第30話 魚の騎士とウンディーネ
魚の騎士は、都市でウンディーネに出会った。魚の騎士は、細身の男だが、魚を模した兜をかぶっているから、魚の騎士だ。
ウンディーネは四元素の精霊のうちの水の精霊だが、創造主がウンディーネを作る時に少し失敗したため、ウンディーネの一族には魂がなかった。
神は、失敗作ウンディーネに報いるために、ウンディーネを特別に美しく作るなおしたが、魂を与えなかった。
魚の騎士は、ウンディーネに声をかけ、しばらくして仲良くなった。
「ウンディーネに手を出すな。手を出せば、不幸な運命が待っているぞ。ウンディーネは、幸せになれる伴侶ではないのだ」
街の長老は忠告した。
魚の騎士は、忠告を気にせず、ウンディーネと暮らし始めた。魚の騎士は幸せになった。(何が不幸な運命だ。くだらない老人だ。)魚の騎士はそう思った。
「ウンディーネと結婚するには、魂の契約が必要です」
役人がいった。
「そうしよう。まったく問題はない」
魚の騎士はそういった。人間である魚の騎士と、水の精霊ウンディーネの結婚が決まった。
ウンディーネは、魚の騎士と暮らし始めて、笑顔が増えたと思った。
しかし、魚の騎士にも、ひょっとしたらという不安が思い浮かんでしまった。ウンディーネと暮らし始めてから、少し体が重く、考えも鈍くなってしまっている。それは幸せの代償だと考えたが、魚の騎士にも気にはなった。
「わたしたちウンディーネは、生まれた時から魂がないの。あなたと結ばれて、初めて魂を手に入れることができた。愛しています」
と、ウンディーネはいった。
「あなたはわたしに魂をくれた」
ウンディーネはいう。
文字通り、魂の伴侶ということか。悪くない気分だ、魚の騎士は思った。
魚の騎士は、長いこと悩んだが、結婚してから体が重く、幸運にも恵まれていないことを妻に打ち明けることにした。
「わたしには魂がなかった。あなたと結ばれたことで魂を得ることができた。だから、あなたは、わたしに魂を分け与えた分、あなたの生命力と精神力を奪ってしまっている」
ウンディーネが打ち明けた。
「それくらいでおまえを裏切るおれではないぞ」
魚の騎士は、妻に変わらぬ愛を告げた。
自分の魂を分け与えてしまった魚の騎士は、生命力も精神力も衰え、さらに、幸運からも見捨てられる。
人間をたぶらかすために、人間の女より魅力的に作られたウンディーネは、それでも、魚の騎士に幸せをもたらした。
「おい、魚の騎士。最近、だらしがないな。弱い騎士だな」
「なんとでもいえ。おれの調子が悪いのは、妻とやりすぎているからだ」
そのまま、魚の騎士はウンディーネと幸せに暮らし、子供も生まれた。
子供は、男の子一人、女の子一人だ。
魚の騎士は、娘がウンディーネであることに気づき、魂を探すように促した。
魚の騎士は、妻を見ながら、ウンディーネが神の失敗作だというのは、きっと何か意味があるんだろうな、と思った。
人間の街には、ウンディーネがまぎれている。
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