第17話 自立への踏み台ーその②
「怖いなぁ……どうしようかメフィスト?」
「君の目的のためならば……殺してしまえばいいんじゃないかな?」
「そうか、それなら無視するわけにはいかないし確実だね!」
陸の目の前で物騒な会話が繰り広げられる。彼らは至近距離から銃を突きつけられていることに気づいていないのだろうか?
「ふざけたこと言わないでよ!」
『そうだ! お前もナビゲーターならパートナーを正しく導けよ!』
よく言ったパルポン、その通りだ。メフィストはこの辰也という少年のパートナーでありながら彼に殺人を教唆している。これはよくない。
「その声はパルポンですか? 私も彼に勝ってもらわないと困るのですよ。そのために強くなってもらわないと」
『だからってお前……』
このスゴロクで勝者のパートナーだった天使は新世界での地位が約束されるので、彼らも必死である。とはいえこれはダメだ。陸も静かに怒りを燃やす。
「……パルポン。この悪魔から、彼を解き放ってあげないと」
「心外ですねぇ。私も一応神の使いですよ?」
「メフィストは僕のこと応援してくれてる。悪く言わないでくれ」
(ダメだこいつ。陸、戦うなら私と……)
「いや、僕が撃つ」
サイコロから弾丸が25個飛び出してくる。6発はそのまま装填して残りはポケットにねじ込む。陸は静かに引き金を引いた。
「メフィスト!」
「はいよ!」
メフィストはローブを辰也の肩の上に残して姿を消した。パルポン銃から放たれた弾丸は辰也の右足に直撃した。
「あっ……ちょっとパルポン!」
『ミスった……まあ足だし致命傷には……』
辰也は銃弾を受けてそのまま消滅してしまった。焦る陸とパルポン。
『えっ』
「これマズいんじゃ……」
「どこ狙ってるの?」
背後から二人に声を掛けたのは辰也であった。さらに焦る陸とパルポン! 辰也の蹴りがみぞおちに入る!
「がはっ……」
「さあ、助けを呼ぶんだ!」
「呼ばないよ……」
「強情だね……メフィスト、ストックはいくつある?」
『104個かな。取り敢えず5人ぐらいでいいかな?』
「OK、十分」
すると何と辰也が6人に増えた。彼は賽子パワーを分身に変質させているのだろう。6人の辰也が陸を取り囲む。
「この人数で痛めつければ助け求めるでしょ……」
6人がかりで陸を足蹴にする辰也たち。それでも陸は叫び声一つ上げない。あくまで彼自身の手で辰也を止める気なのだ。
(陸! 私に代わって!)
「ダメだよ姉ちゃん……女の子なんだから体大事にしてよ……」
(違うって、私なら分身だけ消せるでしょ!)
「……そうか……それじゃあ……ぅううう!」
入れ替わろうとした陸だったが、その瞬間に左手を踏みつけられた。
『六つ目か……厄介ですね』
「ぅぐ……これじゃ入れ替われない……」
「ねぇ、助け呼びなって」
「……断るよ」
陸は考えていた。辰也がもし彼の思惑通りに“自立”したとしても、それは彼が成長したとは言えない。依存の対象が親からメフィストに変わるだけだろう。だとしたら……
「メフィストだっけ……? 君はどうして彼の成長を邪魔するの?」
『心外だねぇ……彼は立派に成長して大人になろうとしているじゃないか』
「どうかな? 君は、彼を都合のいい傀儡にしようとしてるだけじゃないの?」
「えっ?」
『……面白いことを言う』
陸の問いに、辰也のうちの一人が動揺の表情を見せる。陸はそれを見逃さなかった。
「パルポン、そこだ!」
『おっしゃ!』
右手に握ったパルポン銃が辰也のローブを撃ち抜く。すると分身はすべて消え去り陸の左手も解放された。立ち上がった陸は静かに辰也を見つめる。
「……やっぱり、それじゃ君は強くなれないよ」
「あっ……あぁ……メフィスト!? 彼が言ってたことって……」
『彼の口車に乗せられちゃいけないよ。私は君の味方さ』
「うん……そう、だよね……あいつ許せない……全部使おう」
『しょうがない子だねぇ。一気に潰そうか』
辰也が今度は99人に分身した。陸も雫月に交代……しない!?
(ちょっ、陸!?)
「……よく考えたらこの子ここの生徒だし、姉ちゃんに代わるのはマズいかなって」
(はぁ!? そんなこと言ってる場合?)
