第15話 1-12 検問
俺達は、長い待ち渋滞をしている行列の脇を横目で見ながら、王都へ入るための貴族専用の城門へと歩いて行く。
しかし、長い行列だ。
それは、本当に連休の大渋滞を起こしている高速道路並みだぜ。
これが毎日の事じゃ、王都への出入りは苦痛だよな。
まあ、それだけセキュリティが高いのかもしれないが、ひょっとして王都へ入るには税金を徴収されるんじゃなかろか。
だとすれば、マジで頻繁に出入りは出来ねぇよ。
暫く歩いて行くと、やっと巨大な城壁の元まで着いた。
一般用の城門は、二列で検問をしている様だが、貴族専用門は誰も並んでいねぇ。
そのまま、グロリアとシルビアは、城門まで歩いて行き、俺達も後に続く。
すると、城門の中から騎士らしき警備兵が3人現れた。
男騎士が一人に、女騎士が二人だ。
「止まれ、何処の所属の者だ?」
「はっ! 王立騎士養成所、百合隊所属のグロリア・スカイラインです。卒業試練を終え、唯今戻りました」
「同じく、シルビア・ブルーバードです」
「おお、早かったな。お主達が最初の帰還者だ。ご苦労だったな。そして、おめでとう」
「「はっ! 有り難うございます」」
「では、身分票を調べる。用意せよ」
「「はっ!」」
グロリアとシルビアは、上官へ報告する様な口調で報告し、そして胸元の鎧を少しだけ開き、首に掛けているネックレスの様な物を取り出した。
そして、そのネックレスの先には、何やら革製のタグが付いていて、それを警備兵の女騎士が持っている、青い板へ当ててからそれぞれ、自分の名前を言った。
「グロリア・スカイライン。賞罰歴無し」
グロリアが自分の名前を言い、賞罰歴無しとか言うと同時に、青い居たが青く光った。
なんだ、あれは? タブレット端末みたいだけど。
「はい、スカイライン殿、お帰りなさい」
「ありがとうございます」
続いて、シルビアも同じ様に青い板へネックレスの先を当ててから、自分の名前を言った。
「シルビア・ブルーバード。犯罪歴無し」
「シルビアさん、お帰りなさい。怪我しなかった?」
「はい、お陰様で無事でした」
「そう、良かったわね。それで、後ろの方々は?」
「はい、途中で一緒になった旅人です。訳あって、一緒に王都まで参りました」
「そうですか。それでは、あなた方も身分票を準備してください」
警備兵の女騎士は、そう言って俺達の方へと近づいて来た。
なるほど、レイが渡してくれた身分票は、王都へ入るためのパスポートだったのか。
俺は、首に掛けていた革紐を取り出し、その先に付いていた革製のタグを手に持ち、それを警備兵の持っている青い板へ押し当てて名前を言った。
「えっと、コウタ・キイ。行商人で悪事なんて働いた事なんてねぇよ」
「はい、コータ・キー殿ですね。おや、アズマ国とは遠い国から……。おっと、失礼しました。ようこそ、王都トメマイへ。歓迎いたします」
女騎士の持っている青い板が光って、なにやら文字の様な記号が表示されたのが見えたけど、何が書いてあるのかさっぱりだ。
なにせ、俺は自慢じゃねぇけど、この世界じゃ文盲だからよ。
ただ、女騎士が言ったアズマ国という地名が気になった。
このアズマ国って地名、馬車の中でレゾナが口にした国の名前だぜ。
「アズマ……いや、歓迎ありがとう」
「続いて、そちらの方、どうぞ」
「はい。わたしは、レイです。犯罪歴など、もちろん有りませんです」
「はい、レイさんですね。遠い国から、ようこそ、王都トメマイへ」
レイも同じ様に青い板での検問が済んだところで、ポチットがおろおろと狼狽している。
いや、犬人族だから、犬狽って言うのが正しいのか。
すると、グロリアが、直ぐに助け船を出してくれる。
「その娘は、奴隷なので身分票を持っておりません。これより、その顛末を報告いたしますので、宜しいでしょうか?」
「あら、そうなの。それじゃ、報告を聞きましょう。お嬢ちゃん、怖がらせて御免なさいね」
「は、は、はい……済みません」
ポチットは、本当に怖かった様で、顔色が悪い。
それでも、青い板を持った女騎士は、笑顔で優しくポチットへ対応してくれた。
この女騎士、優しそうな感じだもんな。
会話の内容から察するに、シルビアとは面識がありそうな口調だったけど、貴族どうしの付き合いでもあるのかな。
「それでは、事情聴取を行いますので、皆さん警備宿舎へ同行してください」
「「はっ」」
「判ったぜ」
「はい」
「は、はい……大丈夫でしょうか?」
「案ずるな、ポチット。我らに任せておけ」
「はい! お願いします」
「うむ。では、参ろうか」
俺達は、警備をしている三人の騎士達の後に続いて、城門を潜って王都の中へと入って行く。
