第21話 地獄の一丁目
あれから1週間が経った。
他にも依頼を受けながら行方不明者に繋がる情報がないか探したが、特には出てこなかった。
警備隊の方も同じらしく、トーニョにアイル達が新しい情報がないかを何度か尋ねたが、いつも彼は申し訳なさそうに首を振る。
あまりの情報の無さに、アイル達は焦り始めていた。
しかし、今日は情報収集を諦めなくてはならない。
「……おお、あんたらが今日一緒に参加する冒険者パーティか?」
髭モジャの顔をした背の低い男性がアイル達に声をかけた。
今、彼らがいるのは例の森の前。
今日は、警備隊や他のパーティと共にゴブリンの古巣の調査に赴く日だった。
「はい。初めまして。僕はアイルファーと申します」
「私はクロノです。今日はよろしくお願いします」
二人は揃って先に来ていた人達に頭を下げる。
なお、今日はマオを連れてきてはいない。
流石に命の危険がある場所までついて行くつもりはないらしく、自分から宿の部屋で大人しく待つと言った。
ついてくると思っていたクロノは、ホッとしていた。
もしもの時、マオを気にかけながら戦うのは戦闘慣れしていない彼女達には難しいからだ。
……何かにつけてマオと喧嘩することが多い彼女だが、マオのことをそれなりに気にかけているらしい。
「おう、よろしくな。俺はこのパーティのリーダーをやってるボーダンだ。こいつらは俺の仲間達だよ」
ボーダンは後ろにいた三人の男女を指さした。
うち二人はどちらもまだ10代と思しき女性で、もう一人は30代半ばくらいの男性であった。
「初めまして。神官のリーバです」
「弓手のエルデよ。今日はよろしくね」
「斥候のキースだ。聞いたところによると、君達は今日初めて魔物と戦うかもしれない依頼を受けたんだって?」
キースと名乗った男性の言葉に、アイルは身を固くする。
「はい……ご迷惑おかけしてしまうかもしれませんが……」
「ああ、いや、責めているわけじゃない。ただ、俺がちゃんと偵察して安全を確保すると言いたかったんだ」
「キースは腕の良い斥候だぞ。こいつがいなかったら、俺は今頃どっかのダンジョンで死んでたぜ」
何故かボーダンが自分の事のようにドヤ顔をする。
それを聞いたエルデが皮肉たっぷりに言った。
「確かにキースさんがいなかったら単純な罠に引っかかってパーティ全滅してたかもね。どっかの誰かさんが考え無しに突っ込んでいくから」
「おいおい、そりゃあ俺のことを言ってるのか?」
「父さん以外の誰がいるっていうのよ」
「はー! 全く、可愛げ無くなっちまって。昔は『お父さんと結婚する!』なんて可愛いこと言ってくれてたのによ」
「そんなの小さい頃の話でしょ!」
「……お父さん?」
クロノは思わず、そう呟いていた。
その呟きを聞いていたリーバがクスリと笑う。
「エルデとボーダンさんは血の繋がった親子なんですよ。全然似てませんけどね」
「全然は言い過ぎだぜ。ほら、髪の色は同じだろ?」
「逆に言えば、髪色以外何も似てないのよね。私、顔立ちとかはお母さん似なの」
「へぇ。奥さん、美人なんですね」
クロノがそう言うと、今度はエルデがドヤ顔をした。
その顔はどことなくボーダンに似ていて、血の繋がりを感じさせた。
「ええ、そうよ! 私のお母さんは強くて綺麗な人で、色んな男の人に言い寄られてたんだって。何でお父さんみたいな人を選んだのかさっぱりわかんないわ」
「そりゃあ、もちろん、俺のかっこよさに惚れたからに……」
「リーダーなのに頼りなさすぎて心配だったからみたいだぞ」
「キースッ! それは言わない約束だろ!」
まるでコントのような一連の流れに、アイル達の緊張はいつの間にか解れていた。
「優しい人達で良かったね」
アイルがクロノの耳元でそう囁くと、彼女はコクリと頷いた。
「おっと、俺らの話ばかりしてすまねぇな。予定時刻よりちょっと早いせいか、まだ警備隊の方々は来る気配がねぇな」
「じゃあ、アイルファーさん達のことも聞いていいですか?」
「『アイル』でいいですよ。そうですね……答えられる範囲でしたら」
「じゃあじゃあ、お二人の関係について教えてもらっていいですか?」
「ちょっと、エルデさん。いくらなんでも直球すぎます!」
「別にそのくらいなら平気よ。私達は夫婦なの」
「「「「夫婦!?」」」」
ボーダン達は異口同音に驚きを顕にした。
「え、え? クロノさんってお幾つですか?」
「……14歳よ」
「アイルさんは?」
「えーっと……20歳です」
「この国って、結婚できるの16歳からじゃなかったっけ……?」
初めて知った事実に、アイル達はしまったと思った。
彼らは宿屋で夫婦と言った時、年齢については言っていなかった。
故に、その突っ込みを入れてくれる人がいなかったのである。
「……えっと、私達は遠い国から来たの!」
「そ、そうそう。そこだとクロノさん位の年齢で結婚できますから、僕達はその国で結婚したのです」
「なぁんだ、そうだったんですね。変な勘ぐりしてすみません」
「いいえ。私達の方こそ、誤解させるようなことを言ってごめんなさい」
そんな話をしていると、町の方から歩いてくる人の集団が見えた。
「お、ようやく警備隊の皆さんのお出ましだな」
その集団――統一された装備を身につけた三人組の男達――がアイル達の元へやってくる。
彼らはアイル達が今日の参加者であることを確認すると、手短に自己紹介を行った。
「早速で申し訳ないが、今から調査のために森に入る。動物もいない森とはいえ、油断せずに警戒しながら進んで欲しい」
「言われなくてもわかってますぜ。俺達は古巣に着いたら中に入って調査すればいいんだな?」
「ああ。我々は洞窟周辺を調査する。何かあればこの鈴を鳴らして欲しい」
今日の調査の責任者だという警備隊員が、ボーダンに小さな鈴を渡した。
「それは『警戒の鈴』と言って、2つで1組のマジックアイテムだ。片方が危険に見舞われた際、それをもう片方に伝える代物だよ」
「そりゃ便利だな。つまり、魔物に襲われたらこれを鳴らせと?」
「ああ。我々が魔物相手に勝てるとは思わないが、救援要請も行うし、多少は力になれるだろう」
「そんな弱気でどうすんだ。そんなんじゃお前達が魔物と出会ったら瞬殺だぜ?」
「ちょっとリーダー。それは言い過ぎだ」
「……いや、そうかもしれない。助言感謝する」
「ま、あんたらが襲われてたら俺達が助けてやるから安心しな」
そうして、彼らはゴブリンの古巣へ向かうべく、森の中へと足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます