第25話 六つに一つの真実
範一と朝治は元々一つの体だった。彼は確かにそう言った。範一は既に思い出していたのだ。
了は範一の言っている意味を理解できなかった。彼は範一を普通の人間だと思っているのだから当然だ。
「兄弟は一心同体……みたいなこと?」
「違うよ。言っても信じてもらえないかもしれないけど……」
しかし範一が嘘をついたり正気を失ったりしているようにも見えなかった。
「……信じられないけど、信じるよ」
「……朝治には黙っててくれ。せめてあいつらには普通に生きててほしい」
「分かってる、よ」
内心言うわけないだろ、と思ったがぐっと飲みこんでうなずいた。
そして翌日。
「……言いたいことあるなら言えよ」
「えっ!? 何でもないって!」
いざ朝治を目の前にすると言わなくていいのだろうかという思いがこみ上げてきた。朝治は朝治で普段はうるさい了が黙り込んでいるのに違和感を覚えた。
「何かあったのか? 気持ち悪ぃな」
「いや、ホントに気にしなくていいからさ!」
「…………範一元気か?」
「ど、どうして範一のこと知ってるんだよ!?」
「……やっぱりな」
ばれた。了は思わずあっと声を漏らした。
「範一、今どこにいるんだ? 知ってんだろ?」
「あぁ、そのことか。それなら、今はうちに泊まってるぜ!」
これは口止めされていなかったのであっさり答えたが、範一の心情を考えればこれもあまり言ってほしくなかったのではなかろうか。
「……あっそう。放課後お前ん家行くから」
「そんな急に言われても……範一も会いたくなさそうだったし……」
「もう決めたから。断られても勝手に行くからな」
そして結局断り切れずに朝治を招き入れた。流石の範一も曇った眼差しで了を見つめた。
「ごめん! 断り切れなくて……」
「久しぶりだな、範一」
了を押しのけて範一に詰め寄る。範一は近づいてくる朝治に距離をとる。
「……何で逃げるんだよ」
「もう隠しておけないか」
範一は観念したように立ち止まった。そして朝治の額に左手でそっと触れた。
すると範一の指先が、朝治の額に勢いよく沈み始めた。
「はっ!? 何だよこれ⁉」
範一は急いで左手を引き抜いた。指先には血の一滴すらついていない。朝治も全く痛みを感じていないようである。
「どういう……ことだよ?」
「なぁ、了。悪いけど、少し外してもらえないか?」
範一が頼むと了は戸惑いながらも外に出ていった。そして範一の懐からライゲンが出てきた。パルポンも朝治のカバンから顔を出す。
「ライゲン、説明してくれないか?」
「いいのかよ?」
「……朝治、今から言うことはお前にとってつらいことかもしれない。でも本当の僕たちのことなんだ。だから……」
「御託はいい。さっさと話せ」
朝治はじれったくなって鼻息を荒くしながら催促する。ライゲンはためらいながらクチバシを開いた。
「単刀直入に言うぞ? お前ら……ザクシア様の子どもなんだよ」
朝治は目を見開いたまま固まった。しばらくして口を開いたが、パクパク動くだけで言葉が出てこない。代わりにパルポンが食って掛かった。
「ザクシア様って偉大なる造物主であるあの?」
「他のザクシア様を知ってんのかよ? そのお方だ」
「子どもってどういうことだよ?」
「範一と朝治は、ザクシア様がご自身の後継者として生み出した存在なんだよ」
「じゃ、じゃあ、それがどうして下界にいるんだよ!?」
「……落としたそうだ」
それを聞いた朝治はこらえきれないように笑いだした。
「落とした? 嘘つくんならもっとうまく言えよ? なあ、範一?」
範一はただうつむいて黙りこんでいる。
「何とか言えよ!! 全部ライゲンの作り話なんだろ!?」
「朝治……さっき思い出しただろ? 僕たちは元々一つだった」
朝治は下を向いて唇をかんだ。瞳には涙をいっぱいにためている。
「嫌だよ、俺……普通がいい……」
「……分かってる」
範一と朝治たちは一つの存在だった。それが下界に落っことしてしまった時に、肉体が二つに、魂が六つに、別れてしまった。
「でも僕はそんなこと全然聞いてない……」
「パルポン、それはお前が話を聞いてなかっただけだ」
「僕だって嫌だよ。……だから一つに還らないように遠ざかった」
「分かってない! 何も分かってないよお前!」
朝治の剣幕に範一は戸惑った。
「家族一緒にいるのが普通じゃ、ないのかよ? 俺一人じゃ普通になれないよ……範一がいて、俺がいて、美玖がいて、雫月がいて、雄吾がいて、陸がいて、あわよくば、友達とか恋人もいて、それでそれなりに幸せに暮らせるのが……それが普通じゃないのか? どうしても無理、なのか?」
朝治の悲痛な訴えに範一もライゲンもパルポンも目を伏せた。
「どうしても……無理だ……」
「そうかよ……それならもう会うこともないだろ」
朝治は黙って背を向けて立ち去った。範一には引き留めることなどできなかった。これが朝治にとって一番の選択だと思っていたのだから。
「……さよなら朝治。僕が神様になるまでの辛抱だ」
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