異世界戦記・転魔撃滅ガッデムファイア ~ 地球から来た転生者どもはすべて倒す! 絶対神の魂を宿した最強の復讐者が、魔炎をまとって敵を討つ超必殺・撃滅譚!
第3話 伝説の特殊魔法核――レジェンダリー・エクスコア その3
第3話 伝説の特殊魔法核――レジェンダリー・エクスコア その3
「でっ、伝説級の精霊獣ってうそでしょ!? なんでそんなものすごい怪物が今まで誰にも気づかれずに隠れていられたのっ!? そんなことありえなくないっ!?」
獅子型の大魔獣の正体を知らされたとたん、エマの顔は恐怖で完全に強張っていた。
隣に立つアーサーの額からも冷たい汗が流れ落ちる。その二人の目の前で巨大な獣は静かに大地に降り立ち、石の床が
獅子型の精霊獣ガルデリオンは低い唸り声を漏らしながら、周囲をゆっくりと見渡している。聖剣旅団の団員たちは、
しかし、その中でたった一人――聖剣旅団の団長アーサー・ペンドラゴンだけは、わずかに引きつる頬でニヤリと笑った。
「ああ、そうだな……。たしかにレジェンダリー・ハイネイチャーに遭遇するなんて普通ならありえない」
アーサーは手のひらに噴き出した汗を尻で拭き取り、さらに言う。
「つまり、こいつは
「そっ、それはたしかにそうかもしれないけど……」
エマは恐る恐るガルデリオンに目を向けた。巨大な獅子型の精霊獣はその場でゆっくりと回りながら団員たち一人ひとりを見下ろしている。まるでどの獲物から襲うか思案しているようだ。しかしアーサーはその動きを見て鼻で笑った。
「見ろよエマ。あの化け物は自分を取り囲んでいる俺たちの出方を見ていやがる。つまり、図体はでかくても頭の中身はただの獣と同じってことだ。だったら勝機はじゅうぶんにある。それに、こっちには無敵の切り札があるだろ?」
アーサーは腰の青い鞘からゆっくりと純白の剣を引き抜いた。
「……エクスカリバーね」
「そうだ」
ぽつりと呟いたエマに、アーサーは力強く一つうなずく。
「これは最強の攻撃力と最大の防御を兼ね備えた勝利の
唐突にアーサーが声を張り上げ、団員たちに指示を飛ばした。
「ビビッてんじゃねぇぞゴラぁーっ! 敵は小猫が一匹だぁーっ! 俺が正面から全力でぶっ放すっ! おまえらは左右から一斉にボコッてやれーっ! いいなぁーっ! 絶対必殺の
広大な地下空間にアーサーの
その直後、団員たちも気合いを込めて一斉に吠え上げた。誰もがくじけかけた勇気を即座に奮い起こし、拳と武器を天に突き上げ戦意を高める。そしてすぐに走り出して二つのグループを作り、アーサーを頂点とした三角の陣形でガルデリオンを取り囲んだ。
「よーし、ネイン。君は後ろに下がってな。俺たちの最強伝説が生まれる瞬間を、アリーナ席でよーく見てな」
その言葉にネインは無言でうなずき、アーサーから距離を取る。
「いいか、エマ。俺がエクスカリバーをぶっ放したら全員を突撃させろ。一気にケリをつけてやる」
「りょ、了解」
エマもアーサーから少し離れ、細身の剣を抜いて構える。
「よーし、いくぞ、化け物が。理由は知らんがこっちの準備が整うまで、空気を読んで待っていたのはほめてやる。褒美に俺のとっておきをプレゼントだっ! こいつを食らって昇天しろやぁーっ! うおおおおおおおーっ!」
アーサーは全身全霊の気合いを放ちながら純白の剣を真上に構えた。同時に剣から
「ぃぃぃよっしゃぁーっ! いっくぞぉーっ! 超々必殺っっ! 爆連斬撃っっ! スーパーウルトラアルティメットぉぉーっっ! エクスゥゥゥ――セイバァァァーッッッ!」
爆閃――。
長大な黄金の剣と化したエクスカリバーをアーサーは力任せに振り下ろした。瞬間、巨大な光の刃がガルデリオンの体に直撃した――。さらに剣を振り下ろす際に発生した光の残像が何十もの斬撃となり、連続で精霊獣に襲いかかる。その大地を揺るがす衝撃波は石の床に無数のひびを瞬時に走らせ、砕けた
