第2話 これまでは、これからも・・・

その日も、いつものように。瀬里が来て、

話をして、そして・・・

帰って行った・・・


しかし、出会いあれば別れあり・・・

出会いが突然なら、別れも突然なのが必然。


瀬里を見送るのは玄関ではない。

自分の部屋の、ドアだ。

「じゃあ、門限があるからね」

寂しくないようにか、別れ際には、ほほにキスをしてくれる。


そして、軽く手を振って帰っていく。


思春期の男子にとって、同世代からの女の子からのキスが尊いもので、

しばらくは、立ちつくしてしまう。


今にして思えば、このキスにも意味があったように思う。


その夜、部屋のドアをノックする音がした。

僕は、瀬里かと思ったが、すぐにその期待は崩れ落ちる。


「○○、ちょっといいか?」

父さんの声がした。

いつもは、良く言えば放任主義、悪く言えば無関心の父の声に、

僕は、OKの返事をするしかなかった・・・


「瀬里さんの事なんだが・・・」

どうして父さんが瀬里を・・・

いや、知らない方がおかしいか・・・


「瀬里が、どうかしたの?」

「あの子はな・・・」

「うん」

「もう、ここには来ない」

父さんの言葉に僕は愕然とした。


「瀬里さんは、実は、父さんと母さんが雇ったセラピストだ」

「セラピスト?」

「ああ」

心のかたすみには、その可能性もあったが、認めたくなかった。

僕は、逃げていたんだな・・・


「瀬里さんは、ぼっちのお前を、支えになってくれるように頼んだ」

「支えに?」

「ああ、父さんや母さんが、お前の手助けをするのは簡単だ。

でも、同世代の女の子の方が、お前の事を客観的に見る事が出来る」

「それで、瀬里はなんて?」

しばらく間を置いて、父さんは答えた。


「『彼は、もう私がここに来なくても大丈夫です。

彼には、自覚はないと思いますが、確実に成長しています』との事だ」

「それじゃ・・・」

「ああ、これ以上瀬里さんが、ここに来れば、元に戻ってしまう」

僕は、言葉が出なかった。


「それだけだ。邪魔したな・・・」

父さんは、そう言うと部屋を出て行った。


だが振り返り、こう続けた。

「ここには来ないが、お別れとは言ってないからな」

少し悪戯っぽく笑う父さんの顔に、幼少の頃の父の顔を見た。


数日後


隣に、ある女の子が引っ越しをしてきた。

1人暮らしの女子高生らしい。


そして、引っ越しの挨拶をしに来た。

その顔を見て、僕は驚いた。


「隣に引っ越してきた、川名瀬里です。よろしくお願いします」

「せ・・・瀬里?」


「まだまだ、君には私が必要みたいだからね」

「えっ?」

「セラピストではなく、パートナーとしてね」


瀬里は手を差し出す。

僕は、その手を握った。


とても、温かい・・・


「あらためて、よろしくね。拓真くん」

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前を向いて 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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