城壁は、想像していた以上に分厚くて、城門はトンネルみてぇだ。
城門を抜けると、王都の街並みが見えてくる。
そして、城門の直ぐ右側に石造りの建物があり、その中へと案内され中へ入った。
此処が、警備の騎士達が居る宿舎なんだろうな。
「キー殿と従者のレイさんは、この部屋で待っていてください。奴隷のお嬢ちゃんは、私達と一緒に来てくださいね。怖く無いから大丈夫ですよ」
「は、はい」
「ポチット、心配するな。グロリア達の言う事を聞くんだぜ」
「はい……」
俺とレイは、女騎士に言われた部屋へ入ると、そこは殺風景な部屋で、テーブルと椅子だけがある殺風景な部屋だった。
まあ、事情聴取じゃ、多少は時間がかかるだろうから、椅子に座らせてもらって待つ事にしよう。
椅子に座ると、俺はレイに尋ねた。
「レイ、二つ質問がある」
「何でしょうか、ご主人さま?」
「一つ目は、俺達の出身国が、アズマ国って言われたけど、それって、何処の国なんだ?」
「何処に有るかは知りませんが、神様が出身地として設定してくれた国みたいです」
「ふーん。実はな、馬車の中でレゾナが、俺の出身国を聞いてきたんだけどよ。俺は日本だって言ったんだけど、東の果ての島国は、アズマ国だろうって言っていたんだ」
「そうなんですか。それじゃ、きっとアズマ国って東の果てにあるんですよ」
「そうなんだろうな。そんじゃ、これからはアズマ国の出身って事で通すぜ」
「はい。それが宜しいですね」
「レゾナには、適当に言い訳をしなきゃな……」
「そう言うの、ご主人様は得意では?」
「うるせえよ。俺を詐欺師みたいに言うな。お前が前もって言ってくれてれば、問題無かったのによ」
「済みませんでした……」
「二つ目な」
「はい」
「お前の身分票だっけ、なんで、ちゃんとレイって名前が登録されてんだよ? お前に名前着けたのは、この世界に来てからじぇねぇかよ」
「ああ、それは神様が、名前が付いた時点で、身分票に登録してくれたのです」
「そうなんか。ケチ臭い神様のくせに、そういう所はちゃんとしてんだな……」
「はい。わたしには、とっても親切にしてくれる神様なのです」
「くそ……。俺にも、もっと親切にして欲しいぜ。ったくよ」
「
「僻んでねぇよ!」
本当に、この精霊と話しをしていると、イライラしてくるぜ、全くよ。
まあ、レイが居なきゃ、俺も路頭に迷う事になっちまうんだから、レイに親切な神様で良かったぜ。
俺とレイが、そんな話しをしながら待っていると、やがてグロリアとシルビアが、ポチットを連れて戻って来た。
「待たせたな、コータ殿」
「ああ。で、どうなったんだい?」
「案ずるな。無事に我々の思惑どおりになったぞ。そして、これが盗賊団を討伐した報酬だ。受け取ってくれ」
「報酬? 俺は、何もしてねぇぜ」
「何を申す。盗賊団を討伐しようとしたのはコータ殿で、我らは助太刀しただけ、そう申したでは無いか」
「……そうだったな。そんじゃ、有り難く頂いておくよ。礼は、何時でも二人は、ラーメン無料って事で良いかい?」
「それは、有り難いな。なあ、シルビア?」
「ああ、有り難いぞ。で、キー殿は、何処で屋台を営むのだ?」
「未だ決めてねぇけど、決まったら連絡するよ。何処へ知らせればいいんだ?」
「内壁の中にある貴族街だ。そこに騎士養成所があるので、百合隊のシルビアかグロリアを尋ねてくるが良い」
「へえ、王都の中に、また城壁があるんかよ。凄えな、王都は」
「一般市民は入れぬが、キー殿は家名持ちなので、検問も通過できる筈だ」
「ふーん。そんじゃ、商いする場所が決まったら、連絡するな」
「「うむ、頼んだぞ」」
「そうだ、それから、これがポチットを正式にコータ殿の奴隷とするための手続きを行うための紹介状だ。商業ギルドで手続きが出来るから、今日行った際にやってもらえ」
「おお、有り難うよ。助かるぜ」
「手続きの料金は、支払い済みだ。それと、これがポチットの臨時の身分票だ」
「何から何まで済まねえな。有り難いぜ」
「気にするな。我らが言い出した事だしな」
「それじゃ、俺達は行くわ。本当に有り難うな。また会おうぜ」
「うむ、早く屋台を開く場所を知らせるのだぞ」
「ああ、判った。そんじゃな」
グロリアとシルビアに礼を言って、俺達は警備宿舎を後にした。
ポチットな、何度も何度も頭を二人に下げて、「有り難うございました。ご恩は一生忘れません」と言ってたよ。
さて、まだ昼を少し回ったばかりだし、少し王都観光でもして懐も温かくなったんで、昼飯を何処かで食う事にしよう。
……しまった! 商業ギルドの場所を、聞くの忘れたぜ……。
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