第22話 東京デスゾーンⅩ 侵入

 倉庫は薄暗く、人気が無かった。棚には様々な工具や部品が置かれていた。地下要塞の構造は秘密のベールに包まれていた。ヒカルという少年がどこにいるのかは分からなかった。

「さあ、これからどうする」ケンが独り言のように言った。「独房のような所に閉じ込められているのかしら」「大事な人間なら、独房に閉じ込めたりしないのでは」ユウコの疑問にゼンが答えた。

「一つ一つ、部屋を調べていくわけにはいかない。誰かを捕まえて、口を割らせるしかない」アキラが意を決したように言った。「待って。あそこを見て」ユウコが指し示す方向に監視カメラがあった。

「監視カメラはあちこちにありそうだ」ゼンがポケットから銀色の物体を取り出した。

「これを身に着けてください。周囲の背景に溶け込み監視カメラをごまかすことが出来ます」

「こんないい物があったのなら、なぜもっと早く出さなかったんだ」ケンが責めるように言った。

「大きな声出さない」ユウコが唇に指を当てた。「この装置の閉鎖空間のような狭い範囲しか有効ではないからだ。それから声は遮断出来ない。これから先は会話は避けなければいけない」ゼンは円形の手のひらに収まる小さな装置を3人に手渡した。装置を起動すると確かに視界から消えた。

「確かにいい装置だが、味方が見えないのは困るな」「言い忘れていた。装置に付いている一番右のボタンを押してくれ」ゼンの言うとおりにボタンを押すと3人の姿が視界の中に現れた。

「さあ、行こう」ゼンを先頭にして、4人は無言のまま倉庫から次の部屋に続くドアに向かって、歩き始めた。アキラは監視カメラの他に熱を感知するセンサーが設置されていないことを祈った。

 倉庫の続きは作業員の部屋だった。ロッカーが並ぶ通路の奥から水の流れる音が聞こえてきた。シャワー室が並んでいた。閉まっているカーテンは一か所だけだった。ゼンとアキラはカーテンの左右に分かれ、シャワーを浴びている人物を捕縛する作戦だった。ケンが勢いよくカーテンを開けた。飛び込んだ2人は中が空だったことに唖然とした。人影に見えたのは壁にかかっていたバスローブだった。シャワー室を抜けた所にあったのは、休憩室だった。中央に机と椅子、壁際にはソファが置かれていた。この部屋にも人の気配が無かった。何かがおかしいとアキラは感じ始めていた。黙っていても全員の緊張感が伝わってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る