学校の怪談 昼間の幽霊

@wizard-T

学校の怪談 昼間の幽霊

 夜の学校ほど気味の悪い場所もそうそうない。学校の怪談と言うだけで一ジャンルが築けそうな程に存在する。

 しかし、それが昼間となると話は別だった。


「遊んで……遊んで……」


 3年前からこの5年2組の教室では昼間、給食の前後になるとそんな三十歳近い女性の声が響き渡る。最初は幻聴と片付けていた学校も、その症状がクラスの全児童に及んでいるのを見ると腰を上げた。

 いじめ自殺ではないのか―――そう教職員は考え、このクラスの児童たちの人間関係の調査、それ以前にこのクラスで授業を受けていた児童たちの問題を探し求めた。三十路ぐらいの女性と言う児童たちの言葉からすると二十年前か、そう考えて調べてみたが二十年前から前後五年間遡っても、誰一人かつての5年2組は死んでいなかった。その事実によりさらに混迷状態に陥った教職員の手により、ほどなくお祓いが行われることになるらしい。


「まったく、そんなもんが俺らのクラスに住み着いてたなんてよ」

「俺達の一体誰が何をしたって言うんだよ」

「なんだかんだ言って元気だよな、お互い」

 お祓いの話を聞いてなし崩し的に開催された同窓会。みんな、それなりに生きていた。一人も欠ける事なく集った5年2組のメンバーたちは、和気あいあいと酒を飲みながらしゃべり合い、そして食事を口に運んだ――――約一名を除いて。

「しかしさ、こうして集まるのは3年ぶりだよな」

「うんうん、あの時もまさかだったよな先生があんなに早く死ぬなんて」

「本当信じられないよね」

 3年前に自殺した、かつての担任教師。もしそれが5年2組の幽霊になっていたとしたら、この座の中心にいる人間はどう考えただろうか。そしてその幽霊の生みの親が、この中でのトップクラスの有名人であったとしたら。


 自らの単行本にサインを書いているOBにして人気漫画家は、作品にひとりの女教師を出演させた。休み時間でも教室や図書室に籠って本を読む事を好む一人の児童を、無理やり外に連れ出そうとする悪役として。彼のことを彼女が日夜自慢していた事を、彼は知らない。知っていたとしても、内容を変える事はなかっただろう、面白い漫画を描くのが優先なのだから。可愛い教え子がまっとうに仕事をしているだけなのに、勝手に失望して勝手に死なれてもとしか言いようがなかった。

「外で遊べ外で遊べってさ、そんなもん俺らの勝手だろ……」

 その漫画の主人公は、解決後にそう言い残している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学校の怪談 昼間の幽霊 @wizard-T

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