第10話 1-7 夕食

 ラーメン屋台を商いモードへ変形させ、辺りが薄暗くなっていたので、直ぐに蛍光灯型LEDを点灯させる。

 白色の明るい光が、客側の折り畳み式テーブルと、調理台を明るく照らすと、それを見ていたグロリアとシルビアが、「おお!」と驚く。

 ポチットも両目を見開いて、眩しそうに蛍光灯型LEDを見つめている。

 どうだい、これこそが平成ジャパンの文明の光だぜ。

 ははははは……うんと、驚くが良い。

 俺は、ニヤっと笑い、コンロに点火してスープを温め始め、麺を茹でる為のお湯を沸かすため、新しい水を鍋に注ぎ込み、こちらもコンロに点火した。


 ラーメン屋台は、今日の昼に出したので、満載している食材も未だ痛みはしてねぇ。

 どうせ食材は、新たに屋台を取り出せば、新しく補充されるので、今夜の内に使い切ってしまいたい所だが、この人数では生麺を食い切るのはちょっと無理だな。

 保温ジャーに入れて有る飯もあるので、これも提供してやろう。

 生卵も有るので、チャーハンでも作ってやろうか。

 もちろん、普通の商いじゃ、チャーハンは出さねぇけどな。

 常連客でも出来たら、裏メニューにしてやろうかと思っているんだ。

 実際のところ屋台のコンロだと、少し火力が低いので焼き方にもコツがいるんだけど、それは十分に習得しているから問題はねぇ。


「グロリア、昼に食ったのと同じじゃ飽きるだろう。他の料理を食ってみるか?」

「コータ殿が勧めてくれる料理なら、何でも食すので気にしないでくれ」

「ふーん、判った。それじゃ適当につくるよ。ブルーバード姉さんは、どうする?」

「グロリアが昼に食した料理を所望したいが」

「判った。好き嫌いはねぇか?」

「特には無いが、生野菜は好かぬ」

「サラダは嫌いか。大丈夫だぜ。生野菜は一切無い」

「うむ、それは良かった」

「ポチットは、好き嫌いは有るか?」

「え、えぇっ、あたしにも頂けるのですか? は、はい、何でも食べます」

「当たり前だ。で、腹は空いているか? 正直に言え」

「は、はい、今日は朝に保存食のパンを頂いただけなので……」

「よし、判った。それじゃ沢山食え。遠慮するんじゃねえぞ」

「はい!」

「レイは?」

「わたしは、中華そばです。それに、ご飯を少し下さい」

「オッケー。ラーメン・ライスだな」

「いいえ、中華そばと、ご飯です!」

「相変わらず、こだわるな。まあ、良い。判った」


 俺は、鍋の湯が沸いたのを確認してから、生麺を茹で始める。

 それから、裏メニューの食材も茹で始め、ラーメン丼に醤油だれと刻みねぎをぶち込む。

 むっ、待てよ。

 ポチットは、犬人族だったな。

 葱は、大丈夫なんだろうか。


「ポチット、お前、葱は食えるのか?」

「ネ、ネギですか? 食べた事が無いと思いますが、どんな食材でしょうか?」

「これだ」


 俺は、そう言って刻んである葱をポチットへ見せる。

 ポチットは、鼻に葱を近づけてから、くんくんと匂いをかいだ。


「し、刺激臭の強い野菜ですね。食べた事が無いので判りませんが、野菜なら何でも食べます」

「そうか、まあ少量だから大丈夫だろう。食って具合が悪くなったら、ちゃんと言うんだぞ」

「は、はい。毒性があるのでしょうか?」

「いや、嫌いな奴も居るんで聞いただけだ」

「私は昼に食したが、薬味としては良い野菜だった」

「グロリアは大人だからな。子供は嫌いな奴が多いんだよ。まあ、大人の味って事だ」

「生だけど、ブルーバード姉さんも、少しだから大丈夫だよな?」

「うむ、不味ければ避けるから心配無用だ」

「あいよ」


 先ずは、麺と裏メニューの具材が茹で上がったので、それをみんなに出してやる。

 俺の分は、後回しだ。


「へい、お待ち!」

「コータ殿、スープは昼と同じだが、中の具材が変わったな」

「ああ、それはワンタンって言って、小麦粉の皮の中に肉が入っているんだ。レンゲですくって食ってくれ。ブルーバード姉さんのは、ラーメンだから……箸は使えねえんだろうから、フォークで食ってくれ」

