ノンビリ×せっかち

「何でここが待ち合わせ場所なんすか?」


 私が猫に餌を上げていると、突然、背後から声をかけられた。


「あれっ、あなた、誰?」


「スプーンを使う先輩って、あなたの事ですよね? 昨日、ライン貰ったんすけど」


 あっ、忘れてた!

私がさぼってるのがバレて、ペアのシャッフルをされたんだった。

途中から誰にラインしてるのか混乱して、ドリーだと思ってこの猫のたまり場のアパートの裏を集合場所にしたんだ。


「で、何狩り行きます? ゾウでもトラでも龍でもいっすよ」


 この細身の短剣使い (腰にナイフを差している)の後輩は、かなりやる気だ。

はぁ~、ドリーが良かったなあ……

サボりたかった私は、ダメ元で提案してみることにした。


「ねぇ、初日は親睦を深める意味も込めて、街を散策してみない?」


「は、何言って……」


 反発されるかと思ったら、何やらブツクサ言いながら、腕を組んでいる。

何か狙いがあるのか? とか、ライスさんの前例があるしな、とか、そんなセリフが断片的に耳に入ってきた。


「……分かりました。 付き合いますよ」


「えっ、マジ? じゃあ、行きましょっか!」


 私は、ラッキーと思いながらスキップしてある場所を目指した。








「玉やミルクティー?」


「そう、最近流行っているのよ」


 この前飲めなかったあずき味ときなこ味を購入して、きなこの方を渡す。


「これ、何か関係あんすか?」


「え、何が?」


「狩りとの関係っすよ」


 ……こいつ、どんだけ真面目なの?

ちょっと、からかってやろうかしら。

私は、さあ~、どうでしょうねえ、と思わせぶりな態度で返事をした。

思わず、ンフ、という声が漏れる。

その時だった。

ブブブ、とスマホが鳴って、画面を確認する。


「先輩、緊急ラインです。 翼竜の亜種が、森からこっちに向かって来てるみたいす。 まさか、これを読んでたんすか?」


 え、寝耳に水なんだけど……


「その、通り……」


 か細い声で返事をすると、後輩は興奮気味に言った。


「……ここにはすげえ先輩しかいねーな。 っし、翼竜のポイントに向かいましょう!」









 翼竜は、街の上空を旋回している。


「俺たちが一番乗りみたいすね。 でもアレ、建物によじ登っても届かないすね」


「まあ、見てなさい」


 私は、道の脇にある射的屋に近づいて、借りますよ、とスプーンでボールをすくった。

そして、それを翼竜目がけて投げつける。

玉は勢いよく飛んで、翼竜に命中。

しかし、こちらに意識を向けるには、まだ威力が弱いか。


「うーん、どうしよ」


「なら、俺を投げて下さいよ」


 まさかの、志願。


「うまくあいつに取り付いて、ナイフで滅多刺しにすれば、降りてくるでしょ」


「……分かったわ」


 スプーンの上に、後輩が乗る。

うまく行くかしら?

私は、全力でスプーンを振るった。

思った以上に重く、力任せに振るった結果、翼竜の方角とは全く違う方へと、後輩は飛んで行った。






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