第3話 ルール無用
「僕はパルポンだよ! 初めまして!」
丸っこくて今にも抱きしめたくなるような愛くるしさのぬいぐるみが可愛らしく挨拶をする。
「初めまして……。……ネコさん?」
(あっ)
さっきまで天使の微笑みをたたえていたパルポンだが、その言葉を聞くと一気に全身の毛を逆立たせて牙をむき出しにした。
「僕は神の使いだ! 下界の下等生物と一緒にするな! ふしゃー!」
(怒ってるパルちゃん可愛いすぎるぅー!)
(マズいって兄ちゃん……)
「ストップ、パルポン。ゲームマスターに報告するぞ」
「げぇっ! それだけはご勘弁を!」
「ビックリさせてごめんな」
「こいつらが使っていたのは“
「はぁ……」
了は釈然としていない。彼の興味は力の名称よりも、むしろその物理的な原理なのだ。
「この特殊なサイコロを使うことで、
「いや、それより原理はどうなってるんだ? エネルギーはどこから取り出してるの?」
「んにゃ? …………僕難しいこと分かんない」
了が朝治の方を見つめるが黙って首を横に振った。
だが、それが逆に了を奮い立たせた。
「未解明の物理現象……!! これだよ、俺がやりたかったのは……!!」
「あのー、了?」
「朝治! 任せてくれ、俺がそいつを完・全・解・明! してみせるぜ! そうと決まれば……! ジッとしちゃいられねぇ! ィヤッフゥ!」
テンションMAX120%となった了は脱兎のごとく朝治の部屋を飛び出していった。
「……変な人間」
「あいつ面白れぇだろ?」
ケラケラ笑う朝治をパルポンが睨み付ける。朝治はとぼけているがなぜ彼が怒っているかなど分かりきっているはずだ。
「お前、今自分たちが何番目か分かってるか?」
「あー、どうだろうな? ちょっとは順位上がったかな?」
「……36番目」
「おお! 上がってんじゃん!」
「参加者36名中な」
「何だ、また上位者の脱落か……なかなか厳しいねー」
朝治の呑気そうな態度がパルポンの神経を逆撫でする。
「お前状況分かってんのか!? 1位の奴と何マス差あると思ってんだよ!!」
「そんな怒るなよ。そんなに俺を神様にしたいのか?」
「よく言うよ、そんなつもり微塵もないくせに。でも僕の足は引っ張るなよ!」
「分かってる。全力で振るよ」
パルポンはフンスと鼻を鳴らして、窓際の定位置に戻っていく。その短い手足がわなわな震えているのを、朝治は見逃さなかった。
「……とはいえ、喧嘩しっぱなしってわけにもいかないよな」
(パルちゃんに嫌われたくないしね)
(……ナビゲーターは大事な相棒だものね)
とはいえここからの巻き返しがかなりの困難であるのも事実だ。何マス先が上がりかは知らないが、1位との差は1123マス。絶望的な差だ。
このスゴロクの勝利条件。あがりマスのマスブロッカーを最初に倒すこと。
今の1位はあいつだ、辿りつけば必ず勝つだろう。
「ダメだ、どうやっても逆転のヴィジョンが見えない」
(情けないな。無理に抜き去る必要ないんじゃないか?)
「
(特殊なルールがいくつかあったろ?)
第2.
盤上で他のコマと遭遇した場合、互いの意思に関係なく戦闘を行い、敗北者はゲームから脱落する。
また、上記以外の理由で盤上の他のコマを攻撃してはならない。
(つまりほっとけば上の連中はドンドン脱落していくってわけさ。それで最後に我々はおいしい所取りすればいい)
(それはいいとしても……どうやって最後に残った一人に追いつくの?)
(…………)
「それが一番大事だろうが! あっ! だからお前サイコロ振る時手抜いてたんだな!?」
(完全に盲点だった)
「ははは! バーカ、バーカ!」
(二人とも落ち着いて!)
しかしルールの抜け穴を突くというのは、意外といい考え方かもしれない。どのみち正攻法では絶対勝てないのだから。
「ん? ……なあ、このルールさぁ……」
第3.
ゲームで使用するサイコロは開始時にゲームマスターより配布されたもの以外認めない。
(朝治、無理だぜ。適当なサイコロ持ち込んで出目を水増ししよう、って言うんだろ?)
(そうだよ兄ちゃん。貰ったの以外ダメって書いてあるじゃない)
「そうじゃない。貰ったサイコロならいくらでも使えるんだろ?」
(まあ実際うちらは3つも使ってるしな)
「だったらさぁ……、他の参加者のサイコロを奪えばいいんじゃないか?」
(朝治! 珍しく冴えてる!)
(人のものを盗るのは……)
(陸! じゃあ他にいい方法があるのか?)
(でもどうやって奪うのさ? 戦って奪い取るにしても盤上で追いつかないと……)
「いや、その必要はない」
(ははっ! あんた悪魔か!)
(……兄ちゃん、まさか!)
「上記以外の理由で盤上の他の参加者を攻撃してはならない……つまり、盤外なら何してもOKってことだ」
(いいね、ワクワクしてきた!)
(うぇぇ……大丈夫かなぁ)
「よし、早速他の参加者を見つけてブッ倒すぞ!」
(おぉー!)
(おー……)
逆転に向けて一筋の光明を見出した朝治たち。しかしそれは、さらなる苦闘の幕開けであった。
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