第4話 一歩踏み出す勇気を持って君の写真を撮りたいと声を掛けたらすごく怪しまれるのは当たり前だよね

姉からお古のカメラを貰った。

黒のデジタル一眼レフカメラ。小型だが重量がある。

何故姉はこんなものを持っていたのだろう?


滅多に写真なんて撮る趣味はないのに。


そう言えば、最近彼氏の話をしていない。

もしかして...。


まあ、姉のことは置いといて、俺はパークで友達を作らないと、

どうやら、生き延びられないらしい。


ベッドに入り寝る支度をした。


「...なあ、タヌキ」


「僕ハ、ラッキービーストダヨ」


「カメラ、パークに持っていけない?」







「・・・あれ?」


俺が目覚めたのは、アードと一緒に寝た場所と違うところだった。

深い緑色の木が生い茂っている。


「なぁ、どういうことだ?」


青タヌキ姿のラッキーに尋ねた。


「課題ヲクリアシタカラ、先ニ進メタダケダヨ」


ゲームの1面をクリアしたから、2面に進んだということだろうか。


「アードウルフは?」


「君ノ持ッテイル物デ、呼出ス事ガ、出来ルヨ」


持ってる物と言えばこのブレスレッド...、

いや、あれ?


「ブレスレットは?」


「アレハ、現実世界ダケノ物ダカラネ。

面倒カモダケド、君ノバッグノ中ニ入レサセテモラッタヨ」


「バッグ?...いつの間に」


その中身を開ける。

姉から貰ったカメラと、何やら箱が入っている。


「何だこれ...?」


蓋を開けると...。


「指輪...?」


「現実世界ノブレスレットハ、君ヲ勇気付ケル為ノ物ナンダ。

アードガ、傍ニ居ルト思エバ、心強イト思ッテ...。

ダカラ、コッチノ世界デハ、"リング"ナンダ」


このラッキーは俺を思って...。

いや、なんかちょっと過保護な気もする。


「その説明をしてくれよ...」


「"フレンズリング"ト言ッテネ、

指ニ付ケタリングノ、フレンズガ現レルンダ」


「逆に外すと居なくなるのか」


「ソウダヨ。時ト、場合ニヨッテ、使イ分ケテネ」


「・・・てか!RPGのゲームかよ!」


いや、しかし、この世界は良い。

ツッコミを入れられる程、心の余裕が生まれる。


フゥ...、と息を吐いた。


(まあ、友達作りゃいいんだろ?)


積極的に自ら行く。

それが、今日の課題だ。


と、その前に、フレンズリングを中指に嵌めた。




「あれ...あっ、ああ!」


おどおどしてる、彼女らしい反応だ。


「よお」


「あぁ...、ユウくんかぁ...」


ホッとしたように胸を撫で下ろした。

というか、雰囲気が昔からの幼馴染みたいな...。


「何か雰囲気変わった?」


「あっ...、い、いやぁ、ちょっと、

ユ、ユウくんも自分を変えるとか、い、言ってたから...

あたしも変えてみようかなぁ~、なんて思ったんですけど...

...ダ、ダメでしたか?」


軽く頬を赤く染める。


「いやいや、そんなことないよ。...むしろかわいい...」


「むしろ...?」


「あっ、いやなんでもないよ!あっ...、そうだそうだ」


俺はカメラを取り出した。


「あ、それって...、"写真"を撮る機械ですよね!

使ってるの見たことありますよ」


「撮ったことある?」


「い、いや、ちょっと恥ずかしくて...」


「...一緒にどう?」



彼女の表情は強張っていたが、一緒に写真を撮影した。

初のツーショット。


少しは友達っぽくなれたかな...?






友達を作るために森の中を進んでいると


「ん...、あれって...」


茂みの向こうに耳が見えた。


「あれ、フレンズだよな?」


「フレンズ...、でしょうね」


「よし...、自分から声を掛ける練習をするぞ...」


「はえ...?」


フゥー、と深呼吸する。そして、一歩踏み出し...


「誰っ!?」


「わっ!?」


「ひゃっ...!」




お互いに驚いた後、挨拶した。


「...俺のことは、ユウって呼んで」


「あっ...、アードウルフと申します...」


「...マレーバク」



彼女もまた、対話が苦手なのだろうか。

変わるとか宣言しつつ、やはり、互いに根本はコミュ障。

沈黙が周囲に蔓延する。


「あのさ...、写真撮ってもいいかな?」


「ンンッ...」


何か察したように隣のアードが咳をする。

小声で、「どうしたんだよ」と尋ねる。


「いくら話題が無いからってそれは...」


「ならアードが何か言ってよ...」


「い、いや、あの、で、で、でも...」


「こ、コソコソと何...」


あっ、と2人は視線をバクに向けた。


「怪しい...、な、何か裏でもあるんじゃ...!

