7.成果は上々

「はぁっ、はぁっ……ここなら大丈夫かな?」


 ラフィに引っ張られるようにして、空き教室に入り込んだ私達。

 あの中庭から随分と走ってきたものだ。


「っは~、疲れた~。ラフィってば、走って逃げなくても良かったのに……」


「もうっ、王子様を蹴っといて何言ってんの!」


 疲れ果てた私と違って、ラフィは元気そうねぇ。


「なんでケンカ売っちゃったの?! アタックってそういう意味だったの?!」


「あれはケンカじゃないわ。痴漢行為に対する制裁よ」


「もうっ、ホント何言ってんの?!」


 二度目の『もう』、いただきました。


「いや、だってね? いきなり抱きつかれたのよ?」


 抱きつかれたというか、抱き寄せられたって感じだったけど……似たようなものよね。


「しかも、こっちの話は全く聞かないの! 王族って皆ああ・・なのかしらね、だったらイヤだわぁ~」


「そこはむしろ大歓迎のはずでしょ……なんでそこで蹴ったりしたの……」


「いや~、セクハラに厳しい世間で生きてきた情熱パッションが、つい?」


 シェリーじゃなくて、愛の方だけどね。

 日本であんなことやったら、確実にセクハラよ! 痴漢よ!


「はぁ……そんな奥手なのに、よく婚活だなんて言えたもんだね……」


 奥手じゃないもん、フツーだもん!

 あっちが二次元と三次元を混同してるからいけないんだもん!

 この世界が悪いんだもん!


 うう、ラフィが呆れた視線を向けてくるよぅ……。


「……で、どうするの?」


「どうするって……何が?」


「レジス様は候補から外す? というか、あそこまでやっちゃったら外すしかないと思うけど……」


「外さないわ! むしろ攻略は順調よ!」


「どの辺がッ?!」


 『変な女』発言もあったし、第一段階はクリア~って感じよね。

 予定通りじゃなくてもセーフとか、さすが主人公補正だわ。


「大丈夫、これもテンプレの一種よ。きっと今頃、『変な女だけど……退屈はしないかもな』って呟いてるはずだから」


「……シェリーって……いつからそんなバカみたいに前向きな子になったの……?」


 あら、さすが親友ね。

 別の人間が混ざったのに気づいちゃったのかしら。


 でも、大丈夫……。



 シェリーとラフィは……ズッ友だょ……!!




***




 痴漢レジスとの出会いから一週間。

 レジスから呼び出しがあったり、新キャラと遭遇したり、そんなイベントを期待していたけど特に何も起こらなかった。


「うーん、そろそろ何か変化が欲しい頃ね……」


 普通に授業に出て寮に帰る日々……。


 このままじゃいけないわ!

 イベント発生ポイントには、自ら足を運ばないといけないのよ!

 ああ、ゲームみたいに『イベント!』みたいなマークが見えたらいいのに……。

 でも嘆いてたって仕方ないわね。行動あるのみよ。


 そうと決まれば、まずはラフィに話を聞かないとね。

 お宅(部屋)訪問よっ!




 ――コンコン


 ラフィの部屋を訪れ、扉をノックして来訪を告げる。


「ラフィ、シェリーよ。ちょっと話があるんだけど、いい?」


「やっほーシェリー、いらっしゃい。入って入って~」


「ありがとう!」


 招かれ、いつものようにベッドに腰掛ける。

 ラフィの部屋も私の部屋と似たようなもので、家具も質素なものばかり。

 違うところと言えば、勉強机がきちんと使われてるってことかしらね。


「今日はどうしたの?」


「アレよアレ、前に言ってた……婚活? の件よ!」


 一瞬、自分で考えた言い訳を忘れかけてたわ。危ない危ない。


 呆れた顔をしながら、私と向かい合うように椅子へと腰を下ろすラフィ。


「あれ、諦めてなかったんだ……」


 諦めてないわよ?

 なんで諦めたと思ったのかしら……良いスタートを切ったっていうのに。

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