第2話 疑問に思うのですが友達の定義とはいったい何なのですか

目を覚ました俺は、駆け付けてくれたアードウルフと共に、

ぎこちない会話を行っていた。


彼女も自分から何か会話を始めるということが、

得意ではないみたいだ。


どっちから何を話せば良いかわからず、沈黙が続いた。


小さい声を出したのは彼女の方だった。


「あっ...、あ、あたしは...、アードウルフです」


「あえっー...、お、俺、七尾悠...」


また沈黙が生まれる。

会話のネタを投下してくれる人がいないと、円滑に会話が進まない。


「...えっと、ユウさん?」


「ああ、ああ!あぁ...。

名前はなんでも、どっちでも、うん、あぁ・・・」


"ああ"ばっかり言ってる俺は何なんだ。一体。

北の国からを歌っている訳ではない。


「ヒト...、ですよね?」


妙な質問だな。


「...うん」


「あー...、いや...、えっと...、ちょっと...、珍しいなあって...」


作り笑いを彼女は浮かべた。


「ああ...」


俺も愛想なく笑い頷く。そして、恒例の沈黙。気まづい。

お互いに体育座りをし、チラチラ横顔を見合い、短く息を吐く。


どうすれば良いのか。


いきなり友達になってくれとも言える雰囲気ではない。


「喉渇いたな...」


ポツリと呟いた。


「えっと...、じゃあ、水のあるところに連れて行ってあげましょうか・・・?」


「えっ...?いいの?」


「あっ...、ええ...、は、はい」



水場目指して、2人で歩く。

気恥ずかしいので俺は彼女の後ろを歩いていた。


気遣っているのか、何か不安なのか、後ろを何度も振り返る。


俺も彼女の心が気になり、尋ねようと思うがそれ程気にすることか?

とも思い、中々声を掛けられない。

ヤキモキしていると。


「...あの」


立ち止まり俺の方を振り向いた。

その顔は紅潮し、恥ずかしそうにしている。


(な、なんだ?)


「その...」


「?」


「こ、怖いので横を歩いてくれませんか...?」


「えっ?」


「い、いや、あの、い、いつもは走って行くんで...

その、あ、あ、歩きだと...、い、あー...、あの...

そ、その、無理にやらなくても...」


そんな調子で言われたら、断るに断り切れない。


「別に...、いいけど」


「あ、ありがとうございます...」


そして、横に並びながら歩き始めた。

どこかしら、彼女の表情に安堵の模様が見られた。


「...そう言えば、アードウルフ、友達いる?」


歩いている途中、気でも緩んだのか、

何故か俺の口からそんな言葉が出た。


「と、友達?知り合い、じゃなくて?」


「ん...」


「友達がよく分からないんです。

どこからが...、友達なんでしょうか...?」


彼女の疑問は最もだと俺も思った。

"友達の定義"って何だろう。


「なんだろうね。俺も知らない...。

けど、いつも遊んだりする人かな?」


「もしそうなら、いないかもですね。あたしは一人の時が多いし...」


「...」

(勇気のある奴ならここで、じゃあ俺が友達になるよ!とか言うんだろうなぁ...)






そうして色々考えているうちに、水場に辿り着いた。


「ここです」


俺は水面を覗き込んだ。

確かに透き通っていて、キレイだ。


てっきり水道的なものを考えていたが、無いのなら仕方がない。


両手で水をすくって飲もうとした時...。



バシャーンッ!!



「ひぁっ...!」


「あっ!?」




「誰?」


突然飛び出してきた者にアード共々、腰を抜かしてしまった。


「って、アードウルフじゃない」



現れたのはいかにも、大人っぽい感じのフレンズだ。

服から少し露出させた大きな胸が目立って、なんとも...。

正直言うと、あまりタイプではないかな。


「カ、カバさん...」


アードウルフが力なく呟く。

そうか、カバのフレンズか。と、内心驚いていると。


「あら、そこのあなたはヒトかしら?」


早速質問された。


「あ、はぁ...」


「珍しいわねぇ...、何時振りかしら」


(珍しい?時折あるのか?こんなことが...)


彼女の言い方に違和感を感じたが、別に詳しく知ろうとも思わなかった。


「ところで何をしに来たの?」


そう言えば、水を飲みに来たのか...。

肝心な用事を忘れていた。


「えっと...、水を飲みに...」


アードがそう説明した。

一応、水を飲んだが、あまり喉が潤った感じはしなかった。

緊張のせいかもしれない。


飲み終わり、俺がどうしていいか、口を噤んでいると...。


「あなたお名前は?」


「七尾悠です...」


「どこから来たの?」


「いや、なんていうか、なんて説明したらいいのか、

よくわからないんすけど、光がバーって来て、気付いたら...」


「・・・なるほどね」


(何だろ...、今ので納得したのかな?)


「何しに来たの?」


「何しに?」


意表を突く質問だ。

どうしたら良いだろう...。友達を作りに来ました!

