Version Change 2-1

「お前すげえな!俺たち二人なら誰にでも勝てるぜ!」

ある同級生が言った。

「この部で一緒に全国目指そうな!」

ある先輩が言った。

初対面は疑心、徐々に親身になって手をの差し伸べてくれた。


「…何サボってんだよ」

背中を向け遠ざかる同級生が言った。

「期待を裏切りやがって」

ロッカーを殴る先輩が言った。

心の中でこの人は去らないだろうと思うほど、離れられた時に胸が痛くなった。


俺は楽しいと思ったことを全力でやった。誰かより強く、誰よりも上手に。そこには誰かの評価はいらない。目に見える範囲の成果を出すことが得意になった。

だから「誰かの期待」を受けると、全てを放棄してしまう。

人間それぞれ期待から生まれる評価が異なる。

その評価を求めてしまったら、俺は他人が望むような「そうあるべき人」になってしまう。

期待されるたび放棄しつづけて、その末に居場所がなくなった。

1人とその連れだけはなぜか俺を慕っていた。喧嘩に巻き込まれているところを助けただけだったが、そんなことに恩義を感じて周りの目も気にせず関わってくれた。

そんな彼らを救えなかった。俺を期待していたはずなのに、また放棄してしまった。


「なんとか逃げれたな」

「あの…」

「ん?なんだ」

「おろして」

「ああ、そうか、よいしょ」


謎の女の子、桃はポンポンとスカートをはたき、俺をにらんだ。

だが、徐々に顔を赤らめしゃがみ込んでしまった。


「死にたい…」

「そんなこと急に言われてもなぁ」

「あなたに言ってない…」

「そ、そうかよ」


俺、音無竜真はこの女と今まで起きた事に頭を抱えていた。


「まあ色々あったけど、助かったからいいんじゃねぇの」

「もしゲネミーが、あのまま学校に戻ってたらどうするの」

「そうか!!やべえ!どうしよ!」

「馬鹿…」

「じゃあもっかい学校いかねぇと、ほらまた抱えてやるから」

「…」

あ、もしかして。と思った俺は思わず口に出してしまった。

「抱えられたのが恥ずかしかった、とか?」

「…っ!」


ぐるっと赤い顔をこちらに向け怒っているのがわかった。なるほど、女の扱いは難しい。


「でもあの場で放ってはおけないだろ。今だって俺は学校に戻らなきゃいけねぇし、あのロボが襲ってくるかわからねぇし」

桃は、そうだけど、と視線を地面に落とすと沈んだ表情を見せた。


「私は逃げてしまった。ゲネミーに銃を打てなかった。身体が震えて、頭が真っ白になったわ」

すんと息を吸い、溜息をつくとまた話しだした。

「自分がカッコ悪いわ。倒さなきゃいけないのに手が震えて」

「まあそんなに悪く考えなくていいと思うけどな」

「なに」と棘のあるような言い方で応えた。

「完璧じゃなくても強さってのは前にしか進めないんだしさ」

「…完璧が1番に決まってるわ」

「そんなことねえよ。まだまだだなぁって時ほど自分が輝いて見えるもんだよ」

「誰の言葉よ」

「ゲームで学んだ」

「なにそれ」


桃は訝しげな表情で俺を見ていたが、少しスッキリしたようで、ストレッチを始めた。

「お、元気でたか?」

「別に悩んでないわ、それより行くんでしょ学校」

「ああ。もちろん」

桃は空中で何かを表示し、パソコンのキーボードを操作するように指を動かした。

「なにやってんだ?」

「なにって、学校まで行くんでしょ?ワープゾーンを開いているのよ」

「SFの話?」

「現実よ」


はい、と操作を終えると目の前に見慣れた装置が出現した。

「おお!ヴァーサスの『メット・ドロイド』のポッドじゃねぇか!」

「本来の使い方と違うけど、到着場所を学校付近にすればいけるわ」

すげえ、ゲームの中身が現実に見れるなんて!化学の力ってちょーすげえ!