「とっ、とぉつげきぃぃーっっ!」
一瞬遅れて、エマが慌てて声を張り上げた。
精霊獣の巨体にはいまだに光の斬撃が無数に降り注ぎ、舞い上がる石の粉が煙幕のように立ち込めて視界は悪い。しかし団員たちは
「ッシャァーッ! どうだぁーっ! これで勝っただろぉーっ!」
50を超える光の斬撃をすべてガルデリオンに叩き込んだアーサーが勝利を確信して吠えた。
しかし視界は一面白い煙が充満し、精霊獣の姿はまともに見えない。団員たちが攻撃している硬質な音だけがいつまでも響き渡っている。それはまるで鉄を叩いているかのような音だ。
「エマ! 攻撃を止めろ! 様子を見るぞ!」
「りょ、了解! 攻撃停止っ! 総員、三角陣で待機っ! 待機してーっ!」
エマが声を張り上げると、団員たちは即座に元の位置へと駆け戻っていく。
するとすぐに煙が晴れて、ガルデリオンの姿が現れた。しかしその瞬間――聖剣旅団の面々は一人残らず愕然と目を剥いた。
「なんっ……だとぉうっ!?」
アーサーは思わず手の甲で目をこすった。
自分が見ているものが信じられなかった。黄金色のたてがみと漆黒の翼、そして灼熱の炎のような赤く長い尾を持つレジェンダリー・ハイネイチャーはまったくの無傷だった。
聖剣旅団はエマ以外の全員が全身全霊の全力で攻撃を仕掛けたというのに、ガルデリオンは石の床に腹をつけて何事もなかったかのように座り込んでいる。しかもエマの方を向いたまま、口の周りを赤い舌でぺろりと舐めた。
「おっ、俺のスーパーウルトラアルティメットエクスセイバーをすべて食らって無傷だとぉぅ……? アンビリーバボォ……。マジかよ……こんなことありえねぇだろ……」
ふらふらと二、三歩下がったアーサーの手からエクスカリバーが滑り落ちた。エマも大口を開けて絶句したまま動きが完全に止まっている。他の団員たちも体が固まり、半数以上の手から武器が落ちた。
するといきなり、若い男の団員が突然声を張り上げた。
男は狂ったように吠えながら剣を振り上げ、たった一人でガルデリオンに突進していく。そして何度も何度も、何度も何度も精霊獣の肩に切りつける。しかし――どれだけ剣を振るっても
すると今度はガルデリオンが男の方に顔を向けた。男は巨大な瞳と目が合ったとたん恐怖で身がすくみ動きが止まる。そんな男を見据えながら、精霊獣はゆっくりと口を開く。巨大な口に並ぶ鋭い牙が冷たく光り、のどの奥で真紅の炎が揺らめき出す。そして次の瞬間――無数の炎が一気に噴き出した。
それは人間大の炎の塊だった――。
炎の塊がガルデリオンの巨大な口から飛び出し宙を舞う。さらにすべての炎が小さなガルデリオンの形に姿を変え、近くにいた団員たちに続々と襲いかかる。直後――20を超える団員たちは一瞬で灼熱の炎に包まれた。肌と肉、そして骨と神経を焼かれる地獄の激痛に誰もが悶え苦しみ、のたうち回る。しかし助けを求める声も悲鳴も絶叫も、すぐに声帯を焼き尽くされてかき消えた。
「なんっ……だとぉぅ!?」
その地獄の光景に、アーサーは一歩も動けなかった。
部下の半数がたったの一撃で壊滅し、消し炭となるのをアーサーは見ていることしかできなかった。ガルデリオンが放った超高熱の炎によって、人体は跡形もなく消滅した。あとに残ったのは鎧や剣、斧や槍などの鋼鉄が溶けてできた黒い塊だけ――。まるで巨大な馬糞のように変わり果てた部下たちの姿を、団長はただ呆然と眺めることしかできなかった。
「ア……アーサー……? ねえ、どうする? 私たち、どうすればいい?」
ふらふらと近づいてきたエマが、アーサーの腕にしがみついた。しかしアーサーは力なく首を横に振って呟いた。
「どうすればって、そんなのわかんねぇよ……。だって俺……ボク……エクスカリバーが通用しないと何もできないし……」
