アスタルテの書斎、または鬱

韮崎旭

アスタルテの書斎

 汚く濁った心情を吐き出しそうで恐ろしいので字が書けないようなそんな風な。

 私は私のおぞましさにうすうす気が付いている。それでいて人間のふりをする人間とは、やさしい皮をかぶったとてつもない化け物。醜悪と貪欲を隠し持って、言えない空腹と渇きを埋め合わせようと他者を貪る。何に淫しようとことの飛散とみるに堪えなさは変わらない。覆い隠しても無駄なことだ。見てしまいそう、離れていたい、知りたくない本性、その辺の畜生だってもう少し清楚。換気扇がくるくる回って、忌まわしい輪廻のように今日を私は台無しにする。昨日を台無しにしたように。大安は吉日に非ず、すべての日が破滅でもって手招いている。こんな風に何かを汚すなら存在するべきではなかった。存在自体が、冒涜。脱税や強姦致傷と大差ない。というか、目に見えるわかりやすい形を持っているだけ、人間をすることよりも、脱税や強姦致傷はまし……。生きていたくない、自殺するほどの意思はない、私がすべての存在を、存在がすべての何かしらを、台無しにしてぶち壊して穢してしまうので、街路灯に詩歌を投げかけることがむなしくて首をくくりたくなるのだ。


 いくら抗うつ薬を投与したところで、人間のおぞましいあり方に変わりはないでしょう、市街の雑多な景観は美しいけれど、人間が穢した路地裏の醜態は美しいけれど(朝日を浴びて)、工業地帯は文明は、美しいけれど、もう生きてはいけないのだ、四六時中付きまとう鬱を市販薬の乱用とかでごまかして、高架が尽きたら底を尽くような鬱にまた見舞われる。基本設定は終末している。どこに行こうが疲れるし、四六時中自死のタイミングばかり考えている。意識が吐き出したものを、紙に広げて検分して嫌悪感にまた吐きそうになっている。見るからに乾いて、死んだ、静脈と皮膚の、拍動に伴う動き、人間であるだけで悲惨だと、そう。

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アスタルテの書斎、または鬱 韮崎旭 @nakaimaizumi

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