「どこでもドアみたいなもんか」

「あんまり使いたくないのだけど」

ポッドの入り口には青い扉が付いていた。しかし強度は高く、簡単に入ることが出来ないようだ。桃が空に浮いたキーボードで操作をするとポッドの入り口が泡のようにぱっと消えた。

「…」

「なんだよ、急にこっち見て」

「こんなの見て驚かないの?」

「驚いてるよ。ゲームで見たのが実際にあるし。でも怪物と戦った後じゃ受け入れるしかねぇしよ」

「そう、肝が座ってるのね」

「いちいちゲームのルールを整理しながら遊ぶ方じゃねぇからな」

ここに入ればいいんだろ?と俺はポッドの中に入り、続けて桃が入ると扉は閉まった。

「あなたが見つかったら、もしかしたら今回の犯人として疑われるでしょう」

「いやいや、そんなの正直に言えばいいだろ」

「誰があの化け物の存在を信じるの。それにーー」

歩くの止めて俺に目を向ける。その時の桃は、怒っているわけじゃなさそうだというのがわかった。

「現実味がある方、自分が理解できる理想の事実を作る。それが人間よ、今のあなたみたいに」

言い返す言葉は、見つからなかった。俺がイサ公と理樹を助けたヒーローだと信じてくれる人間はいるだろう、という理想を作っているだけなのかもしれない。

「必ずしも事実と真実は一致するわけじゃない。受け入れられないものを受け取る必要はない。にしてもあなたは現実を受け入れすぎている」

…あれ急に何言ってるかわからなくなったぞ。たしかにヴァーサスに変身できたのは不明だったけど…

「とにかくわかった?!」

真面目なトーンから大きな声に変わり、俺は勢いよく首を縦に振った。

「とりあえず人前に出ない方がいいんだろ」

桃はうなづくと後ろにあった機械を操作し始めた。

「絶対よ。自分があの高校の生徒とか、ヒーローに変身できるとか、正体を明かすようなことはしないこと」

操作が終わると「あなたはあまりにも能天気だから…」と続けた。

能天気は悪口とは捉えていない。俺を表した便利な言葉だと思う。

「気をつけるよ」

「ならいいけど。準備完了よ。ーー転送」

起動音とともにポッドの中が振動する。壁面のモニターには青い光が下から上へと流れている。自分がフリーフォールでもやっているような感覚が1分続く。

「着いたわ」

「え、もう?」

「外には出ない方がいいわね」

そう言うと、桃はモニターに外の映像を表示した。

「なにこれ、どっから見てんの?!」

モニターは地上3mくらいの景色が表示されていて、学校とそれを見にきた近所の人たちが映っている。

「この人達も異変に気付いたようね」

それはそうだ。自分の家族や親戚、友人が夏休みが始まったにもかかわらず帰ってこない。

神隠しか、集団で誘拐されたかなんて話されるだろう。

「ん?救急車きたぞ」

「あれは…」

路地から救急車がサイレンを鳴らし校門前に止まる。救急隊員が学校に入るとたちまち担架に乗ったイサ公が見えた。

「イサ公!無事だったんだな」

「もう一人は、出てこないみたいね」

理樹があれから出てこず、救急隊員は探しているようだが、どうやら見つからないようだ。

周りのガヤも取り乱して顔を見合わせている。それから1時間も待ったが理樹が出てくる気配はなかった。

「どこ行ったんだ…」

「あいつらに連れていかれたのかもね」

「くそ!助けられなかったのか…」

「決まったわけじゃないわ。他の可能性もあるかもでしょ」

たしかに、理樹も同時に逃げた可能性だってある。しかし気を失っていた理樹がどうやって逃げるのか。やっぱり捕まってしまったんじゃないか…?

「もう少しだけ様子見ていいか」

「どうぞ」

せっかく戦う力を手に入れたのに、今こうして何も出来ず見守ることしか出来ない。この変身する力も怪物が相手でなければ発揮しない。

もしかしたらあの怪物が近くにいるかもしれないと一人一人の顔をチェックしていると、見知った女性が俯いていた。

「あいつは…」

不登校の生徒、三笹木という同級生。俺以外にも学校に来ない人間がいるというは聞いていたので興味はあった。イサ公の机からゲームを取り返す際にクラスの集合写真を発見し、その女子生徒が写真右上の窓枠に入っていたので覚えていた。

その女性は後ろを振り返って、足早に校門から去っていった。

「桃!あの女つけられるか?」

「そういう機能はついてないけど何かわかったの?」

「いいからビコウビコウ!」

「尾行ね。このポットは浮遊機能はあっても飛行機能はないわ。足で追うしかないわね」

そういうところは原作準拠なのかい。仕方がないので桃にポッドを着陸するよう伝えた。

「けど着地地点はさっきポッドに乗った場所。この辺だと容易に着陸出来ないもの」

「それでいい」

ポッドの中がまた青く光ると浮遊感が続いた。着地したのを見計らって俺は勢いよくポッドを出る。俺は何かの希望が三笹木にあるんじゃないかと期待していた。

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