18.一級フラグ建築士(回収するとは言ってない)

 翌日。私は食堂の長机に頬杖をついて、初日からの記憶を振り返る。

 昼休みに浮かれる生徒達のざわめきは、考え事にちょうど良いBGMだ。


「これで候補は四人か……ビックリするぐらい順調ね~」


 まだ二年生が始まって10日ぐらいしか経ってないのに、怒涛どとうの攻略スピードな気がするわ!

 でもゲームの期限が一年間だとすると、五人も攻略しなくちゃいけないなら……これぐらいが普通なのかしら。

 最近はめっきり学園モノをしなくなったから、『普通』を忘れちゃったわねぇ。


「お待たせ~! 何が順調なの?」


 買ったばかりのランチを持って隣の席へと着いたラフィは、早々にパクつきながらもお喋りを始める。

 私も自分のランチ(厚切りサンドイッチ)の攻略を再開した。


「んー、婚活の話よ」


「……あれ、もはや婚活だなんて呼べないと思うんだけど……」


 まぁ正直に言って、結婚は微塵も考えていないものね。

 恋愛すら考えていないわ。


「じゃあ呼び方を変えようかしら。イケメン発掘ゲーム? 男を見る目を養う会?」


「うっわぁー……」


 ラフィが変なものを見る目をしているわ!

 ちょっと安直過ぎたかしら……。


「呼び方はどうでも良いけどさ、ホントにあれでいいわけ?」


「あれって?」


 唐突な話題転換に首をかしげる。


「蹴るわ叩くわ……あぁ、でもセーリオ君とは良い感じだったね」


「セーリオ君は候補者の中でもダントツで良い子だったもの!」


 痴漢はしないし、無視もしないし、デリカシーはアリそうだし!

 今は男連中にモテてる(?)みたいだけど、将来は女の子にもモテモテになるわね~。


「良い子、ね……」


 ラフィは呆れたようにため息をついた。


「シェリーがあんなにニブチンだったなんて……」


「えっ、いつの話? 私、何かスルーした?」


「その返答がもうニブニブだよぉ……」


 私が気付いていないことが何かあるのかしら。

 イベントのフラグポイントは見逃さない方だと思うのだけど……。


「何よ、もったいぶらないで教えてよ」


「……ノーコメント。そのうち本人がちゃんと言うでしょ」


 んも~、言う気が無いなら言い出さないでよね! 気になっちゃうじゃないのっ!


 でもやっぱり何かのフラグっぽいわね。

 仕方ない、イベントが来るのを待つしかないわ……。


 焦れる私とは反対に、ラフィはにんまりと笑顔を浮かべた。


「それで、順調ってことは誰にするか決めたの? 恋の、お・あ・い・て♪」


「嬉しそうなところ悪いけど……今はまだ一人に絞る気は無いのよ」


「ええっ?! 」


「前に言ったでしょ? 色んな人も見ておかないと、って」


「言ってたけどさぁ……」


 納得できないとばかりに、口を尖らせるラフィ。


「恋愛をするのは、少なくとも三年生になってからね。今は男友達を作って交友関係を広げようかな~、ぐらいの感覚よ」


「ええ~、気の長い話だなぁ……」


 乙女ゲーというのは大抵、お付き合い前のアレコレを楽しむものであって、お付き合いはゴール。つまりエンディングなのよ。

 私が目指しているのは逆ハーエンドなんだから、一人に決めちゃったらダメなのよね……。


「急いで失敗するのもイヤじゃない? だから、二年生の間はこれでいいのっ!」


「はいはい……」


 分かっているのかいないのか、ラフィは「ホント奥手なんだから……」とでも言いたげな顔で頷いている。


 これも逆ハーエンドのためなのよ!

 決して、私が恋愛初心者だからじゃないわよっ?!

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