第2話 単純に三倍
そしてこのスゴロクには、マスブロッカーという特殊な役割を持った駒が存在する。特定のマスを守る役割を与えられた駒。彼らがいるマスに止まってしまうと……
「それでは、駒並朝治様。マスブロッカーとの、戦闘を開始していただきます」
「あーもう! ホンット俺って運がないなぁ! チクショー!」
こうなるのである!
朝治が3つのサイコロを構える。対して仮面の男、マスブロッカーのサイコロは同じく6面、されど一つ。普通に考えて、朝治が出目の大きさで負けるはずがないのである!
「行くぞぉおおおお!!」
朝治が勢いよく投げたサイコロの目は…………1! 4! 1! 合計6!
対してマスブロッカーの出目…………5!
「っギリギリ! 喰らいやがれ!」
転がったサイコロの目から、青白い光球が6つ飛び出す。
同じように、仮面の男の賽からも5本の光線が放たれる。
「黒焦げにしてやるぜぇ!!」
朝治の光球が螺旋模様を描きながら仮面の男に迫る。
「軌道計算。計算完了」
しかし仮面の男は、光球が直線状に重なる一瞬を狙ってまとめて撃ち抜いた。
残り4本の光線が、今度は朝治に襲い掛かる。
「嘘だろ!?」
(あーあ、出目が勝ってるからって油断するから)
「……クッソ! こうなったらもうひと振り……!」
(兄ちゃん! 無茶したら……)
しかし
(全然ダメじゃん)
「数じゃねぇんだよ!」
光球を両足に一つずつ引っ付ける。これによって、朝治の脚力は飛躍的に向上するのだ!
壁と天井を跳ねまわりながら4本の光線を機敏に回避する。
「ハァ、ハァ……どうだオラァ!」
「……速度再計算。軌道計算。確率再計算」
仮面の男も負けじとサイコロを振りなおす。…………3!
「ハッハ―! また避けて……」
(さっきの光線もまだ生きてるよ)
「先に言えよ! 雫月テメェ!」
光線の1本が天井を焼き切ってコンクリートが頭上に落下してくる。危うし、朝治!
しかしさすがは朝治である、オーバーヘッドキックで難なく粉砕!
「クソッ、このままじゃヤベェな……陸! 代われ!」
(えっ!? 僕!?)
光線の隙間を器用に跳び回りながら、左手を覆う手袋を素早く脱ぎ捨てる。
「……その左手」
「お? ようやく感情らしいの見せやがった……っぶねぇ!」
仮面の男が驚くのも無理からぬことである。朝治の左手には、手の平と手の甲に二つずつ、目がついているのだから。
「行くぞ、陸!」
(兄ちゃん、
「2発ありゃ十分だろ!?」
(そんなぁ!?)
朝治が左の手の平で顔を覆う。するとどうだろう、朝治の黒々した髪は明るい茶色に変化し、手ぶらだったはずの右手にはリボルバーが握られていた。
「ひぃえええ!? そ、装填!」
朝治──否、陸が叫ぶと足を包んでいた光は銀色の弾丸に変化してリボルバーの弾倉に吸い込まれていく。
「もう知らないからね!?」
(おっしゃ! しっかり狙えよ~!)
『モチのロン!』
陸は仮面の男を見据えながらリボルバーの撃鉄を起こす。光線が迫っているがその集中が乱されることはない。
「……ファイア!」
放たれた弾丸は光線の隙間を縫って、仮面の男目がけて一直線!
「やはり、あなたは……いや、あなた達は……」
仮面の男が額を撃ち抜かれて倒れると、陸に迫っていた光線も消え失せる。それを見た陸はその場にへなへなと座り込んだ。
「はぁ~上手くいった……」
(流石だぜ陸! 1発で足りたな!)
(あんたも結構無茶させるよね)
「……兄ちゃん、もう元に戻っていい?」
(あいよ、助かった。ゆっくり休めよ)
投げ捨てられた白い手袋を付け直すと、朝治に戻った。彼らは、いわゆる“そういう体質”なのだ。
「さてと、じゃあ見つからない内に……」
「ちょ、朝治……?」
後ろから聞こえる声に朝治は凍り付いた。恐る恐る振り向くと、物理実験室の扉の隙間から
(あちゃー)
(兄ちゃん……)
朝治の脳裏には幼い頃の苦い記憶が甦っていた。普通じゃないからと言って周りの人間から遠ざけられ、蔑まれてきた記憶が。今度こそ上手くやるはずだったのに、こうも容易く日常というのは崩れ去るものなのか。
「了、これは、だな……えーと……」
「すげぇ……すげぇ! さっきのは何だ!? 一体どんな物理法則が働いて……」
「あー、了? 俺が、怖くないのか?」
「え? そんなのもうどうでもいいよ! 今は好奇心でいっぱいだ! ちょっと測定しておきたいからさっきのもう一回……」
杞憂だったようだ。了は怖がるどころか、興味津々だ。朝治の方が思わずたじたじになってしまう。
「先生、こっちです! こっちから爆発音が……」
「マズいな……! 了、すまん!」
了を肩に担いでそのまま外へダイブ! ちなみにこのフロアは4階である。
「うえええええ!? 何でェえええええ!?」
「詳しい事情は後だ!」
「なあ、朝治! 教えてくれよ!」
「やっぱりお前変なやつだな」
(ははっ! 今回は物理オタクに感謝だね!)
「……うるっせぇなぁ。今から説明する。……パルポン!」
朝治が窓際に置かれた猫のぬいぐるみに向かって呼び掛ける。了は困惑しているが、決して寂しさのあまりぬいぐるみの声が聞こえるようになったとかそういうことではない。
「おう、三人とも帰ったか!」
「ただいま、パルポン。実はそいつに見られちゃってさ……」
(パルちゃーん! 今日も可愛いね! 朝治、代わって! パルちゃん抱っこさせろ!)
(ちょっと……今はそんな場合じゃ……)
了に雫月と陸の声は聞こえていない。しかしそれを差し引いても異常な光景。ひとりでに動き回るぬいぐるみと、それとコミュニケーションをとる友人。
「何これぇ……」
「おっ、お前だな! 初めまして、僕はパルポンだよ!」
「……初めまして」
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