追剥ぎをして肉を貪り食うつもりじゃ...」


「想像力が豊か...、いやそんなことしないから!」


「そ、そうですよ!そ、それに肉はあまり食べませんから!」


慌てて弁明する。


「じゃあ...、なんなの?」


「えっと...、友達になりたくて...」


俺の口からそういう言葉を出すのは少し恥ずかしい。


「あなたは?」


「あ、えー...、その、まぁ、あたしも友達作りを...」


「友達...」


ハァ、と溜息を吐いた。


「...どうした?」


異様な感じがしたので、尋ねた。


「他人を信じられない...。悪いけど...」


そのまま、後ろを振り返り去ろうとする。

咄嗟にアードが声を掛けた。


「あの、何でですか?何か訳でも?」


「話したって何も...」


「話さなかったら何もわかんないに決まってるだろ」


「・・・・」


俯いて、何も言わない。


「俺らが信用出来ないなら、信用出来るって証明してあげようか?」


「えっ...?」


彼女が振り向いた。


「信用って...、どうやって?」


アードも尋ねる。


「うーん...」

(そこまで考えてなかった...)


何とか急いで案を捻る。


「私のお願い、聞いてくれますか。そしたら...、信用します」


「ああ、聞くよ」


「...私が他人を信用できない理由は、

昔、あるフレンズに洞窟探検に誘われたんです。

それで、ついて行ったらセルリアンだらけで。

その子は先に逃げちゃうし、怖い洞窟で1人にされたのがすごく...」


その時の記憶がトラウマだという事だろうか。

恐らく、そういう事だろう。


「頼みというのは、その洞窟で失くしてしまった

首飾りを見つけてきてほしいんです」





というわけで。

その洞窟の前までやって来た。


「行くぞ、アード。さっさと済ませよう」


「えっ...、ええぇ...」


「嫌なら無理しなくていいよ?」


「あっ、いや!自分も力になりたいんです!

い、行きますっ!」



彼女はかなり危険そうなニュアンスで

この洞窟のことを言っていたが、案外そうでも無い。

セルなんとかどころか、フレンズすらもいない。


「アード、ところでセルリアンって何?」


「えーと、大きくて食べられたら大変なんですよ」


「どんな奴?」


「形は色々ですけど、不気味な一つ目があるんです」


「...これみたいな?」


俺は前方に立ちふさがる四足の物体を指さした。


「そうですそうです...、ってえええっ!?

に、逃げてくださいっ!!」


「は、はあっ?」


「はあ?じゃないですよ!あれがセルリアンですよ!」


「まて、あいつの中になんか光ってるぞ!

首飾りじゃね?倒そうよ」


「た、倒そうったって・・・」


「なんか必殺技的なのねーのかよアード!」


「あることはあるけどあまり自信が...」


「俺が居るから何とかなるだろ!」


咄嗟に謎の理論を彼女に押し付けた。


「や、やればいいんでしょ!やれば!」


ヤケクソ気味に彼女は答えた。

飛び上がり、セルリアンの背中を狙った。


(もうどうにでもなれっ!!!)


目を閉じ、拳を付き出した。






「アード!!」


「えっ...?」


「倒したんだぜ!」


たしかに、目の前にいたセルリアンが砕け散っている。


「図体デカイ割にトロかったんだな」


(やった...!セルリアン倒したの初めて...!)


「これが友達の力なんですね!!

自分一人だけじゃ、尻尾巻いて逃げてましたっ!!」


(めっちゃ喜んでる...。俺は倒せって命令しただけなんだけど...)


「これからも友達お願いしますね!」


激しく握手された。


「ああ、ははぁ...」







「持ってきたよ」


俺は首飾りを渡した。


「ほ、本当に持ってくるなんて...。

ありがとうございます...!」


「礼ならアードに言って。活躍してくれたから」


「そんなっ...、た、大したことしてませんよ!」


明らかに照れ隠しだ。

まあいいか。


「少し、他の人のこと、信じられるようになった...?」


「はい...、えっと、友達になりたいんでしたよね。

じゃあ、あなた達のお友達になります」


よし...。これで2人目の友達が出来た。


「じゃあ、記念に3人で...」








朝、目が覚めると、緑色の石がブレスレッドに追加されていた。


「あれ...?タヌキ、カメラに映ってねえぞ!どういう事だよ!」


「当タリ前ジャナイカ。夢ノ中デ、写真ガ撮レルナンテ。夢ノ話ダヨ」


「...」

何を上手いことを言っている...。

いや、よくよく考えれば夢の中の出来事を現実に持ってこようとするなんて

出来ないことだ。


「宝石は出来んのに写真は出来ねーのかよ。ポンコツだな...。

ハァー...。アードの笑顔がめっちゃ可愛かったのに...」


一喜一憂とは、このことである。


「学校ハジマッチャウヨ」


「はいはい...」



リビングに行くと、母親の姿はあったが、

いつもいる姉の姿が無い。


「あれ?姉ちゃんは?」


「先に出かけてったよ」


姉が先に出かける?

あのゆっくり家を出るあの姉が?

いつも一緒に行ってくれてたのに、珍しい事例だ。




これは何か...、裏がありそうだ。

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