第7話 1-4 盗賊団
「仲が良いのだな。まるで兄妹の様だが……」
「違うぞ、商売の相棒だよ。店主と従業員の関係だ」
「成る程、それで一緒に旅をしているのか。何処まで行くのかな?」
「何処だっけ? レイ?」
「王都まで行きます。この街道で宜しいのですよね?」
「うむ、この街道を真っ直ぐ西に行けば、一日半程で王都へ着く。私も、これから王都へ戻らぬとならんので、一緒に参ろうではないか」
「そりゃ有り難いな。何せ、全く土地に不案内なんでよ、願ってもねぇ事だよ」
「そうか、それは良かった。此処からならば、日が沈むまでに王都手前の宿がある町へ着ける。一休みしたら、早速に出立しよう」
「判った。もう、飯や水はいらねぇかい?」
「うむ、もう大丈夫だ。少し休ませて貰えばな」
「それじゃ、屋台は片付けて移動出来る様にしちまうけど、水だけは出しておくよ」
「
俺は、ラーメン屋台を片付け、移動形態へと戻して行く。
水の入ったプラスチック製のボトルだけは出しておき、それをレイが背負っている鞄へ入れて貰う。
レイが小声で言うには、ラーメン屋台を改装した際、後部に作り直した引き出し付きの棚が、レイの姿に反映されており、それが背負い鞄になっているのだとか。
そう言えば、レイの髪の毛が濃い紫色っぽい黒に変わったのも、太陽電池パネルの色が反映した結果らしいし、来ている服や靴もどことなく屋台の特徴を持っていた。
マウンテン・バイクのタイヤをダブルで装備したので、レイの履いている靴は、かなりごつい編み上げ式の登山ブーツの様だしな。
グロリアと名乗った女騎士は、被っていた兜を頭から外すと、金髪の長い髪が流れ落ちる様に現れた。
調った顔立ちは、典型的な欧米系の堀の深い顔をしており、大きな瞳は青かった。
歳の頃は、見た目では20歳位かなと思ったが、女に歳を聞くとろくな事にならねぇので、大人の俺は聞きたくても聞かないぜ。
大抵、女は20歳を境にして、歳を気に仕始める様だからな。
触らぬ神に
俺達は、暫く休憩をしてから街道を西に向かって歩き始めた。
女騎士のグロリアは、兜を外したまま小脇に抱え、重そうな甲冑を着たままなのに、普通に歩いて行く。
俺は、ラーメン屋台を引きながら、あまり平坦では無い街道を、これまた平気な顔をして歩いて行く。
ふははは、電動アシスト付き屋台は、完璧だぜ。
さすがに、技術力には定評のあるオヤジさんの力作だ。
そして、小さい身体のくせに、レイも電動アシストの恩恵を受けて実体化した身体なので、涼しい顔をして歩いて行く。
「キー殿、その重そうな屋台を、苦もなく引いて歩くとは、かなり鍛えておるのか?」
「いや、俺は特に鍛えてねぇよ。それより、姉さんの方が凄いぜ。その重そうな鎧を着けて、平然と歩くんだからな」
「私は、日頃からこの姿で鍛えているからな。騎士として働くには、甲冑を来たまま乗馬もするし、走る事もせねばならんから、日々鍛錬をしているのだ」
「ふーん、凄えな。その腰に着けた剣も、重そうだしな」
「剣は、騎士にとって大事な必須の武器だからな。槍や弓なども使うが、剣が基本なのだ」
「良く切れそうだったもんな。俺には絶対、使えねぇよ。まあ、俺は包丁だけ使えれば用が足りるけどな」
「はははは、確かに料理人は、包丁だな。しかし、包丁であっても賊に襲われた場合には、武器にもなろう」
「賊? そりゃ、山賊とかが出るって事かい?」
「山を越す街道であれば山賊も出る。この街道でも宿場町から離れた場所であれば、盗賊も出るから注意せねばな」
「出るんか……盗賊が。俺の居た国じゃ、族と言えば暴走族くらいだったからな」
「ぼうそう賊? それはどんな賊なのだ?」
「……う~ん、説明が難しいが、そうだな、馬に乗って、やたら馬を大きな声で鳴かせながら、集団で夜中に走り回る馬鹿共だ」
