3.恋人候補の候補

 学院へと続く並木道。

 春らしく愛らしい花を咲かせた木々が、道端を彩っている。


 通い慣れた道のはずなのに、新鮮な景色を眺めてるような……変な気分だわ……。

 それにしても、まさか三十過ぎて学生になるなんてねぇ。

 いや、シェリーとしてなら去年から学生なんだけども。

 三十ウン年と十六年の差なのか、女神の言う通り『愛がシェリープレイヤーとして転生した』からなのか。

 どちらかは分からないけれど、アラサーの学生コスプレ感は拭えそうにないわね……。


 ――どんっ!


 「ぅひゃあっ?!」


 後ろからの衝撃に驚いて振り向くと、そこには楽しそうに青髪を揺らす少女がいた。

 ハーレン王立学院の学生服に身を包み、私と同じ二年生カラーのループタイをつけている。


「ラフィ! ちょっと、ビックリしたじゃないの!」


 ラフィは一年生の時のクラスメイトなんだけど、今じゃ親友って呼べるぐらいに仲良くなった。

 同じ庶民だし、気が合うのよね。

 といっても、学術の成績で推薦をもらったラフィと私じゃ、頭の出来は天と地の差があるけど……。


「ごめーん! シェリーがあんまりにもボーッと歩いてたもんだから、ついね!」


「んもう……おはよう」


「おはよっ!」


 ラフィと軽く挨拶を交わしてから、二人で歩き始めた。


「そういえば、何か考え事してたの? 悩み事?」


 ラフィはあくまでも、何気なく聞いてくれる。

 んもう、そういうとこ好きよ、ラフィ!


「うーん、悩みと言えば悩みかな……」


 何を隠そう、私の頭は悩みのタネでいっぱいなのよね。

 誰だか分からない攻略対象を探して、攻略方法も探して、なおかつ複数人と友人以上恋人未満を保たなきゃいけないんだから。


 ……女神のムチャ振り、ヤバすぎでしょ。


「何なら相談に乗るわよ?」


「相談、かぁ……」


 『実は私、星野ほしのあいっていう日本人だったみたいでさー!』なーんて言うわけにはいかないわよねぇ、いくら親友ラフィでも。


 さすがに全部は話せないけど、なんとか上手く助けを求められないかしら。


「えーっと……ラフィは今、好きな人とかっている?」


「えっ! なにそれ、恋バナ?! あのシェリーが恋バナ?!」


「い、いや、恋バナというか、何というかー……」


 そんな可愛らしいもんじゃないのよ……。

 これから五股をしようとしてるアラサーの話です、ごめんなさい……。


「シェリーもとうとう男子に興味が湧いてきたのね! これでやっと色んな話ができるわ~♪」


 私の心苦しさをよそに、ラフィは大興奮。

 日本じゃ『頭の良い子は真面目』『恋愛は二の次』っていうイメージがあったけど、ラフィはそういうタイプじゃないのよね。

 一年生の時もよく、「誰々がイケメンで誰々が人気があって~」なーんて話をしてたぐらいだし。


「でも、ラフィってば実際に誰かと付き合ったりしないわよね。好きな人の話すら聞いたことないんだけど?」


「私はね、あくまでも『恋バナ』が好きなの! あと、イケメンデータを収集するのが趣味!」


「ええー……」


 あんまりよろしくない趣味ねぇ……。

 でも、アイドルオタクみたいな感じだと思えば、そう変でもない……かしら?

 むしろ、まだ見ぬ攻略キャラの情報が欲しい今、最高にピッタリの趣味なんじゃない?


 なぁーんだ、ちょっと変わった親友がいてラッキーだったわ!


「それでそれでっ? シェリーは誰が気になるの?」


「いや、今は特に気になってる人がいるわけじゃないんだけど……」


 これから作る予定です。

 たぶん五人ぐらい。


「ふぅん? じゃあ何が訊きたかったの?」


「うーん、例えば……学院で一番モテてる人って、誰だと思う?」


「一番モテてる人……?」


 誰が攻略キャラなのか分からない以上、それっぽい人に目星を付けてみるしかない。

 それっぽいっていうのは、『乙女ゲーに出てきそうな人』ってことね。


 乙女ゲーあるある、の一。

 超モテ男だけど平凡な主人公をなぜか好きになる、よ!


「三年生のレジス様かな? なんたって王子様だしね、第三だけど」


 ふむふむ、王子様ね……。

 これは王道ね! かなりの有力候補じゃないの!


「さっすがラフィ、イイ線いってるわっ! ありがとう!」


 感謝の気持ちを込めて、ぎゅむーっとね!


「こんな情報で良いならいくらでも教えるけど……一体、何の話だったの?」


 ぎくり。

 やっぱりハグぐらいじゃ誤魔化されないわね。


「えーっと、ほら、私もそろそろ婚活しないとねー、とか……?」


「ええっ?! シェリー、結婚相手を探してるの?!」


「う、うん、そうそう、好条件の人いないかなーって! ほら、私って理想が高いからさ?!」

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