第29話 傲慢、冒涜、自涜の罪と洪水
ある町で、神と勝負する話が盛り上がった。
二十一世紀の繁栄した町だった。
一人の少女が、
「あたしたちの町で神と勝負しようぜ。逃げも隠れもしねえ」
と話を持ちかけ、少女は神と勝負するチームを結成して、神と勝負することを吹聴してまわった。
「必ず、神に勝つ」
少女はいった。
「おれたちの力なら、神にだって勝てるだろう」
と話し合った。
「ここに宣言する。この町の住民みんなで、神に対して勝利すると。神など恐れるものか。覚えていろ、神よ」
少女を代表に、その町は神に宣戦布告した。
「いくぞ。決起集会だ。神を落とす。天を落とすぞ」
みんなが叫んだ。
「神を落とす。天を落とす。神を落とす。天を落とす」
何度も、みんな、唱和した。
町の住人は、意気揚々だった。
「逃げるな、神よ。あたしと勝負しろ」
と町の住民が要求すると、洪水がこの町を襲った。
どどどどどどどど。
水が町に押し寄せる音だ。
そのまま、住民たちは洪水に流されてしまった。
床上浸水となり、ほとんどの家が天井まで水が浸かった。
洪水の跡地で、生き残った住民たちが生き残るすべを探した。
「まだ生きているぞ。誰だ、あたしらの町を流しやがったやつは」
少女はいったが、近くの男がいった。
「いやあ、これは神がおまえたちの挑戦を受けてたったのだろう」
「ああ、洪水を起こしたのは神のやろうか」
生き残った人たちが集まり、笑った。
「はははは、神に負けてたまるか。もう一度、勝負しようぜ」
「おう」
町の復興も後まわしにして、その町の住民は再び神に挑んだ。
「いくぞ。もう一度、決起集会だ。この町のチームで神を落とすぞ」
「おお、神を落とす。天を落とす。神を落とす。天を落とす。洪水なんて怖くねえ」
どどどどどどど。
再び、町を洪水が襲った。
ざぷーん、ざぷーん。
「大丈夫か、みんな。生きているのか」
少女は泳いで建物の屋根に這い上がった。
「くそう、洪水なんかであきらめるあたしたちじゃねえぜ」
少女はそういったが、中にはあきらめ始めたものもいた。
「いやあ、やっぱり、神には勝てないよ」
「罪深い町ですよ。傲慢、冒涜、自涜の罪です」
神に挑む傲慢。
それは冒涜でもあり、自涜でもある。
二十一世紀の洪水神話だ。
「すまん。おれ、そろそろ、神に勝てる自信がなくなってきたんだが」
男がいうと、少女は怒った。
「この程度であきらめるな。町を三度、流されても神に勝つ」
そして、また洪水が起こって町が流された。
どどどどどどどど。
ざぶーん、ざぶーん。
「いや、もう、あの女とそのチームは、地上の秘密だ。でないと、神に怒られる」
洪水の町は、しかし、あきらめることなく神を倒す野望を吹聴した。
懲りない町だ。
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