「うむ、済まぬな。スープが熱そうだが、良い匂いだ。むっ! 何んだ、このスープは! 美味いぞ!」

「どうだ、シルビア、私が言ったとおりであろう。どれ、私もワンタンとやらをいただこう。熱っ! はっふぅ……うーん、美味いぞ、コータ殿」

「まあ、熱々をフーフーしながら食うんだ。今、主食を作ってやるからよ。ポチットもフォークだな」

「は、はい、お願いします、ご主人さま。レイさんは、棒の様なもので器用に食べていますね」

「中華そばをフォークで食べるなんて邪道……でも、箸でなくても美味しいよ」

「お、美味しいです! こんな美味しい料理とスープは、生まれて初めてです!」

「へへへ……そうかい、美味いかい。嬉しい事、みんな言ってくれるぜ」


 俺は、中華鍋を屋台の屋根の下の収納棚から取り出し、調理台の上のコンロで十分に暖める。

 そして、油を少し垂らして、煙が上がるまで待つ。

 十分に鍋が熱くなった所で、刻み葱を投入し炒め、次に刻んだチャーシューを多めにいれて、更に炒める。

 そして生卵を投入して、良くかき混ぜながら炒め始め始めると同時に、保温ジャーから暖かい飯を中華鍋に投入して、炒めた卵や具材と混ぜながら手早く混ぜて行く。

 飯がパラパラになるまで炒めるのだが、火力の弱いコンロだと十分に中華鍋を熱くしておかないと駄目だ。


 この炒める手順は、いろいろと有るらしいが、俺が師匠から教わったのは、火力の弱いコンロの場合には、この順番が良いと言われたんだ。

 コンロの火力が十分に強い場合には、痛める順番を変えた方が良いみたいだけどな。

 最後に、塩と胡椒、そしてラーメン用の醤油だれを少量加えて炒めれば完成だ。

 中華お玉へ出来上がったチャーハンを入れつつ饅頭形にして、皿へ盛りつける。


「あいよ、チャーハンお待ち!」

「これは、また美味そうな料理だな。これは、米か?」

「おお、グロリア、米を知っていたのか。そうだ、米を炊いてから、そして今見たいに炒める料理で、チャーハンって言うんだ」

「うむ、頂こう。おぉー、この料理も美味だな。米がこれほど美味いとは……信じられない」

「ワンタンとチャーハン、それにラーメンとチャーハンは、最高に相性の良い取り合わせだからな。どうだい、ブルーバード姉さん、チャーハンの味は?」

「……美味い。いや、美味すぎる。このラーメンか? 細長いパスタの様だが、全く食感が違い、美味な上、このチャーハンは、このスープとパスタと絶妙な組み合わせだ。うーむ、美味いぞ、キー殿」

「そうかい、気に入ってくれて何よりだ。どうだ、ポチット、美味いか?」

「は、はい! ご主人さま。このチャーハンと言う料理も、とっても美味しいです!」

「そりゃ、良かった。腹一杯食えよ。まだまだ、材料は沢山あるからよ。遠慮なんかすんな。お代わり自由だぜ」

「は、はい! で、ではチャーハン、もっと頂けますか?」

「良いとも、俺の分も作らなきゃだからな。グロリアとブルーバード姉さんは、どうだい?」

「「チャーハンとワンタンを頂こう」」

「あいよ、ちょっと待ってな」


 俺は、再びワンタンの種を茹で始め、追加のチャーハンを作り始める。

 今度は、俺の分も一緒に作る事にして、少しだけ味を濃いめに作り始めた。

 チャーハンもお代わりの二皿目は、味が少し濃い方が飽きが来ないんだよな。

 ワンタンのタネは、まだテスト中なので少ししか作って無かったんで、これで終わりだ。

 まあ、ワンタンなしの中華スープなら幾らでも作れるし、普通のラーメン屋だとチャーハンには、小さなお椀に中華スープってのが標準だけどな。

 そして、俺も自分の分のチャーハンとワンタンを食っていると、突然後ろの方から男の声が聞こえてきた。


「何やら裏庭が騒がしいと表に出てきてみれば、屋台での食事ですか。それにしても美味そうな料理ですな。宜しければ私共にも振る舞っては頂けませんかな?」






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