第16話 1-13 市場

 わざわざ商業ギルドの場所を聞きに、グロリア達の居る警備宿舎まで戻るのも面倒なので、そのまま王都の観光へ行く事にする。

 まあ、商業ギルドって事は、それなりの組織なんだろうから、商人に聞けば教えてくれるだろう。

 俺は、レイとポチットを従えて、王都の街を歩き始める。

 それにしても、流石に王都は、人が圧倒的に多くて、賑やかだ。


 そして俺は、有る事に気がついた。

 それは、街を行き交う人々なのだが、圧倒的に女が多いのだ。

 日中なので、男は仕事で街中をぶらついたりは、していねぇのかもしれねぇけど異常な位に女ばかりだ。

 更に、その女達が、若い女ばかりときたもんだ。

 これって、少し、いや多いに変じゃねぇのか。


 しかも、その若い女達は、誰も彼もが髪の毛を長く伸ばしたロングヘアーばかりなのだ。

 中には、長い髪を束ねてたり、頭の上に盛っている女も居るが、殆どは背中へこれ見よがしに長い髪を流していやがる。

 何なんだろうか、この見た事もねぇ異常な情景は。

 俺は、気になって駄目とは判っていたが、レイに尋ねてみた。


「レイ、なんか、やたらと女ばかりが目につくんだけど、お前なんか知っているか?」

「そう言われてみれば、確かにそうですね。しかも若い女性ばかりが目立ちますね」

「お前も、やっぱり知らねぇのか」

「はい、判りません。ポチットちゃんは、知っているの?」

「は、はい。ご主人さま、レイさん。男よりも女の方が多いのです。どこの街や村でも同じです」

「女の多い世界なのか?」

「は、はい。ご主人さま。女は、男の倍生まれやすいと聞いています」

「倍か……、そうすると、6、7割が女で、男は3割ちょっとって事だな」

「そ、そうです。そして、結婚してない女は、既婚者との区別のために、髪を切らないのが習慣となっています。髪を短くしているのは、既婚者の女です」

「なーるほどな。そりゃ、女も大変だなあ」

「でも、地位や財力の有る男は、沢山の嫁を持ちますので、大変なのは男の方かも……」

「なーにー! この世界、一夫多妻なのかよ!」

「は、はい。私の居た村でも、村長さんには3人の妻が居りました」

「くっ、なんて羨ましい……。俺なんて、かれこれ10年、彼女なんて居なかったのによ……」

「ご主人さま、そんなにモテなかったのですね」

「レイ、それは違うぞ。俺がモテなかったんじゃ無くて、仕事を覚えるのと、金を稼ぐのに忙しかっただけだ」

「ああ、成る程です。それは、中華そば屋を開店するためだったのですね」

「そうだぞ。だからお前だって、助かったんだから、感謝しても良いんだからな」

「……ご主人さま。是非、この世界で幸せを掴んでください」

「うるせえよ!」


 なんだか、惨めな気持ちになって来やがったんで、この話題はもう止めだ。

 それにしても、男女比が半々でなくて3対7とは、凄い世界だよ。

 この世界でモテなきゃ、もう男もお終いだな。

 確かに、言われてみれば髪の長い若い女が、俺とすれ違う度に、俺の方をチラチラと見ている。

 むふふふ、俺にもやっとモテ期が到来したんだろうか。

 更に、女達の美人係数も中々高いと来ているから、こりゃ楽しみだ。


 そんな淡い期待と妄想を抱きながら歩いて行くと、前方に活気のある広場が見えてきた。

 なんだ、フリーマーケットみたいな所かな。

 ちょうど良かった、この王都の物価や貨幣価値を調べるには、打って付けだな。

 直ぐに俺は、その広場へ向かって歩き始めた。

 だだっ広い朝市みたいなマーケットで、露天の小さな商店が沢山集まっている。

 しかし、半端無い人の数で、マーケットは混み合っており、こりゃ下手をすると、レイやポチットが迷子になってしまいそうだ。


「レイ、ポチット。混雑しているから、俺から絶対に離れるなよ」

「「はいっ、ご主人さま!」」


 また、二人の返事が、見事なハーモニーを奏でた。

