16.悩める美少……年

「あの、貴女の名前を伺ってもよろしいでしょうか」


「私はシェリー・アステール、二年よ。セーリオ君より一つお姉さんね」


 一つどころじゃない精神も混ざってるけど、そこはご愛嬌ってやつね。


「ついでに言うと、あのちょっと遠巻きに他人のフリをしてるのが友達のラフィよ」


 親友の一大事をスルーする友達だけどね!


「あ、私のことは気にしないで!」


 挨拶に向かおうとするセーリオ君を押し止めるラフィ。

 私がセーリオ君と知り合いたいって言ったから、気を遣ってくれてるのかしら。


 セーリオ君は少し不思議そうにしていたけど、言われた通り気にしないことにしたらしい。


「アステールさんは僕の事をご存知なのですね」


「シェリーでいいわ。私は庶民だし敬語も要らないわよ」


「じゃあ、あの……シェ、シェリーさん、で……」


 うふふ、照れちゃって……カワイイわね!

 近所の小中学生を思い出すわ。


「セーリオ君のことは風のうわさで聞いたの」


 ラフィという名の風にね!


 しかしその言葉を聞いた途端、セーリオ君の笑顔がかげる。


「噂、ですか……噂ってアレですよね……アイドルだとか女神だとか、天使に一輪の花に、鶴なんかも……」


 最後のやつ、掃き溜め扱いされた他の男子が可哀相ね。

 アイドル以外は初耳だけど、どれも表現がスゴイわねぇ……男の子なのに。


「そうやって揶揄やゆされるのは不本意なんです。でも容姿ばかりは僕自身、どうにも出来ないので……ハァ……」


「そうねぇ~」


 体はすぐに出来上がらない。

 まだ十五、六なんだもの、早すぎるわ。


「でも、セーリオ君なら大丈夫よ!」


「え……?」


「だって、騎士に一番必要なのは心だもの!」


「こころ……」


 セーリオ君の手を取って、その胸に押し当てた。


 私の胸じゃないわよ?


「そりゃあ騎士らしい見た目も剣の実力も、必要な時はあるわ。でも騎士としての心構えが無かったら、そんなのは無意味だと思わない?」


「……そう、ですね」


「でしょっ?!」


 人間、中身が重要だわ。性格と言っても良いかもしれないわね。

 だってレジス様みたいな痴漢やシランス君みたいなガン無視男だったら、騎士のイメージがガタ落ちよ?

 ゲラン君は……騎士寮の寮母さんかワンコかしら。


 私はセーリオ君の手を握りしめ、力強く言い放つ。


「さっきも言ったけど、セーリオ君は良い騎士になるわ。だって、こんなに素晴らしい心を持っているんだもの!」


「……ッ!!」


 セーリオ君の顔がみるみる真っ赤になり……ついには握った手が震えだした。


 あら。私ったらつい、とってもクサイセリフを吐いてしまったわ。

 セーリオ君も吹き出すのをこらえてるわね、可哀相に……。


「ごめんなさい、ちょっと熱くなりすぎちゃったわね」


「いえ、その、ありがとう……ございます……」


 私は手を離し、一歩離れた。


 マズいわ、セーリオ君ったらまだぷるぷるしてる。

 いっそ笑ってもいいのに……私に遠慮してるのね、良い子だわ。


 よし、セーリオ君が気まずい思いをしないうちに話題を変えましょう!

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