「それは迷惑至極だな。そんな賊がおれば、我が騎士団が即刻、成敗してくれる」
「頼もしいな。俺の居た国じゃ、警察……いや警備隊が腰抜けでよ……。まあ、良いか。話しを戻すけど、その盗賊団ってのは、この街道にも出るんだよな?」
「出るとすれば、今向かっている宿場町の手前か、宿場町を出て王都までの間が出やすい様だ」
「もしも、出たらどうするんだい?」
「騎士団の使命としては、当然ながら成敗する」
「……姉さんが、一緒に居てくれて助かったよ。俺達二人じゃ、逃げるしか出来ねぇからよ」
「任せておけ。キー殿には、行き倒れになる寸前に助命して頂いたのだ。受けた恩は、必ず報いるのが貴族の勤めでもあるからな。しかし、キー殿よ。私の事を姉さんと呼ぶのは止めて頂きたいのだが。どう見てもキー殿の方が目上であろう」
「すまねぇ、客商売していると、ついついな。スカイライン殿と呼べば良いのか?」
「うむ。キー殿は命の恩人なので、グロリアと呼んで頂いて構わぬ」
「そうかい。そんじゃ、遠慮無く呼ばせてもらうよ。俺の事もコウタと呼んでくれ」
「そのコ・ウ・タと言う発音は、難しいな。コータ殿で良いか?」
「ああ、構わねぇぜ」
俺達は、そんな雑談をしながら、王都手前に有ると言う宿場町を目指し、街道をひたすら西へと歩いて行く。
すれ違う旅人が何人か居たが、徒歩の集団や馬車が何台か東へ向かって行った。
旅人の姿を見ると、服装は完全に映画に出てくる様な、中世ヨーロッパ風の出で立ちだったし、馬車も古風な木製の車輪を持った馬車だったぜ。
やはり、此処は天国じゃなくて、レイの言うとおりの異世界なのだろうか。
そもそも、若くて美人の女騎士が居る時点で、ここは異世界の様な気がしねぇでもねぇんだけどな。
そんな事を考えていると、突然グロリアが大きな声で俺達に言った。
「コータ殿、誰かが前方で交戦している。私は、先に行くので後から注意して来てくれ!」
「交戦? 判った。気を付けてな!」
「うむ」
グロリアは、そう言い残すと重い甲冑姿のまま、凄い早さで前方へ掛け出して行った。
前方を見ると、確かに誰か判らないが、グロリアと同じ様な甲冑を纏った騎士が、集団と戦っている様に見える。
俺とレイも、足を速めてグロリアの後を追う。
距離が近くなるに従って、戦っているのがグロリアと同じ様な女騎士なのが確認出来た。
そして戦っている集団は、見るからに悪党そうな髭もじゃの男達で、あれが山賊、いや盗賊団なのだろうか。
交戦中の集団にグロリアが近づくと、彼女は大声で言い放つ。
「シルビア! 助太刀がいるか?」
「おお、グロリアか? 良い所で会ったな。故奴らは、お尋ね者の盗賊団だ。お主にも手柄を分けてやるぞ!」
「心得た。手柄を私も頂こう!」
どうやら、戦闘中の女騎士とグロリアは知り合いの様だ。
グロリアは、腰から剣を抜き、むさ苦しい男共へと剣を振り抜いた。
剣が振り抜かれると同時に、男の腕だけが空中高く飛んで行く。
ええっ! 腕が切り飛ばされたぞ!
やっぱり、グロリアは危ねえ女騎士だったのかよ。
腕を切り飛ばされた男は「うがぁー」と叫び声を上げ、切断されて先の無くなった腕を押さえるが、腕の切断面からは激しい血飛沫が飛び散っている。
「……うっ」
俺は、吐き気を必死に押さえて、胃から込み上げて来る何かを必死に堪えた。
こりゃ、グロ過ぎる。
駄洒落を言う気分じゃねぇが、グロリアさんよ、グロ過ぎるぜ。
どっちかと言えば、俺はグロよりエロの方が好みなんだよ。
隣に居るレイも、涙目になりながら口を押さえて震えている。
そんな怖じ気づいた俺とレイを気にする事も無く、二人の女騎士は、次々と盗賊団らしい男達を次々と葬りさって行った。
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