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「そこのお前!」

「!」

声をかけると三笹木は俺を向くなり走って行ってしまった。

「え!ちょっと待てよ!」

足を止めた俺は再び三笹木を追いかけた、路地に入るとたちまちに追いつき、目の前の三笹木はその場でしゃがみこんでしまった。

「やっと、追いついた」

「や、やめて…」

「あれ?なんで怯えてんの」

「当たり前でしょ、怖がらせてどうするのよ」

後ろから思いもしないグーパンチを食らう。本当に俺と同じくらいの歳の人間か、と思う程重い拳に俺は膝をついた。

「な、にしやがる…」

「そんな形相で後ろから走って来られたら誰でも逃げるわ」

「そりゃそうだけど、こっちも俺以外に助かった人間がいてホッとしてるんだよ!しゃーないだろ」

「目の前のものしか追わないなんてボール遊びしてる犬かしら」

「なにい?誰が犬だよ!」

「あなたよ、ワンワン」

「…俺の怒りは誰にも止められねぇ…いい加減にーー」

俺が怒りをぶつけようとした瞬間、三笹木が震えた声を絞り出した。

「あの、あなたも、高校の久利高の生徒ですか」

「あ?ああ、自己紹介がまだだったわ。俺は音無竜真だ。お前と違うクラスだけど」

「なるほど、あ、三笹木真美です。あなたあの屋上の人だったんですね」

「え、知ってんの?」

三笹木はコクリと頷くと、ゆっくり言葉を続けた。

「ヤンキーで有名でしたから…なぜその方が私を知ってるのかなと」

「それは、勝手に不登校仲間だと思って俺が一方的に知ってたんだよ」

「え…」

三笹木は後ずさっていつでも逃げる準備をしていた。

「あなたそんなことで彼女を知ってたの?ストーカー?」

「ちっげえよ!不登校はみんなゲームやってんじゃねえかと思って友達になろうとしたんだけど、名前がわかんなかったんだよ!」

「ゲームしない…です」

「がーん」

俺の苦労はなんだったんだ、今日の事件からまさか同じ高校で被害を受けていないやつに出会って、不登校だからゲーム好きだと勝手に思っていた俺は…

「あなた、学校でなにがあったか知ってるんですか」

「え?まあ知ってるけど…お前もなんで助かってるんだ?」

「助かってる…かどうかはわかりませんが、あの、今日も休んでいたので」

目を合わさず、少し申し訳なさそうに俯いてしまった。

「あなた、なぜあの現場にいたの」

桃が三笹木を見つめ強い口調で語る。

「実は…みんなが消えたのは…私のせいなんです」

「あなたのせい?どういうこと?」

三笹木は口ごもり、俯いてしまった。誰かに伝えたかったけど、やはり言葉にするのが怖くなってしまったようだ。

「あー…お前のせいかはわからないけどよ、俺も三笹木も無事だったんだし良しとしようぜ」

「…ちょっと」

俺の後ろ襟を掴んで俯く三笹木から距離を取ろうとする桃に驚嘆した。

「なになに!急に引っ張るなって」

「彼女がゲネミーを呼び寄せたのかもしれないのよ。原因をちゃんと確認するべきでしょう」

「待てって。お前が怖がらせてどうするって言ったんだろ」

「う…」

「俺よりも頭良いんだから、桃が冷静になってくれねぇと俺が困る」

「いや、自分が頭悪いって認めてるじゃない…」

あれ、そういうことになるのか。だが女同士で話しやすいだろうし、この場は桃になんとかしてもらうしかなかった。桃はため息をついてもう一度三笹木に話しかけた。

「簡単な質問からしていくわね。いい?」

「はい…」

学校、学年、クラス、実家暮らし…ごく普通な質問をしつつ、目の前の女に打ち解けようとしていた。

「あなたはなぜ不登校なの?」

「…それは」

三笹木は俯き、しばらくすると顔を上げた。

「友達、だった人に会いたくなかった」

「だった?」

「…その周りの人も嫌いだった。全部私の楽しみを奪っていった」

「どういうこと?喧嘩したの?」

友達と喧嘩して、その友達がほかに友達を作ってしまった。それを見て自分の居場所を失ったと思ってしまった。学校に行く理由が「友達に会う」だった自分にとって、それが出来ないんじゃ学校へ行く意味がない、と三笹木は精一杯の言葉で続けた。

彼女の気持ちは察することができた。ただの軽い喧嘩でも、もう一度話せる勇気がない人は、ずっと気にし続けて疲弊してしまう。実際には居場所はまだあったかもしれない。ただ人とつながるというのは彼女には大きな壁となってしまった。

「だから私は夢に願ったの、『私の友達だけを返して』って」

すると上空から俺たちの背後に何が降ってきた。大きな音に気を取られ、それは俺に向かって攻撃してきた。

「こいつ、ゲネミーってやつ…かああああああ!」

こいつを有名なゲームで見たことがある。『スーパーARIO Bros.』に出てくるキノコの敵「ユーフォーガス」だ。「マッシュボー」と違って飛べたり、終いには主人公と同じく飛んで蹴りを出してくる。

「これ眼福だなぁ」

「感心してる場合?!三笹木さん、逃げるわよ」

「はい…え?」

三笹木は何かに気づき、今まで聞いたことのない大きな声で叫んだ。

「ミカちゃん!ミカちゃんよね?!」

「え?こいつ、人間?!」

「ミカちゃん!ミカちゃーん!!」

ボロボロと泣き崩れる三笹木をなんとかして逃がせようと桃は焦っていた。

「竜真、三笹木の言ってることが本当なら完全に倒しちゃだめよ。本当に人かどうか、私たちも知らなきゃいけないわ」

「そんなこと言われても…っと!」

ゲネミー・ユーフォーガスは突進攻撃をしてきたが間一髪で避けることができた。

「桃は早くそいつを逃せ!」

こくりと頷くと三笹木を連れて避難していった。

「さあ、おまたせ。始めようか」

俺はゲームライザーを左腕に装着し、「バトルファイターVS」のカセットを入れた。

「俺のゲームは誰にも止められねぇ!リアライズ!」

『リアライズ --バトラー・ヴァーサス--』の音声とともに俺の見た目が変化した。

ユーフォーガスは2足歩行のゲネミーで、ゲームと同じなら胞子を飛ばす攻撃と蹴りができる。頭にそのイメージを浮かべた途端ユーフォーガスが接近し蹴りを放った。

技をジャンプでかわし、距離を置いて観察する。

ゲネミーはゲームのイメージと違って大きく感じる。主人公と同じサイズで表現されていた敵は、現実世界でも成人男性くらいのサイズで現れるのだろう。

頭部を振り始めると胞子をばら撒き始めた。胞子は俺の身体に付着するとたちまち爆発した。

こちらも攻防を繰り返すが、攻めれば胞子攻撃、遠ざかっても詰められて一蹴される。せめて「遠距離攻撃ができれば」と思いながらゲネミーに取っ組みあいをかけた。

[…マ、マミ、ワタシ、ユメヲ、カナエテミセル…]

ボソッとゲネミーから声が漏れた。三笹木が取り乱したように、もしや本当に人間なのではないかと疑った。

[ピーピピピ!ギガガガガ!]

聞こえていた声はかき消され、体制を崩された。ユーフォーガスは高く飛び立つとどこかへ去ってしまった。

俺は変身を解除し、辺りを見回す。しかしゲネミーの様子は見れず、地面にはイルカのキーホルダーがあるだけだった。

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