なんて、恥ずかしくて言えないだろ...。

というか、友達を作れば戻してくれるのか?それすらも怪しい。


「あら、答えられないの?」


彼女は顔を近づけてきた。脅されてるみたいだ...。

微かに肌が粟立つのを感じた。


言わなければ、首を絞められてもおかしくはない。


被害妄想かもしれないが・・・。と思ったのは口を開いた後である。


「と、友達を作りに来ました」


かなりの小声だった。


「ふーん...」


彼女は何を思ったのだろう。

心の中がそわそわする。


「アードウルフ、友達になってあげなさい」


突如横にいた彼女を指名した。


「えっ...?」


「はっ...」


俺も、驚きを隠せない。


「あなた友達いないでしょ、なら、いいじゃない。友達1号よ」


「な、なんか他人からそう言われると...、凄いグサって来ました...」


「そうだよ。ボッチが言われたくないセリフじゃないか...!」


すると溜息を吐いたカバは、腕を組みながら言った。


「何よ、何かこだわりでもあるの?」


「やっぱり友人は人を介して作るものじゃないと思うんだよ。

自分で作ってからこそ価値のあるものじゃないのかな...。

アードもそう思わないか?」


「確かに...、そう言われれば...、そうかもしれませんけど...」


「じゃあ、あなた達は自分で友達を作れる自信があるのかしら?」


なんなんだこの女。

痛い所を突きまくってくるじゃないか...。


「そ、そもそも友達の定義がよく分からないじゃないか。

相手も自分のこと友達と思ってなきゃ、そりゃ友達じゃないだろ...。

相手と自分にその認識のズレがあれば...」


「御託はいらないわ。要するにあなた怖いんでしょ?」


「そ...、それは...」


「そうやって逃げて来たから、ここに来たんじゃない?」


ぐうの音も出ない。

俺は、逃げてきたのかもしれない。


彼女の言葉は辛辣だったが、確かに的を射ていた。


「アナタも、同じじゃないの?」


アードウルフの方を向く。


「・・・」


「自分に自信が無い」


彼女は黙っていたが、恐らくその答えは正解だと思う。


「自分に自信が無い人同士なら、お互いに分かり合えるんじゃない?

"類は友を呼ぶ"って言うんでしょ」


俺とアードは顔を見合わせた。


「私も友達が何なのかって聞かれたら具体的には答えられないけど、

あなた達には、共通して友達が何なのかという答えを出せるんじゃない?

それに、親友になれるんじゃないかしら?」


「何故...、そう思うんです?」


思い切って根拠を尋ねてみた。


「昔ここを通った2人の子がいたわ。

彼女達も、"ヒト"と"フレンズ"だった。

それとあなた達が重なって見えたからかも」


それから、少し沈黙を置いた。


「私のアドバイスはここまでよ。後はあなた達で考えてみなさい。

...そうそう。私は2人共、友達だと思ってるわよ」


そう言い残し、彼女は水の中へ潜って行った。



「あの、ユウさんの思う友達って何ですか?」


「俺の"思う"友達...?」


「カバさんが言ってたじゃないですか...。

共通して友達が何なのかという答えを出せるんじゃないかって」


「アードは友達って何だと思うの?」


「...いつも近くにいて、気軽に話せて、心の支えになってくれる優しい人ですかね...?」


少し頬を赤らめて言った。


俺も、そういう人が友達だと思う。

合わせている訳ではなく、本心だ。


俺が彼女の理想の友達になれるように。

また、俺がそういう友達に巡り合えるようになれば。


そのためには、自分自身が変わらなければ。


一歩を踏み出そう。




「...アードウルフ。俺と友達になってくれる?」


「...いいですよ!」


屈託のない笑顔を彼女は見せた。

彼女にとっても、俺にとっても初めての友達。


裏切らない様にしなければと、責任を感じた。



さて、早速だが、友達には正直に話さなければいけないことがある。


「あのさ、アード...」


「な、なんですか?」


俺があのラッキーなんたらから聞いた事を話した。

現実世界から来たこと。夜になって寝たら現実世界に戻るらしいということ。


「わぁ...、本当なんですね」


「俺もよく分かんないんだけどね...」


苦笑いして見せた。


「ユウくんなら、現実世界でも友達できますよ!」


アードはそう励ましてくれた。

下の名前で君付けされるのは新鮮だった。


「ありがとう...、頑張ってみるよ」


夜になり、暗くなった。今が何時であるのか、よくわからない。

木の幹に寄りかかっていた。大きなあくびをすると...。


「もう...、寝ようかなぁ...」


「寝ますか?」


「...アード?」


彼女は足を崩した。俗にいう女の子座りって奴か。


「地面は...、堅くないですか?」


優しい友達だ。今思った。これは夢なのかもしれないと。

そして、俺は色々な事を考えつつ、眠りについた。

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