第44話 終局的目的

 わたし、子供の頃から好きな人がいるんだ。彼氏ができるまではその人が恋人なの。

 その人はわたしよりかなり年上だと思うんだけど、とても若々しい体をしているの。

 その人、特にキリスト教圏やイスラム教圏で人気があって、この町にも大勢ファンがいるの。

 彼は、わたしの恋人。彼は、わたしの友人。彼は、わたしの親友。

「その男は浮気しているんじゃないのか」

 いえ、そういうわけではないの。実は、その人の性別すらよくわからないの。

「ふうん。実はおれ、永遠に生きているんだけど、その男はおれより魅力的なのかい」

 ええ、彼は永遠なんかでは説明できないんだよ。

 彼は永遠の前に存在して、永遠の後に存在するの。

「おれは永遠に生きているからわかるんだけど、永遠に生きるのに必要なのは友人だ。友人がいないと、永遠に生きていも永遠の孤独になってしまうからね」

 あら、あの人はこの町の人全員が友だちよ。

 あなた、永遠に生きているというなら、宇宙はいつから始まったのですか。

「おれは時計ではないから、知らないよ」

 へえ、永遠に生きるってそういうものなんだ。

「おれよりすごい男がいるとは思えないね。永遠に生きるおれからすればね」

 バカね。あなたは、ただのタイムマシーンを発明しただけの宇宙人でしょ。

「その通りだ。ああ、すまない。あなたが誰の話をしているのか、おれにもわかってきたよ。おれは本当に永遠の存在だ。だから、知っている。そいつは確かに宇宙の最後の一瞬に現れるんだ」

 宇宙人の話はつづいた。

「宇宙には、究極原因と究極目的がある。究極原因は彼だが、究極目的は神がまだ隠している。宇宙の目的は、さまざまな原因によって変化する。しかし、やがて、宇宙は終局的目的に至る。その宇宙の目的は、宇宙の終わりまで隠され、宇宙の終局に現れる」

 わたしは心配なんです。あまりにも身分ちがいの恋ではないかと。

 神は存在を先取します。きっと、神にとっては、もう、その終局的目的は実現しているようなものなんでしょうね。

「悪いけど、おれはタイムマシーンを発明して永遠になった宇宙人だから宇宙の終局的目的を知っているんだけど、この宇宙の結末をネタバレするわけにはいかないよ。知りたければ、あなたたち人類はちゃんと宇宙の最後まで生きのびないとね」

 ええ、とても知りたいですね。がんばって、宇宙の最後まで生きのびてみます。

 そして、人類はがんばって宇宙の最後まで生きのびた。

 神が用意した宇宙の終局的目的は、次こそ悪のない宇宙を作ることだった。

 宇宙の最後にそれがわかってよかったわ。やっぱり、さすが神ね。

 神よ。神はわたしの恋人。神はわたしの友人。神はわたしの親友。

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