「そ、そんなぁ……」
エマはすがるような目でアーサーを見た。
しかしアーサーはうな垂れたまま何も言わない。まだ生き残っている団員たちも呆然と立ちすくんだまま動きを止めている。全力で攻撃しても敵に傷一つつけられず、たったの一撃で多くの仲間が焼き殺されたのを見て、心が完全に折れてしまったらしい。もはや頭の中がまっ白になり、逃げるという選択肢すら思い浮かばない様子だ。
エマもどうすればいいのかまったくわからなかった。
頼りのアーサーが指示すら出せなくなることなんて初めてだった。こうなったら副団長の自分がなんとかしなくてはいけない――。それはじゅうぶんにわかっている。しかしどうすればいいのかまるで見当もつかなかった。自分は今日までアーサーの背中についてきただけで、自分の頭で作戦を考えたことなんて一度もなかった。だったらやはり――選択肢はただ一つ。ここは今までどおり、アーサーの指示を待つしかない――。エマはそう腹をくくり、考えることを放棄した。その瞬間、誰かの静かな声が耳に響いた。
「――団長さんとクルパスさんは、団員の皆さんを連れて下がっていてください」
「えっ!? ネイン君!?」
エマはハッとして横を見た。後ろに下がっていたはずのネインが、いつの間にかすぐそばに立っている。しかもネインは落ち着き払った表情で、顔を上げたエマをまっすぐ見つめてさらに言う。
「ガルデリオンの相手はオレがします。危ないので離れていてください」
「なっ、なに言ってんのっ!? あんなの一人で勝てるわけないじゃないっ! エクスカリバーでも傷一つつけられなかったのよっ!」
「それは見ていたのでわかっています。しかし今は説明している暇がありません。とにかく、オレがガルデリオンに攻撃を仕掛けたら離れてください。たぶん向こうも全力を出してきますから」
「ちょ、ネイン君。それはいったいどういう――えっ?」
エマは反射的にアーサーに顔を向けた。アーサーにいきなり腕をつかまれたからだ。しかもアーサーは呆然としたままエマを見つめ、首を小さく横に振った。『やりたいというのなら、勝手にやらせておけばいい』――気力の抜けた青い瞳はそう語っている。それでエマは口を閉じた。
同時にネインは無言で5、6歩前に進む。そして腰の後ろから
「第4階梯光魔法――
とたんに縦と横に走る格子状の白い光線が広大な空間を埋め尽くし、一点に収束を開始する。魔法の光は一瞬でガルデリオンの額に集まり、淡い輝きを放ち始めた。
「なるほど。あいつの魔法核はあそこか――むっ」
ネインが呟いたとたん、ガルデリオンがいきなり立ち上がった。しかも今までのゆったりとした動きとは完全に異なり、獲物を狩る獣の素早さでネイン目がけて突っ込んでくる。
「ネイン君っ! あぶないっ!」
とっさにエマが叫んだ。ガルデリオンがネイン目がけて跳びかかったからだ。しかも精霊獣の巨体は猛烈な速度で宙を突っ切り、ネインに向かって鋭い爪を突き出した。
しかしネインは迫り来る敵を見据えたまま微動だにしない。そしてそのまま落ち着き払った声で魔法を唱え、胸の前で両手を鋭く叩き合わせた。
「第1階梯電撃
瞬間――ネインの全身に青い電流がほとばしった。
直後、ガルデリオンの爪がネインの体を貫き、押し潰した。同時にエマの悲鳴が響き渡る。しかし――即座にアーサーが精霊獣の横を指さした。
「……いや、待て。横だ」
「えっ!?」
エマは慌てて目を向けた――瞬間、目を見開いた。
押し潰されたはずのネインがそこにいたからだ。しかもほとばしる青い電流を体にまとったネインは超高速で突っ走り、反射的に追撃してきたガルデリオンの爪をすべて紙一重で避けまくっている。
「ええぇっ!? なっ!? なにっ!? なんなの!? ネイン君のあの速さはいったいなにっ!?」
