第5話

少女の言う通りになった。

午後に華連は僕の病室を訪ねてきた。ただ、昨日また来ると言っていたので、別に驚くことではなかった。


華連はマイペースに自分の進路について話はじめた。大学4年生の10月、多くの学生の進路は決まっている。けれども、華連は自分の出身の名門私立中高の教員を目指していたこともあり、まだもやもやしている時期だった。


確かまさにこの話をこの時期に、一回目のこの時期にした記憶がある。あのときは、僕があれこれ「こうしたらいい」とか「こういう方法もあうかもよ」などとお節介をやいた。たぶん何もなければ、二回目の今日も同じようにしたかもしれない。

かもしれないと言ったのは、実際はそうしなかったからだ。


僕は、少女に言われた通り、適度なタイミングで「うんうん」と相槌をとり、否定せずに聞くことに徹した。

華連は自分の不安を話尽くせたのか、後半はとても上機嫌になっていた。


病室を出ていく直前には、

「退院したらお祝いにどっかいこうね。」

と僕に言ってきた。


華連と出かけることはたくさんあったけれど、その多くは僕から言い出したことが多い。だから、今回は意外に思えた。

同時に、いい気にならないようにしよう、もうそういう感情を持ってはいけないのだからと自分に言い聞かせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る