「兄ちゃんに迷惑かけたくないから」
装填されていた弾丸を二つ、光球に戻して両足に纏わせる。その脚力で飛び跳ねて屋上へ。また屋上かよ。
「待て!」
辰也たちも飛び跳ねて追いかけてくる。これだけ派手に暴れているのに誰も気づかないのだろうか? パルポンが上手いこと誤魔化してくれているらしい。流石。可愛い。
「残り21発……本物見つけないと……」
壁面を駆けあがってくる辰也を屋上から伺いながら苦い顔をする陸。21発で99人撃つのはどう考えても無理なので。
『……いや、その必要はないぜ』
「どういうこと?」
『ラッキーナンバーだよ。もう一回振れ!』
ラッキーナンバー。その人間が最も賽子パワーを引き出すことができる出目である。大概の場合それは6だ。陸も例外ではない。
「でもそんな都合よく……」
『お前ならできる。朝治も言ってたろ?』
駆けあがってくる辰也たちとサイコロを交互に見つめる。陸と雫月の魂は朝治の賽子パワーによって繋ぎ止められている。無駄に消費すれば自分たちの命も危険なのだ。それにもし本物に当たったら、当たり所が悪かったら……
(陸! 何迷ってんだ!)
「えっ、兄ちゃん!?」
(人が寝てる隙に面倒事に首突っ込みやがって……)
(ごめん、起こしちゃった♪)
「ごめん、でも……」
(肩肘張らなくていいんだよ、引き金だけ引けばパルポンがなんとかしてくれるさ)
「えっ……?」
(早く片付けて来い)
朝治の言葉に陸の決意は固まった。賽子パワーのストックはまだある、陸さえ恐れなければまだまだ戦える。陸は手の平の上でサイコロを転がした。
「……6! パルポン、お願い! 撃つならあのローブだ!」
『今度はミスらないぞぉ!』
サイコロから黄金色の弾が6つ飛び出し、パルポンの中に残っていた弾をはじき出しながら装填される。
そして陸は、駆け上がってくる辰也に引き金を引く。
「たった6発で……」
「本当にそうかな?」
よく見ると、パル銃から放たれた弾丸はリボルバーの弾倉のような形状になっている。そこからさらに6発放たれる。そしてその弾丸からさらに6発……
「さらに……さらに……さらに……!? どうなってんだ!?」
『マズいぞ、辰也!』
「メフィスト、辰也くんを開放してもらうよ!」
増殖した弾丸が辰也たちのローブをすべて撃ち抜いた。辰也は壁面から真っ逆さまに落下していった。
「あっ! 危ない!」
「ひっ、ひぃいいい!」
『辰也!!』
ローブから元の姿になったメフィストが、辰也の下敷きになった。かばったのだ。
「メフィスト……」
「辰也、怪我はない、か……?」
「僕……彼らのこと誤解してたかも」
『歪んでても絆はあったってことだな』
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「……メフィスト、このサイコロは捨てようと思う」
「辰也!? いいのかい?」
「目が覚めたよ。自立するには、僕自身が変わらないといけない。そう……だよね?」
辰也は陸のほうに振り向いて遠慮がちに尋ねてくる。陸は嬉しそうにうなずいた。
そして陸に近づいてくると、手を固く握りながらサイコロを手渡した。
(これでサイコロ6つか! でかしたぞ陸!)
「……うん、よかった」
しかし陸には少し引っ掛かることがあった。メフィストは、陸たちのことを六つ目と呼んだ。雫月との会話は聞かれたが、それでもなぜ3人分の瞳があると断定したのだろうか?
「ねえ、メフィスト、さっき僕たちのこと……あれ?」
「メフィストなら天界に帰ったよ。自分がいると甘えちゃうから、って……」
「そんなぁ……」
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すがすがしい朝だ。朝治の火傷も回復し、いつも通り朝治の体で学校に向かう。初希も朝治が戻ってきて上機嫌だ。
「じゃ、またお昼に」
「うんっ!」
教室の前で初希と別れ自分の席に着く。そして朝治に背後から近付いてくる影。了だろうか?
「駒並さん、おはようございます!」
「えっ、誰?」
「あ、自己紹介まだでしたね! 1年の
戸惑う朝治。周囲の視線に焦る朝治。しかし辰也はお構いなしである。
「あ、あの、やめて? 見られてるから、ちょっと」
「見ず知らずの僕のためにあんなに親身になってくれて……一生ついていきます!」
「何言ってんの? …………陸ゥ! テメェ!」
(ごめんなさ~い!!)
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