「わからん。しかし潰されたように見えたのはどうやら残像だったようだな。――ステータス・オン」
アーサーは特殊スキルを発動して目を凝らし、ネインの姿を追いかける。そしてネインのステータスを見たとたん、思わず驚愕の声を漏らした。
「オウ、ノウ……。リアリィ……? なんなんだ……? あの能力値はいったい全体なんなんだ……?」
「ど、どうしたの?」
「おかしい……。なぜかネインのステータスが爆発的に上昇していやがる。特に機敏と器用の数値は180オーバーだ」
「ひゃ!? 180!? うそでしょ!? それって普通の大人の三倍近いステータスじゃない!」
「ああ、そうだ。あんな数値、14歳の子どもに出せるはずがない。あの能力値はもはや朱黒天位クラス――。つまり、今のネインはバーミリオンレベルってことだ」
「ぶぁっ!? バーミリオンブラック!? うそっ! そんなのありえない!」
エマは仰天してアーサーをまじまじと見つめた。しかしアーサーは真剣な表情で言葉を続ける。
「ああ、たしかにありえない話だが嘘じゃあない。俺たちの目の前であの化け物と戦っているネインは、ブルーナイトの俺よりランクが二つも上の数値を出していやがる。あれはおそらく、あの体にまとった電撃に秘密があるな……。ネインは電撃を体にまとうことで身体能力を強制的に引き上げているんだ。まったく……。あいつが習得している電撃魔法は第1階梯だけだったから気にしていなかったが、あんなとんでもない魔法を編み出していやがったのか……」
「そ、それじゃあもしかして、ネイン君はあの化け物に勝てるってこと?」
「いや、そいつは絶対に不可能だ」
おそるおそる尋ねたエマに、アーサーは力なく首を横に振る。
「おまえも見ただろ。あのレジェンダリー・ハイネイチャーに刃物は一切通じなかった。剣も斧も槍も弓矢も、そして俺のエクスカリバーですら完全に弾きやがったんだ。つまりネインがどれだけ素早く動けたとしても、攻撃手段がなければ絶対に勝てない。そのうち疲労がたまって足が止まり、あの化け物の鋭い爪に切り裂かれるに決まって――」
その瞬間、ガルデリオンが振り下ろした巨大な爪をネインの短剣が斬り飛ばした。
前足の指を2本まとめて切断されたガルデリオンは素早く後ろに跳び
「なんっ……だとぉぅっ!?」
アーサーとエマは愕然と両目を見開いた。そしてネインが握る真紅のナイフを凝視した。
「ネ……ネイン君……。あの化け物の爪を斬り飛ばしちゃったね……」
「あ……ああ……。斬り飛ばしやがったな……」
「なんなの……? ネイン君のあのナイフは……?」
「わからん……。エクスカリバーですら斬れない敵を切断する真紅のコンバットナイフだと……? いや、待て。真紅だと? まさかあれは――ホノマイトか?」
「え? ホノマイト? それってたしか、この星で一番硬いって言われている伝説級の鉱石でしょ?」
「そうだ。俺も実物を見たことはないが、魔法金属で最も硬いダークリウムよりも硬く、最も高価で自己修復機能があるホーリウムよりも希少価値の高い鉱石だ。しかしあまりにも硬すぎるので、武器に加工するだけで一財産が吹っ飛ぶと言われている。まさかそんなスーパーレアな武器を、たった一本とはいえ――」
その瞬間、ネインは腰の鞘からもう一本ホノマイトのナイフを引き抜いた。そしてやはり
「ネイン君……そんなすごいナイフを二本も持ってるんだ……」
「あ……ああ……。どうやらそうみたいだな……。しかし、あいつはなんで、何の意味もない
もはや語るべき言葉を失ったアーサーとエマは、呆然と戦闘の推移を眺め続けた。
その二人の目の前で、最強クラスの精霊獣に決死の戦いを挑み続けるネインは、一撃必殺の魔法を使う
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