第14話 情報を制する者は戦いを制するとか言うけど最初に言い始めたのは誰なんでしょうね?

「……デカい猫から逃げてるカボチャ頭の男とか、想像しただけで草生えますわ」

「無表情で言われても困るよ、クロノさん」


 依頼を終えて宿に戻った彼らは早めの夕食を取り、部屋の中でそれぞれ依頼先であったことを報告し合っていた。


「ところで、マオ君は一体どうしたの?」


 アイルの視線の先には、ベッドでうつ伏せになっているマオがいた。

 夕食時も会話がなく、部屋に戻ってすぐにこの状態になったため、何かあったのかと彼は心配していた。


「さあ? 夕飯前に屋台で串焼き3本も食べてたからお腹痛いんじゃない?」

「えっ、それは大変だ。胃薬……は無いから、回復ポーションで治せるかな?」

「……アイルよ。クロノの言うことを真に受けるでない」


 マオは会話を聞いていたらしく、しかめっ面をアイル達に向けた。


「別に腹痛で横になっているのではない。少々疲れたから休んでおるだけじゃ」

「そうなの? それならいいのだけど」


 アイルはあまり釈然としなかったが、マオがまた顔を背けてしまったのでそれ以上聞くのをやめた。


「アイツのことは置いといて。今日の依頼で得た情報でも整理しましょう」

「得た情報って言っても、お茶してる時もノワールちゃん関連の話しかしてないから、そんなに大した情報はないと思うけど」

「そんなこと言ったら私は子供達と遊んだだけだから何も情報を得られてないことになるじゃない。どんな些細なものでもいいの。ここで生活していく上で私達に足りないのは情報なんだから」


 転移した初日で目立つ行為をしてしまったので、これ以上目立つことは避けたい。

 この世界の常識から外れた行為をすれば目立つことは確実なので、それを避けるためにも情報の入手を優先したいとクロノは考えていた。


「私が得た情報としては、この町がそれなりに裕福だってことかしら。孤児院にも寄付できるだけの余裕があるというのは珍しいみたいよ」

「他の町の現状を知らないからどこまで豊かなのかはわからないけど、町の中も綺麗だし、グラジオさん達の話からしても裕福なのは間違いなさそうだよね」

「後は……行方不明の人がいるってことくらいかしら?」

「行方不明?」

「警備隊っていう組織の人に捜索依頼出しているみたいよ。恐らくだけど、元の世界で言う警察のような組織なんでしょうね」

「クロノさんの気になるところはそこなんだ……。僕としてはどうして行方不明になっているのかが気になるのだけど」

「そこまではわからないわ。事件性があるのかどうかも聞いてないし」


 聞いておけば良かったかも、とクロノは思ったが、関わりすぎると厄介なことに巻き込まれそうな気がしたので、ひとまずはこれでいいと思うことにした。


「それで、アイルの方は?」

「うーん……今回の依頼先で魔物を飼っていたけど、ああいうのは稀みたいだよ」

「そりゃ、至る所で魔物が飼われていたら怖いわよ。この世界でも人間を襲う生物だって認識のはずでしょう?」

「でも、生まれた時から育てたら人に懐くみたいだね。そういうところは普通の動物とあまり変わらないのかもしれない」

「どうかしら? ストレスを発散させないと襲われちゃうかもしれないんでしょう?」

「それは多分、力を魔道具で抑えられてるからだと思うよ。きっと、元の大きさのままで過ごしていたら大丈夫なんだと思う」

「その魔道具、凄いわよね。力を封じて身体のサイズはおろか、見た目も変えちゃうなんて」

「……それなんだけどさ。クロノさん、『大罪の悪魔』を最後に倒した時に手に入れた指輪を覚えてる?」

「覚えてるも何も、つい昨日の話じゃない。ほら、これのことでしょう?」


 クロノはアイテムボックスから「色欲の指輪」を取り出した。

 ピンク色に輝く宝石がついたそれは、一見するとただの指輪にしか見えない。


「全部同じデザインの手抜き感溢れるレアドロップの指輪達がどうかしたの?」

「運営さんをディスるのはやめようね。……でも、やっぱり似てるなぁ」

「同じ物なんだから、似てるのは当然でしょう?」


 アイルも指輪を取り出し、クロノの手にある指輪と見比べていた。


「いや、そうじゃなくて。さっき言った力を封じる魔道具にそっくりだなと思って」


 それを聞いた瞬間、クロノが顔をしかめた。


「……そういえば、この指輪もそれぞれの『大罪の悪魔』の力を封じ込めたものよね?」

「うん」

「アイルが見たっていう魔道具は、所持者の意思でその力を解放できるのよね?」

「うん。それがどうかしたの?」

「もしかして……これも同じことができるんじゃないの?」

「なんじゃと!?」


 ついさっきまでうつ伏せになっていたマオが、ガバッと起き上がった。


「うわっ! ちょっと、驚かさないでよ」

「そんなことはどうでもよい! 先程の話を聞く限り、その指輪を使えば儂らの力が取り戻せるということじゃな?」

「えーと……クロノさんの予想通りなら」


 アイル達は指輪について何の情報も得ていないので曖昧な返答しかできない。

 しかし、それでもマオは目を輝かせた。


「今すぐ試すのじゃ!」

「ダメに決まってるでしょう。こんな所で試して本当に力が戻ったら、大変な騒ぎになるじゃない」

「そんなもの、力でねじ伏せれば良いではないか」

「アンタは脳筋なの? そもそも、私達がアンタらに力を取り戻させるようなことすると思ってるの?」

「む、協力しないと言うのか?」

「アンタが世界征服目論んでるうちは協力しないわよ」


 クロノとマオが睨み合う中、アイルは何やら考え込んでいた。


「……マオ君の言う通り、試した方が良いかもしれない」


 ポツリと呟かれたアイルの言葉に、クロノはより一層眉間に皺を寄せた。


「アイル、何言ってんのよ? コイツらに協力するつもりなの?」

「違うよ。ただ、この指輪の効果自体は知っておいた方が後々役に立つかと思って」

「でも、試すにしても本当に元の姿に戻ったら……」

「僕達が最初にいた森の中でやれば良いと思うよ。あそこは人の気配もなかったし、もし見られても誤魔化せば良いし」

「でも、力が戻って暴れられたら?」

「そこはマオ君に頼んで止めてもらおうよ。ね、マオ君?」


 アイルが話しかければ、マオは少し大袈裟に考え込む素振りを見せた。


「ううむ、仕方ないのう。汝らには多少の恩がある。汝らに襲い掛かりそうになったら止めてやろう」

「ありがとう、マオ君。お礼に飴ちゃんあげるね」

「流石アイル! 良く心得ておるではないか!」


 何故かドヤ顔で飴を受け取るマオに、クロノは白い目を向けた。


「コイツのこと信用して大丈夫なの?」

「大丈夫。マオ君は約束破るような子じゃないから。多分」

「そこは断言しなさいよ」


 苛立つクロノだったが、アイルが兜の奥で朗らかに笑っているのに気づき、毒気を抜かれたらしい。

 彼女は長いため息をついて、どこか諦めたように言った。


「……まあ、これから先、アイツらの力を借りられたら便利かもしれないわね」

「じゃあ、試しに行く?」

「今日はもう暗いし、疲れたからパス」

「む。ここは今すぐ試しに行くのが定石じゃろうに」

「こんな暗い中で森に入ったら、何が出てくるかわかったもんじゃないわ。アンタは突然出てきたデッカイ蛇に丸呑みされてもいいの?」

「うむ、明日にしよう!」


 そうして、アイル達は指輪を効果を試すことになった。

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