 俺の後を、ぴったりとレイが、そしてレイが手を繋いでポチットが続いて歩いてくる。

 マーケットの混み合っていた入り口を過ぎると、人混みも少しだけだが少なくなって、歩きやすくなった。

 どうやら、このマーケットへ入る客と、買い物が終わって出る客が原因で、出入り口付近が混雑していたらしい。

 広場の中へ入って行くと、先ず目に飛び込んで来たのは、大量の服や布を販売している露天商だった。

 おお、丁度良かった。

 此処で、ポチットの服を買ってやろう。


 露天商には、服が大量に置かれていたのだが、どうもどれもが古びている。

 なんだこりゃ、全部古着かよ。

 それでも、破れていたりはしてねぇんだけど、見た目は中古と直ぐに判る服が殆どだ。

 そして、圧倒的に女物の服が多くて、さすが男女比が市場にも反映していた。

 まあ、探す手間が省けたから良いけど。

 俺は、ポチットの方を見て言った。


「ポチット、服を買ってやるから、どれでも好きなのを選べ」

「えっ! あ、あたしの服でしょうか?」

「当たり前だ。服の他に、下着や靴も選べよ」

「よ、よろしいのでしょうか?」

「大丈夫だよ、ポチットちゃん。好きなのを選ぼうよ。ご主人さまの気が変わらないうちにね」

「は、はい、あたし、服を買うのは初めてなので、良く判りません。レイさん、選んでいただけますか?」

「うん、それじゃ可愛い服を選んであげるね」

「お、お願いします」


 ポチット、お前、頼んだ相手が悪かったな。

 その駄目精霊だって、自分で服なんて一度も買った事なんか無いのだから。

 まだ、俺の方がずっとマシだぞ。

 俺は、レイが変な服を選ばねぇ様に、しっかりと監視した。

 まったく、女の買い物なんかに付き合いたくねぇけど、仕方がねぇよな。

 俺は結局、レイとポチットの服選びを、後ろからしっかりと見張る事になっちまった。


 それでも、30分ほどでポチットの服や靴は、全て買い揃えた。

 中古の服や靴ばかりだったけど、高いのか易いのか、全く判らない。

 殆どが銅貨での支払いで、唯一暖かそうなコートと靴でさえも銅貨での支払った。

 物価は、やはり安いのかもしれねぇけど、中古品じゃ判断出来ねぇかもしれねぇな。

 どれもが、俺のラーメン一杯よりも安いんだから、なんとも不可解だ。

 やっぱり、同じ食品の材料か、飯を食って比べるのが一番だ。


 ポチットは、嬉しそうに買った服の入った袋を抱えている。

 厚手のコートを買った露天で、大きな布製の袋をサービスでくれたんだ。

 きっと、外套の下では、尻尾が激しく左右に振られているんだろうな。


「よし、着替えは後でするとして、そろそろ昼飯を食う場所、探そうか」

「そうですね。わたしも、少しお腹が空いてきました。ポチットちゃんは?」

「あ、あたしは、朝ご飯を食べましたから……」

「何だ、朝と晩しか食わねぇのかよ」

「は、はい。家では、一日に一食か二食でしたから……」

「お前、未だ育ち盛りなんだから、ちゃんと今日からは毎日三食、必ず食わせてやるから遠慮するんじゃねぇぞ」

「は、はいっ! ご主人さま、ありがとうございます!」

「そんじゃ、飯を売っている屋台でも探そうか」

「ご、ご主人さま。あちらの方から、肉を焼く匂いがしてきます」

「えっ、そうなのか? 俺には何も匂わねぇけど。レイは?」

「わたしも、何も……」

「あ、あたし達、犬人族は、鼻が良いのです。人族よりもずっと……」

「ああ、そうだったか。犬の嗅覚って凄いからな。良しポチット、その匂いの方へ案内してくれ」

「はいっ! こちらです」


 嬉しそうな顔をして、ポチットは肉を焼く匂いのする方向へと歩き出す。

 俺とレイは、ポチットの後を人混みの中、はぐれない様にポチットの背中を追いかけて行くのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る