夢をみるイン
重い瞼の鎧戸をこじ開け、意識に光を注ぎ込ませる。
「チョチョ!」
叫びながら、カイトは目を覚ました。窓から冬の朝日が差し込み、鳥のさえずりがかすかに聞こえる。カイトは静かに目を巡らした。ここは世界各国の土産が散乱し、整頓する努力が必要な部屋――
「おれの部屋……か……」
手を動かそうとすると、生温かいものが触れられた。
「チョチョ?」
カイトの隣で、チョチョが眠っていた。顔は蒼褪め、まるで死人のように生気がない。胸元には包帯が巻かれ、その上に着物を纏っていた。自分より軽傷に見えるが、痛々しい姿なのは変わりない。カイトの胸中にも、鋭い痛みが迸った。
呻くと、部屋の扉が開かれ二人の少女が顔を出した。
「目が覚めたのね、カイト……」
「カイト亭主ぅ。ごめんなさい、わたしの不覚で……大変なことに!」
「シャーロット、セィル……」
二人とも目の下が大きく腫れ上がっていた。カイトとチョチョの看病を献身的に一晩中続けていたらしい。
「チョチョは……どうなっている?」
瞼を深く閉じた座敷童子を見つめながら訊く。
「暗器に仕込まれていた毒が体中に回っていたの。セィルが必死になって毒を洗い流したんだけど……それでも目を覚まさない……。あとはきっと、本人の精神次第ね」
カイトは弱弱しいチョチョの手を握る。
「エクセレワンはどうなったんだ……?」
「グレイさんの手で捕まったわ。ホテル王の末路が、一面を賑わうことになるわね」
「そうか……」
カイトの胸の中に、黒煙のようなものがもくもくと湧き上がっていく。こんな結末は、望んではいなかった。エクセレワンが欲望に身を蝕まれたことも、チョチョが傷付いたことも。
「カイトも重傷なんだから安静にしておいて。店は休業にしてあるから、気にしないで」
「ありがとう、シャーロット」
シャーロットが部屋を出たあと、カイトはぎゅっとチョチョの手を握った。まるで、自分の命を分け与えるように。
「チョチョ、目を覚ましてくれよ。このまま死ぬなんて、おれは嫌だぞ……」
そもそも、人とは違う存在――精霊に死などあるのだろうか。
チョチョは言っていた。生まれ知らず、親知らずと。
いつ生まれたかわからない存在に――死などあるのだろうか。
カイトは恐怖する。チョチョが今にもふっと消えてしまいそうなことに。
瞼の裏には、いくつものチョチョの顔が彫刻されていた。
しっかり働くチョチョ。うっかり働くチョチョ。天真爛漫にはしゃぐチョチョ。棘のない花のように微笑むチョチョ。
カイトは目尻に涙を浮かべながら、チョチョと枕を揃えて、意識を夢の中へと落とした。
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