キツめ×ゆとり

 俺はバスタ。

今年で27だ。

使ってる武器は手斧で、これが結構しっくり来てる。

んで、今日は面倒くせーことに後輩を連れて狩りに出なきゃならねぇ。

ダイナドンの止まり木でずっと待ってんだが……


「……あ? 15分も過ぎてんじゃねーか」


 後輩の野郎、遅刻か?

俺も遅刻するタイプだから、何とも言えねーんだが。

でも、気が緩んでるんだとしたら、一発かましといた方がいいかもな。

そんな風に思っていると、ポケットのスマホが鳴った。


「っせーな…… はい」


「あ、バスタ君?」


 相手は、アカデミーの事務方の女だった。

後輩のヤツが、道に迷って待ち合わせ場所に着けない、っつー要件だった。


「マジっすか? そんなヤツいらねんすけど」


「あははっ、いいじゃない、可愛くて。 アカデミーの入り口にいるから、迎えに行ってあげて」


 俺は、舌打ちしてスマホを切った。








 アカデミーの入り口に立っていたのは、いかにも弱そうなガキだ。

腰には剣を差していて、背中には盾。

片手剣使いか。


「あ……」


 俺が大股で歩いて行くと、相手が気づく。

俺は、行くぞオラッ、と乱暴に言って、口笛を吹いた。


「あ、あの、すみませ……」


「謝罪とかいらねんだよ。 で、今日はこれからどこ行くんだ?」


「……」


「答えらんねーのか? 何も考えてねぇ証拠だな。 もういいから、俺の言うことだけ聞いとけ」


 ダイナドンがやって来る。

かなりイライラする。

よりにもよって、こんな使えないガキと一緒か。

下手なこと言った瞬間、胸倉掴んでやるか。

ダイナドンに捕まると、手綱を引いて森へと

向かった。








 森に降り立つと、少しして、後輩のやつも着いてきた。

ダイナドンから手を離す。


「……」


 後輩のやつは黙ったまま、俺の方を見てる。


「……ちっ、何かねえのかよ。 これから何を狩るんですか、とかさ。 やる気あんのか?」 


「あ…… あ、あの、今日は何を」


「水牛だよ、見りゃ分かんだろ。 この先の川の水を飲みに来てんだよ。 それを俺とお前で協力して倒す。 まあ、この調子じゃ俺一人の方が早そうだがな」


「……じ、実戦初めてで」


 後輩は俯きがちに、そんなことを言った。

こいつが初心者だってのは分かってるし、別に期待もしてねー。

それでも、2人で狩るってことは、1人ん時より効率良く倒さなきゃ何の意味もねえ。


「一回しか言わねーから聞き逃すなよ。 水牛は肉が分厚いから、急所を狙いにくい。 だから、足を狙って動けなくして倒すのがセオリーだが、今回はおめーが囮で水牛を引きつけて、俺が大振りで首を狙う。 上手く行けば一撃で仕留められる。 分かったか!?」


「は、はいっ」


 っとに分かったのかよ。


「つか、おめーの名前、聞いてなかったな」


「ま、マカロです」


「っしゃ、マカロ、行ってこい!」


「は、はいっ!」


 マカロが左手に盾を持ち、右手で剣を鞘から抜こうとした時だった。

鞘から中々抜けず、無理矢理引き抜くと、勢い余って自分の太股を斬りつけた。


「わーっ、わーっ、わーっ」


 血が吹き出し、叫ぶ。


「おまっ、アホか!」


 その声に反応して、水牛がこちらに気づいた。

赤い血を見ていきり立ち、猛然と向かって来る。


「畜生っ……」


 俺は、手斧を両手に持って、クロスして角を受け止め、そのまま弾き返して、怯んでる隙に喉元を斬りつけた。

今の一撃で、巨体が沈む。


「マカロ、大丈夫かよ」


「うっ、ううっ……」


「いつまで泣いてんだよ、てめぇ!」


 イラついて、思わず怒鳴っちまった。

すると、今度はでかい声でわめき始めた。


「うええーっ、えええーーん」


 あー、うるせえ!

18だろ、こいつ……


「面倒くせえ! 一生泣いてろ」


 俺がその場から離れると、マカロのやつはしゃくり上げながら付いてきた。


「ひぐっ、ひぐっ……」


 立ち止まって振り向く。


「……はぁ、今日はいいから、もう帰れよ」


「……」


 腕で涙を拭きながら、首を振る。


「……帰りたくねぇのか」


「……」


「やる気はあるんだな?」


「……」


 首を縦に振る。


「ったく、泣くんじゃねぇよ」


 俺は、マカロの頭を手でぐしゃぐしゃと撫でつけた。


「傷の手当てしてやっから、こっち来いよ」


 世話のかかる野郎だぜ。

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