17.騎士の誓い

「あ、私も護身術とか習おうかしら!」


「コホン……護身術、ですか。そうですね、身を護るすべを持つのは良いことだと思います」


 よし、笑いのツボからは逃れられたみたいね。


「そうよね~、またいつ痴漢に遭うか分かったもんじゃないし……」


「ち、痴漢?! シェリーさん、痴漢に遭ったんですか?!」


「ええ、つい一週間ぐらい前に学院でね」


 加害者も今さっきそこにいたわ。


「そ、そんな……シェリーさんが痴漢に?!」


 セーリオ君は大きな衝撃を受けているようだった。

 学院という学び舎でそんな蛮行が行われていたなんて、真面目なセーリオ君にとっては相当ショックよね……。


「でも大丈夫よ! 私の機転で事なきを得たから!」


「そうでしたか……いや、でも……!」


 ホッとしたり義憤ぎふんに燃えたり、とっても忙しそうね。

 相手は距離感がズレまくった俺様王子様だし、制裁も加えたし、私としてはもうそんなに怒ってないのだけど……。


 私がそんなことを考えていると、セーリオ君は何かを決意したように真剣な面持ちになった。


「シェリーさん、僕を……貴女の騎士にしてください!」


「騎士……?」


「その、僕はまだ騎士見習いにもなっていない学生の身ですが……」


 大仰おおぎょうなことを言っていることを自覚しているのか、セーリオ君は少し照れ気味だ。


「騎士になれると言ってくれた貴女を……僕を信じてくれた貴女を、守りたいんです」


「セーリオ君……」


 可憐な美少女顔なのに、なんて男らしいセリフ……!

 その想い……受け止めるわッ!


「分かったわ、セーリオ君」


「シェ、シェリーさん……!」


 セーリオ君はこぼれんばかりの大きな瞳をうるませ、キラキラと輝かせた。


「練習台の役目、立派に努めてみせるわ!」


「……えっ?」


「騎士になるために人を守る練習までしようだなんて、素晴らしいと思うわ。私が練習台になることでセーリオ君が本物の騎士に近づけるのなら、協力は惜しまないわよ。なにせ、騎士になれるって言ったのは私だものね!」


「あ、あの……」


「ん? 何かしら」


 あら、セーリオ君が何か言いたげな顔をしていると思ったら……いつの間にかラフィが来てるじゃない。

 空気に徹するのはやめたのかしら?


 ラフィは私ではなく、セーリオ君に近付く。

 そして何かを耳打ちしていたかと思ったら、ススス……とまた離れていった。


 何? 何を言ったの?


「コホン……シェリーさん!」


「えっ、はい!」


 セーリオ君はおもむろに私の手を取った。

 その顔は真剣で、ひざまずく姿はさながら本物の騎士のようだ。


「今はまだ、本物じゃない。でも僕は……いつか本物になってみせます。それまで、貴女の仮初かりそめの騎士になることを許して頂けますか?」


「セーリオ君……!」


 ああ、やっぱり立派ねぇ~!

 まだ若いのに、そんなに真剣に騎士になることを考えてるのね!


「ええ、もちろん許すわ! あなたの騎士道を応援します!」


「……はい」


 セーリオ君は嬉しさと寂しさの入り交じる、儚くも可憐な笑顔を浮かべた。

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