第5話 もちろん身内なんだから心配するのは当然だし別にコンプレックスとかそういう訳ではないんだよ

制服のまま、家を出る。

そしてすぐに、物陰に隠れた。


「もしもし...、1年の七尾です。

えっと、今日少し体調が悪くて...。学校休みます。

はい、はい...、ありがとうございます、失礼します」


携帯を切る。

初めてだったが、名演技だったと自画自賛した。


即座に自転車に跨る。

いつもは姉が大学に行くのに同乗してるので、

乗らない。


「ドウシテ学校ニ、行カナインダイ?」


「姉ちゃんが心配だからだよっ!」


「アテハ、アルノ?」


「わかんねぇけど...。

スマホにも連絡入れたけど既読になんねえし...。

最近様子が変だと思ったら...。変な事ならなきゃいいけど」


とりあえず大学へ向かってみる。

金が無いのでこのまま自転車で行く。





大学へは車で、40分程かかる。

私は、七尾優香。大学2年。


これまではとても楽しい大学生活を送って来たが、

ガラリと変わったのは去年のクリスマス。

高校3年の時から付き合って来た彼氏に別れを持ちかけられた。


弟にあげたカメラは、誕生日に贈られた物だった。


今思えば、彼も写真が好きだった。よく野鳥を撮影していたのを思い出す。

大学周辺は自然に囲まれているので、一緒にドライブしたりした。


だが、今となっては全て過去だ。




気分転換の為に、携帯は全て置いてきた。

時間を忘れて、ダムの湖面を見るのが今は何よりの幸せだ。


何故か昔から自然を見ると心が落ち着く。


変わってるなぁ...。自分。







「ハァ...ハァ...」


「1時間モ、休憩ナシデ漕グナンテ君ハ凄イネ」


「ハァ...、時計の仕事してくれてんじゃねーか、タヌキ野郎」


「ダカラ、僕ハラッキービーストダヨ」


長い坂道を駆け上った。






「ハァ...!ハァ...!ハァー...」


長い道のりを超えて湖沿いの道にやって来た。


(ここも大学への通り道...!姉ちゃん...)


数十メートル漕いだ時だった。

姉ちゃんの車だ。



「もしやっ...!」




「ハァー...」


「姉ちゃんっ!!」


「えっ?」


「はやまっちゃダメだ!」


「ちょっ!?ユウ!?アンタ学校は...」


「姉ちゃんが最近心配だったから!

様子が...、いつもと違ったからさ...」


「....」


「...何かあったら俺に言ってよ。家族なんだからさ...」


「はは...、変わったね...」


苦笑いを浮かべた。


「私は死んだりしないから大丈夫よ...。

ところで帰れる?」

「,..大丈夫」


「遠慮しないで!」





家に帰って、姉から最近の事を聞いた。

俺はその話をからあることを提案した。


「あのさ、姉ちゃんもジャパリパークに行かない?」


「...え?それなに?」


「めっちゃいいところだよ。なあ、タヌキ」


「僕ハ、ラッキービーストダヨ」


「な、なにそれ...」


「ラッキー、姉ちゃんをパークに招待できる?」


「出来ナクハ無イヨ...」


「よし!じゃあ行こう、姉ちゃん!」


「はあ...」


半ば愕然とした顔だった。まあ、無理もないか。

姉弟で寝るのは、いつぶりだろうか。


「パークってまさか...」


「さっさと寝てよ姉ちゃん」


さあ、ここからはパークの時間だ。

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