第21話 3日目 もてあそばれる
「み、皆さまお初にお目にかかります。カイリシュリー・レ・グランハインドと申します。宜しくお願い致します」
ヒラッヒラの真っ赤なドレスを身につけた私が、鏡の中で礼をした。
長いドレスの裾を両手でひとつまみづつ持ち上げ、まるでドラマや演劇の役者さんのように大げさに。
うぅ、ガラじゃないよぅ。
「そうね。もうちょっとだけ頭を下げる角度を浅くしましょう」
「それと目を伏せて澄まし顔をなされてもいいかも知れません。笑顔の安売りはカイリさまのイメージを損ないますわ」
「ドレス、赤で良かった? よく似合っているとは思うけれど、やっぱりちょっと派手すぎる気もするのよね。姉様のお下がりに真っ白な奴無かった?」
ミレイシュリーさんにアネモネさん、そしてラシュリーさんの順番で、私の背中を見ながら思い思いの感想を漏らす。
「白はやめときましょうか。もう少し勿体ぶりたいわ」
「ですね。カイリ様、きっと物凄く似合ってしまいますもの。白は特別にしましょう」
「なるほどそうね。今回みたいな謝罪の場では相応しくないわ。ああ、そうだ。薄い水色のやつ持ってたわ私」
今夜開かれる晩餐会まで、およそあと四時間ほど。
今私がやらされているのは、挨拶の練習である。
集まるのは色んな貴族さん達や王城の高官さん達だから、無礼が無いようにとこうして何度も何度も同じセリフを繰り返しているわけだ。
ていうかボロが出るからあんまり喋らない方がいいと、セリフもさっきの一言しか用意されていない。
「あ、あのミレイシュリーさん? このドレスちょっと露出が––––––」
「姉様」
言葉を遮ったのは、にっこり笑ってるの思わず私がたじろぐほどのミレイシュリーさんの圧である。
「––––––うぅ、ミレイ姉様ぁ。ドレスが大胆すぎて恥ずかしいですぅ」
「あら、そう?」
全部ミレイシュリーさんとラシュリーさんのお下がりなんだけど、基本的に全部大胆だ。
「パーティードレスなんてどれもこんなものよ?」
だっ、だってこのドレス……。
「背中、ぱっくり開いちゃってますけど……」
さっき着た濃紺の奴なんか、胸の中心からおへそまで全開だったよ!?
少しでも捲れたら全部見えちゃうよあれ!
「カイリは細くてスタイルも良いから、どれもこれも似合っちゃうわね〜。姉様これなんかどう?」
ひっ!
ラシュリーさんが持ち上げた布を見て、私の顔面筋肉が全力で引きつった。
なにそれ!?
そんなの来て歩けないよ私!
胸の部分と腰の部分以外スケスケじゃん!!
ドレスじゃないよそれ!
痴女服だよ!
「あー楽しいわー。ラシュの時も楽しかったけど、やっぱり妹のお披露目服を選んでる時って最高ね」
私は全然楽しくないよミレイシュ––––––。
「姉様」
––––––姉様!
人の思考を読まないでください!
先回りして機先を制するのやめてください!
「お嬢様、こちらのネックレスなんかどうでしょう」
「んー、それよりはこっちじゃない?」
「ラシュ、右耳のイヤリングは外せないのよね? 大きな髪飾りで隠しちゃいましょうか」
「エリックのデザインセンス、悪くはないけれど地味なのよね」
「あ、ミレイシュリーお嬢様。靴を選ばないといけませんね」
「カイリはヒールの高い靴は大丈夫? 小さい頃のラシュなんか歩けなくて大変だったわね」
「今でも少し苦手だわ」
「御髪はいかが致しましょうか」
「もう少し幼い感じの方が良いかもしれないわ姉様。下手したら求婚されちゃうわよ」
「サイドアップにしちゃう? でもこのまま下ろしてる方が私は好きよ」
あわわ。
あわわわわ。
これじゃ着せ替え人形なんだよ。
完全に遊ばれてるんだよ!
「下着、もう少し細い物の方が良いわよね?」
「そうね。ドレスの形崩れちゃうわ」
「ならばこちらなんかは如何でしょうか」
紐じゃん!
それ下着じゃなくて紐に布通しただけじゃん!
本格的に痴女のソレじゃん!
嫌だぁ!
私あんな下着もどき着て人前に出たくないよぅ!
誰か助けて!
私をここから助け出して!
私が解放されたのは晩餐会のお客様が集まり始めた、二時間後のことだった。
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