罪悪感

津田梨乃

罪悪感

 ある日、誰かが言った。


「罪悪感で死ねばいい」


 それが引き金かは、わからない。しかし、確実にそれは病気として蔓延した。


 心を病んでいる人間から死んだ。口々に生まれたことを謝罪した。

 いじめられっ子が死んだ。最後まで、自分を責めながら事切れた。

 社会に苦しむ人たちが死んだ。社会への恨み辛みを口にし、最後に「自分が悪かったのかな」と絶望して倒れた。


 それらを目の当たりにし、涙を流した家族も死んだ。

 笑わなかったいじめっ子も死んだ。

 責任を取ろうとした社会人も死んだ。


 泣かなかった強者は生き残った。

 笑ったいじめっ子は生き残った。

 惨めに弁明する社会人は生き残った。


 また心を病んだ人間から死んだ。誰もが生き残ったことを悔いた。

 いじめっ子が死んだ。かつての被害者に謝罪し朽ちていった。

 社会に苦しむ人たちが死んだ。社会への恨み辛みを口にし、最後に「自分が悪かったのかな」と絶望して倒れた。


 それらを目の当たりにし、涙を流した家族も死んだ。

 笑わなかったいじめっ子も死んだ。

 責任を取ろうとした社会人も死んだ。


 泣かなかった強者は生き残った。

 笑ったいじめっ子は生き残った。

 惨めに弁明する社会人は生き残った。


 病むものは、いなくなった。

 いじめは、なくなった。

 代わりに戦争が始まった。

 罪悪感は、死語になった。



 世界は、たった一人になった。

「罪悪感で死なせてくれ」

 叫んだ。それを聞く者はいなかった。


 最後の一人は死ねなかった。

 いつまでもいつまでも死ねなかった。

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罪悪感 津田梨乃 @tsutakakukaku

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