第41話 父についての記述

  1、文学批評による十種類の父親


① 「神統記(ヘシオドス著)」のゼウスの殺したクロノスと、クロノスの殺したウラヌス。

② 「オイディプス(ソフォクレス著)」の物語の始まる前に死んでいる父ライオス

③ 「聖書」の聖霊、あるいは養父ヨセフ

④ 「ハムレット(シェイクスピア著)」の謀殺された前王の幽霊

⑤ 「トリストラム・シャンディ(スターン著)」の母とやってしまった父

⑥ 「フランケンシュタイン(メアリ・シェリ著)」の化学者ヴィクター・フランケンシュタイン

⑦ 「カラマーゾフの兄弟(ドストエフスキー著)」のヒョードル・カラマーゾフ

⑧ 「ツァラトゥストラはこう言った(ニーチェ著)」の神

⑨ 「夢判断(ジークムント・フロイト著)」の父性

⑩ 「あの有名な映画」の敵将軍


 上に挙げたのは、父の登場する名作たちである。



  2、空想的父殺し神話


 神は、すべての物語に父として登場する。

 神は、息子の敵として描かれることもあるが、その場合はありえない強敵である。

 神は、やはり、父として息子たちを応援する。

 神は、妻や子供たちに、強く賢く優しいという完全な父を演じることを要求される。


 フロイトは、ギリシャ古典の愛読者であり、ドストエフスキーの愛読者であった。

 父殺しの物語批評など、その程度でよいのではないか。

 確かに、ドストエフスキーは文学史上に名を残す名作である。しかし、二十世紀において、ひたすらみんなでドストエフスキーの文学宣伝を百年もかけて行った人たちは何がしたかったのか。


 神の存在は、物語に出てくるすべての父によって説明されている。

 神はわりと何度も死ぬ。

 文学批評は、物語に登場する父を神と説明するためにあった。

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