、ポチットちゃんが食べた事のある果物にしました。どれも甘いそうです」

「こ、この果物は、森の中で取れるので、あたしも食べた事があります」

「なら、大丈夫だろうな。さあ、みんなも食え」

「「はい。いただきます!」」


 レイとポチットが、抱えていた葉っぱの包みを開くと、皮が剥かれてカットされた果物が

数種類入っていた。

 原型が判らないので、どんな果物なのかも不明だが、見た目は林檎や梨の様なものから、バナナの様な細長いものまで、色々な種類の果物が混じっていた。

 レイが最初にカットされた果物を口に放り込むなり、「甘いです~」と喜んだ。

 そして、ポチットも別のカットされた色違いを食べると「お、美味しいです!」と笑う。

 俺も、どれを選んでも甘そうだったのだけど、一番甘そうな赤い果物を口へ放り込み、かみしめた。


「うっ、酢っぺぇー!」






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