青い宝石

 嫌な思い出も忘れてしまいたい。じっとしていると余計なことを何度も考えてしまうから、ぴょんぴょんとウサギのように歩いた。


 もうどれくらい歩いただろうか。俺の目的のものはその端だけを、のぞかせていた。


 はーっとため息がでた。


 たとえその後に声がかけられると分かっていても、自然と出てしまうものはどうしようもない。


 青い宝石。


 誰が最初にそう例えたのかは知らない。それでもその言葉は正しいと、心の底から同意する。


 宝石の色は深く、その間に緑や茶色の模様が入り、表面に連なる白の模様だけが刻々と形を変化させた。宝石は柔らかな光を放ち、その存在はおぼろげだった。


『疲れましたか』


 その眺めに足を止めたから出た言葉だろうか。


「別に」


 俺はまた移動を始めた。俺が目標としている場所はここじゃない。もっと向こうの、全身でそれを感じることができる場所だった。


『帰還をお勧めします』


 それは計画が順調な証拠だった。予定していた時間よりも終わりは近いようだった。


『帰還をお勧めします』


 繰り返されるその言葉は、俺にとって嬉しいものでしかなかった。


「帰還はしない」


『では目的地を教えてください』


 俺の一言で諦めるなど少し拍子抜けだが、図々しいやつには変わりなかった。


「教えないよ」


『知りたいです』


「どうして?」


『なんとなくですね』


 その言葉にふふっと笑いがこぼれてしまった。機械にもなんとなくという返事があったのか。そんな感情があることは初めて知った。

 もしかしたら感情は伴っていないのかもしれないが、そんなことは今の俺には関係なかった。そんなことを考えたところで、俺が生きているうちに答えが出るとは思えないからな。


『どうしたんですか』


 俺は笑った。


『何か面白いことでも言いましたか』


 俺は一人で笑った。それも大声で。どうせ誰も聞いていないんだ。俺の笑いに反応するやつはいるが、そんなことは関係ない。

 

 俺の笑い声に毎回反応するこいつがまた面白くて笑った。何を言っても笑うだけ。ちゃんとした返事をしない俺に捻くれてしまったみたいで、こいつは何も話さなくなった。


 こいつが何も話さなくなっても、俺は笑い続けた。




 そしてようやく辿り着いた。


 たどり着いた場所で俺は寝ころんだ。


 見上げると、そこには地球が浮いていた。


 それは見事なものだった。

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