第15話 土着神と来訪神

 太平洋に島があった。その島には人が住んでいた。

 島の神主が「ちゃんと祖先を祭らなければ災厄が起こる。」と主張して、古来から伝承される祠の神社を守っていた。

 島民は、

「ご先祖さまとサルの区別がつきません。」

 と述べた。その島の家にはどこでも木彫りのサルがあった。

 神主は、

「この島の島民の先祖はサルなのです。」

 といったが、島民は納得せず、

「いや、わたちたちはヒトなのだから、サルとはちがう。」

 と、反論した。

 そして、どちらも言い分をゆずることはなく、ご先祖さまがサルかヒトか論争が起きた。

 島民の祖先の候補の名前がいくつか挙がるものの、サルである可能性も高いとなり、島民たちから先祖がサルでは納得いかないと苦情が出た。

「ご先祖さまは、この島で生まれたのか」

 という島民の主張に、

「そうだ。この島で生まれたサルからわたしたちが生まれたのだ。進化というものがあるのだ。」

 と神主は説明した。

「アフリカ起源説はどうか。先祖のサルがアフリカから海を渡ってきたのか」

「それはちがう。ご先祖さまはもともとこの島にいた。先祖のサルは土着神なのだ。」

「土着神? なんだ、それは。」

「島にもともといた神ということだ。」

「学説と比べて不自然だ。」

 と島民が生半可な知識で食い込んだ反論をするので、神主も頭に血がのぼってきた。

「この島の島民は、アフリカとは別にヒトへ進化したのだ」

 と神主はとうとうぶちまけてしまった。

「外国を敵にまわすのか。行きすぎた民族主義は争いを産むぞ」

 などと島民の言い分はひるむことはなかった。

「先祖のサルが海を渡った可能性がある」

「ご先祖さまのサルとなれば、船を作って太平洋を渡ったくらいやったのではないか」

「古代文明があり飛行機に乗ってやってきた説をわたしは主張する。この島にも超古代文明があったのだと信じたい。」

 島民はさんざん勝手なことをいった。

「わたしたちはみんな船乗りの子孫だ。船乗りの民族として、海を越えるものを称え、来訪神を尊敬し祝福するものだ」

 と島国神話をいいだした。

 土着神と来訪神の対立と調和は、太平洋諸島文明では新しく指摘された理論であり、無視するのは難しかった。

 神主は頭にのぼって血がおさまらず、

「我が島には古来から土着神がいて、来訪神より偉かった。我が島の先祖は、サルとカラスであり、この二つの土着神がどんな来訪神より偉い。」

 とまくしたてた。

「だったら、先祖のサルとカラスはどこから来たんだ。海を泳いできたんじゃないのか。」

 と島民は追求をやめない。

「いや、ご先祖さまは海を渡ったのではなく、海水から作られたのだ。我々は海から生まれた。この近くの海からだ。」

 まあ、それでいいか。と島民はあとは神主に任せて帰宅した。

 太平洋には、来訪神に征服されなかった土着神がたくさんある。征服されずに残った土着神は、おそらく海を越える英雄より価値のある何かを伝えているのだ。それがサルであるにせよ、カラスであるにせよ。土着神は「来訪神を尊べ」といい、来訪神は「土着神を尊べ」というのだ。それが船乗りなのだ。

 最後に、島民は、

「我らの島には、征服されなかった土着神がいる。征服されても蘇る土着神もだ」

 といった。

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