第2話 0-2 令和のハイテク屋台
昭和臭が漂う年代物のリヤカー屋台の修復は、先ずリヤカー部分のレストアから開始した。
木製の屋台部分を取り外して、錆び放題だった鉄製パイプフレームの錆び落とし作業だ。
オヤジさんから、電動サンダーを借りて綺麗に錆を削り取り、次に電動ドリルにパフ・ヘッドを取り付けて、綺麗に磨き込んで行く。
細部に関しては、金属ブラシを使用しての手作業で、これが結構手間を食いやがる。
しかし此処で手を抜くと、再び錆びが発生してしまうので、念入りに作業を行う。
次に、錆止め塗料を刷毛で綺麗になったパイプへ塗って行く。
塗料が完全に乾燥するまでは、リヤカー部分の作業は出来ないので此処までだ。
次に、屋台部分の補修作業だ。
屋根を支えている支柱四本は、重量のあるソーラー・パネルの屋根を支えるために、より強度が高く軽量のアルミ製支柱へ交換した。
そして、継ぎ接ぎだらけで腐りかけている木製外装は、ホームセンターで購入してきた、耐水性合板へ改装だ。
折りたたみ式の分厚い一枚板のテーブルは、比較的劣化も少ないので、表面だけを
しかし、テーブルを支持している
屋台後部の引き出し付きの棚も、かなり酷い状況だったので、これも耐水性合板を用いて新たに作り直す。
同様に、屋台前部の棚も新しく作り直しだ。
調理台部分は、腐りかけていた調理台板を外して、これも耐水性合板へ変える。
そして、スクラップの山から探し出して来たステンレス製の流し台と調理台を流用して、耐水性合板全体を覆った。
衛生面を重視しないと保健所の許可が下りないので、こう言った配慮は重要なのだ。
此処までの改修作業で、もはや朽ち果てる寸前だったリヤカー屋台も、新品の様に再生されている。
我ながら、DIY作業はプロ並みに上手いなと自画自賛だ。
高校卒業後に、大工や鉄工所などのアルバイトをしてきた経験値の成果だと思う。
しかし、そろそろ昼時なので、腹も空いてきた。
俺は、社長の居る事務所へと行き、昼食を取る事にする。
俺が事務所に入ると、オヤジさんが開口一番、言いやがった。
「幸太、俺は中華そばで良いぞ」
「……何だ、待っていたんかい」
「当たり前だ。お前が居るのに、何で俺が昼飯を作らにゃいかんのだ」
「まあ、そのつもりで材料は持って来たから良いけどな。キッチン借りるぞ」
「勝手に使え。何時もの事だろうが。ああ、湯は鍋に沸かしてあるぞ」
「手際が良いこって。まあ、サンキューだよ」
俺は、慣れ親しんでいる事務所の奥に有るキッチンへと行く。
オヤジさんは、何年か前に奥さんを亡くしているので、俺が来ている間は、飯の支度も俺の役目だ。
既に、鍋の湯は沸騰しており、俺は持って来ていた生麺を鍋に放り込む準備をする。
ラーメン丼に、持って来た醤油垂れを入れ、朝方勝手に冷蔵庫へ入れて置いたパックを取り出し、詰め込んできた具材を用意し、スープを入れて来ている耐熱ボトルを電子レンジに掛けた。
スープが程よい暖かさになった頃を見計らい、中華生麺を沸騰している鍋に放り込む。
キッチン・グローブを手に填め、熱くなった耐熱ボトルのスープを丼へ注ぎ込み、取っ手付きの
パックに入れてきたチャーシューや葱、鳴門巻き、メンマ、ほうれん草をトッピング。
そして、最後に勝手にキッチンにある海苔を拝借して、トッピングする。
「社長、出来たぞ」
「今行く」
「さあ、食ってくれ」
「ズズーッ。美味いスープだな、間違いなく金子の味だ」
「当たり前だ。師匠に弟子入りして、やっとお墨付きを貰った味だぜ」
「うむ、麺の茹で加減も俺好みだ」
「少し柔らかめにしてある。俺のは少し固めだけど」
