第19話 中国辺境Ⅶ 脱出

  ソルジャーは暗闇に目を凝らした。がらんとした格納庫の中央にヘリコプターが鎮座していた。壁際には様々な工具が並べられていた。ヘリのそばにはホースやケーブルが何本も転がっていた。格納庫には人の気配が無かった。不思議なことに荒らされた跡も無かった。

 アンは格納庫の一番奥にある部屋に入った。そこは修理部屋のようだった。ダイアナが椅子に座っている男に気が付いて声を上げそうになった。男はこちらには後ろ姿しか見えなかった。寝ているのか身じろぎもしなかった。ダイアナは男のそばに立って、今度は声を上げた。男は白骨化していた。ソルジャーはヘリの状態を調べていた。目立った損傷は見当たらなかった。

 アンは修理部屋のどこかから物音が聞こえたような気がした。鼠でもいるのか。何かもっと重い物が動く音のようだった。ダイアナも耳を澄ましていた。あの寄生生物がどこから現れても対応できるように銃の安全装置を外した。

「撃たないで」か細い声が床下から聞こえてきた。床板を外すと薄汚れた少女が現れた。長い髪は肩まで伸びていたが、服装同様に汚れていた。

「他に誰かいるの」アンがハンカチで少女の顔を拭きながら尋ねた。

「誰もいない」「あなただけなの」少女は頷いた。「この子はなぜ生き残れたの」ダイアナが言った。

「この狭いところに隠れていたからだろ」ソルジャーが答えた。「食料もある」床下に缶詰が見えた。

「とにかく、ここから早く逃げ出そう。燃料を入れるのを手伝ってくれ」アンは少女をヘリの後部座席に座らせた。少女の顔は青ざめ、震えていた。アンとダイアナはホースをつなぎ、燃料を注入した。

 格納庫の屋根は開閉式になっていた。すべての整備が終わる最後に開くことにした。物音に気付いた怪物や寄生生物に気付かれるのをなるべく遅くするためだった。ソルジャーがヘリのエンジンをスタートした時、ダイアナは屋根の開閉装置のボタンを押した。屋根が音を立てながらゆっくりと開いた。ヘリのローターの回転数が上がり、格納庫は轟音で満たされた。

「早く、早く」ソルジャーがつぶやいていた。アンは少女の震える肩を抱いていた。ダイアナは操縦席の隣で身を固くしていた。ヘリがふわりと浮いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る