散歩

 フフッ


『何か良いことでもありましたか』


 無機質な声が響く。それは勝手に話し出した。


「俺はまだ許可していないんだけど」


『先程の笑い声で許可されたものと判断しました』


 頭が良いのか悪いのか。機械のくせに図々しいその態度はあいつによく似ていた。ここにきてあいつのことばかり思い出す。あいつのための計画であるから、それは仕方ないのだが、あまりいい気分ではなかった。


『気に障ることでも言いましたか』


 今度は俺のため息に反応したらしい。チャンスは全て逃す気がないようだ。

 その言葉は暗に、気に障ることをわざと言ったが、何か問題があるのならば言い返してみろと言っているようだった。


 こいつを作ったやつは一体どういうつもりで作ったのか。ため息をつくしかなかった。


『気に障ることでも言いましたか』


「はいはい。言ってないですよ」


 こういうのは適当に答えておくのが一番だ。それで引っ込むならまだいいほうだが、どうせ引っ込まないのだろう。


『何か気に障ったような返事ですね』


 分かっているのなら言わなければいいのに、そういったことは学習しないのだろうか。


「気にしないでください」


『了解しました』


 どうしてか素直に聞くときは聞いてくれる。表面上はだが……。


『目的地はどこでしょうか』


 こういうところだ。


『またため息をつきましたね』


 どうしてこうもおしゃべりなのか。これでは本来の仕事のときも邪魔で仕方がないだろう。


「少し黙ってろ」


 つい口調が荒くなってしまう。以前までならこんなことはなかっただろう。もしこうなってしまったら、またすぐに取り繕わなければならなかった。


 今ではその必要もない。その事実を再確認すると、先ほどまでの怒りは消えていった。




『月が綺麗ですね』


こいつの言葉はせっかく落ち着いた俺の心を苛立たせた。

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