「しかし、金子の店は、何で再開発のフードコートに出店しなかったんだ?」
「ズズズ……。ああ、師匠が言うには、大手のチェーン店のラーメン屋が入るんだとよ。そんでもって、元々小さかった店は、フードコートの出店料が高すぎて、入れないんだと」
「ズズーッ。……そうか、それで店を閉めて隠居か」
「ああ、だけど、屋台ビレッジが新たに出来るんだけど、もう歳だから屋台は出来ねぇって事で、俺が出店権利を師匠から貰って、屋台でラーメン屋を出す事にしたって訳」
「そうか。まあ、頑張れ。この味が無くなるのは、俺も淋しいからな。ところで、このシナチク、少し硬いな」
「放送禁止用語だな。今はメンマと言えよ。ズズズ……」
「ふん、どいつもこいつも、中国の圧力で……。この中華そばだって、金子が始めた当時は、支那そばだったんだが、いつの間にか中華そばになっちまった」
「まあ、時代の流れだから、仕方ねぇよ」
「ふん。しかし、美味いな、この焼き豚」
そんな雑談を交わしながら、俺の作ったラーメンを二人で食った。
食い終わった後、俺は丼を洗い余った食材は、パックへ戻して再び冷蔵庫へ入れる。
どうせ、夕飯も今日は俺が作る事になるので、勝手に米を研いで電気釜へセットした。
電気釜のタイマーは、少し早めに炊きあがる時間にセットして置く。
夕飯は、余分に持ってきたチャーシューと葱で、チャーハンだ。
幸い生卵が冷蔵庫に入っていたので材料は揃っているし、スープも未だ大分残っているので大丈夫だ。
午後の作業は、オヤジさんも手伝ってくれる事になった。
久々に美味いラーメンを食わせてもらったからだと言うが、俺にとっては最高の褒め言葉だ。
そして、作業中の屋台部分とリヤカー部分を見て、オヤジさんが厳しい表情をして指摘した。
「これじゃ、他の物を積んだら重くてリヤカーを引いて動かすのは、相当キツイぞ」
「やっぱり、そうか。思った以上にソーラー・パネルやバッテリーが重かった」
「そうだな。これにプロパンガスのボンベや、スープの入ったズンドー鍋も乗せるんだろ?」
「ああ、水を入れたポリタンクも積むしな」
「……よし、電動アシスト式にしてやる。幸太、マウンテン・バイクから後輪を二個、外してこい。チェーンも忘れるな」
「電動アシスト? それって、リヤカーでも使えるんかよ?」
「俺に任せておけ。最近は、電動アシスト自転車のスクラップも多いからな」
「判った、社長に任せるよ。ほんじゃ、後輪を外してくるわ。スペアも有った方が良いかな?」
「好きにしろ。早く行け」
俺は、オヤジさんに言われたマウンテン・バイクの後輪を3個と駆動チェーンを素早く取り外して、リヤカー屋台の改修作業場所まで戻る。
オヤジさんは、電動アシスト自転車を分解しており、駆動用モーター等を取り出している真っ最中だ。
分解している電動アシスト自転車は2台で、それらの駆動メカニズムをリヤカーへ取り付けると言っている。
未だリヤカー部分は錆び止め塗装しかしてなかったのだが、駆動メカを取り付けた後に、もう一度分解して取り外し、必要な他のパーツの溶接をするので再度、塗装しろと言う。
スクラップ部品を、現物合わせで使用するのだから、それは仕方が無いか。
こうして俺は、屋台部分の改修作業と塗装などを行いながら、昭和臭が漂っていたゴミ同然だったリヤカー屋台が、平成・令和の技術を積み込んだ最新のハイテク・リヤカー屋台に蘇って行く過程を、オヤジさんと二人で楽しみながら修復作業を進めて行くのだった。
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