第18話 東京デスゾーンⅧ 螺旋階段

 その螺旋階段はまるで底なし沼のように地下深く続いていた。アキラを先頭にして、ケン、ユウコ、ゼンが最後だった。点検用縦トンネル内には照明は無かった。階段の床に圧力センサーがあり、足が触れるとぼんやりと光るようになっていた。4人が進む場所は空中回廊のようだった。敵に気が付かれないように懐中電灯も使わず、無言のまま地の底に降りて行った。

 やがて、トンネルの底にたどり着いた。ここが地下要塞のどこなのか皆目分からなかった。

「ここは地下70メートルだ」アキラは深度の分かる腕時計型の装置を見て言った。

「5層構造の地下要塞は最深部が110メートルだから要塞の天井部分くらいか」

「換気装置の点検口だったら、途中にドアとかあると思うけど、何も無かった。おかしくないか」

「暗くて気が付かなかっただけじゃないのか」「本当は点検口じゃないのかもしれない」

「とにかく地下要塞への入り口を探すのが先決だ」円柱状の縦トンネルは頑丈なコンクリート製だった。懐中電灯で壁を子細に調べた。

「何も無いわ」「冗談だろ。ここまで来て、行き止まりかよ」ケンが叫ぶように言った。

「いや、必ずあるはずだ。これだけの物を無意味に作るはずがない」アキラはゼンを見ていた。

「ゼン、何か見つけたのか」「ここを見てくれ。少し汚れている」ゼンが指差す場所はわずかだが汚れているように見えた。

「こっちにも同じような汚れがある」ユウコが言った。アキラはゼンとユウコが指差す場所を交互に見た。「押してみてくれ」二人は同時に汚れの部分を押したが、何も起こらなかった。

「よく見ると指の跡が他にもある。一人でも両手を使えば押せる位置だ」ゼンが言った。

「二人で押すのではなくて、一人で押すのかもしれないわ」

「同時ではないのかもしれない。同時ではなく、押す指の順番まであるとなると厄介だな」

「これが鍵代わりだとすると単純ではだめだし、かといってあまり複雑だと覚えるのが大変だ」

「同時というのは逆に難しいから、右手の指を同時に押し、次に左手の指を同時に押してみる」アキラはケンの言うとおりに試したがダメだった。

「同時は難しいと言ったのは誰、右手の指も同時ではなく、人差し指から順番に押して、次に左手の指も人差し指から順番に押してみる」ユウコが言った。

「ダメだ。何も起きない」「じゃあ、左手でやってみて」アキラは今度はゆっくりと試した。こんなことをやっていて、本当に何かが起きるのかと疑いを持ち始めていた。するとコンクリートの壁にぽっかりと四角い穴が現れた。

「やった」ユウコが声を上げた。ゼンが唇に指を当てた。4人は声を上げずに喜びの表情を同時に浮かべていた。ゼンを先頭にぽっかりと空いた穴に入って行った。

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