第16話 罪の所在
これは架空の話だが、ぼくはお寺さんに聞いてみた。
「いったいこのお寺は何を教えているんです。」
「犯罪のごまかし方だ」
「どのようにごまかすんです」
「方便力成就だ」
「方便力成就とは?」
「犯罪のごまかし方だ」
「それをぜひ、伝授を」
「よかろう。では。」
「はい」
「お主、何の罪を犯した。」
「たいした罪じゃありません」
「嘘をつけ。逃げられないぞ」
「まんじゅうを盗みました」
「やはりな」
「すいません」
「おまえはなぜ自分がまんじゅうを盗んだのかわかるか」
「わかりません」
「それは、おまえが太陽に操られていたからだ。太陽の所為だ」
「カミュの『異邦人』でしょうか」
「いや、親鸞の『教行信証』だ」
「そんな教えが日本にあったとは」
「そうだ。これは日本の教えだ。ありがたく思え」
「それで、まんじゅうの罪はどうなるんですか」
「まずは方便力成就だ」
「方便力成就とは」
「方便とは、大衆は頭が悪いから、嘘を教えて悟りへ導くことをいう」
「どのように」
「すべてを太陽と月のせいにするのだ。これが浄土真宗だ」
「それでは政治が治まりませんよ」
「政治は役人のすること。仏僧は真理の探究だ」
「どのような探究を」
「罪の所在、業の所在の探究だ」
「罪や業が太陽にあるというのですか」
「うちの宗門ではそうだ」
「そんなバカな」
「まんじゅうを盗んだ罪がおまえにある時は、太陽と月は空に上がってこない。おまえが本当の罪人なら、太陽も月も空に上がらない。」
「そんなこといって、本当に明日、太陽がのぼらないなんてことはあるはずがないじゃないですか」
「そんなことはない。太陽や月が空にのぼらなかったことがあるのをわしは知っている」
「嘘だ」
「おまえに罪があるのなら、本当に太陽はのぼらない。」
「まさか」
「本当だ。わしと一緒に太陽を待つか」
「はい」
そして、夜が明けた。
「どうだ。太陽はあがったな」
「はい」
「罪はあるか」
「わかりません」
「これが方便力成就だ。確かになんとなくおかしい気がするから、この続きはおまえが考えるんだ。ここまでが親鸞の教えだ」
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