2.見慣れた部屋
「――ハッ、夢?!」
私は布団を跳ね除け、周りを見回す。
そこは……見慣れた自分の部屋だった。
「あ~良かった、やっぱり夢だったのね!」
女神が出てきて『逆ハーエンドを見せて欲しいのじゃ!』だなんて、夢に決まってるわよね。
はー、朝から変な夢見ちゃったなぁ。
「っと、そうだ……今日から
この質素な部屋は、学院――ハーレン王立学院の学生寮の一室。
質素とはいえ一人部屋っていうのが、いかにも王立って感じよねぇ。
王立学院は貴族や資産家の子供が通うのが普通だけど、庶民でも推薦を受ければ入学することができる。
かくいう私も推薦入学した口。私みたいに光魔術の適正が高い人間は珍しいのよね。
最初は戸惑いの連続で大変だったけれど……。
だって、庶民が上流階級の人間と一緒に過ごすのはとっても難しいのよ?
常識や習慣があまりにも違いすぎるから、ね。
でも、それにも慣れたわ。
貴族は貴族と。庶民は庶民と。
「ふわあぁ~、まず顔を洗って……って、ええええええ?!」
しまった、声が大き過ぎたわ。
廊下まで響き渡ったかもしれない。
落ち着け落ち着け、ビークールよ、私!
って、落ち着けるかッ!
「うっそぉ……私、ホントに転生してる……?!」
今の私は、シェリー・アステール。
今年で十七歳になるけど、波打つ金の髪も、
そして、前世は
ごく普通の日本人……と言うには二次元に偏った生活をしていたけど、それ以外に特に変わったところなんてなかった。
目も髪も黒かったから、今とは全く違う。
もちろんお肌のハリも……ね!
「ホントに十六歳に転生した……というか、今になってようやく思い出したって言うべきかしら?」
シェリーとして生きた十六年ほどの記憶も、愛として生きた三十余年の記憶も、しっかりと覚えてる。
すっごく不思議な感覚だわぁ……。
どっちも私なのに、全く違う人生を生きてるなんて……。
そして、女神との会話をふと思い出す。
「逆ハーって……つまりは二股じゃない。それを私にやれっていうの?」
実際のところ二股どころか三股四股五股になるかもしれないけど、細かいところを気にしている場合じゃないわ。
問題は、私のリアル恋愛経験がゼロなこと。
足して50年近く生きたわけだけど、ただの一度も男の人と付き合ったことが無いのよね……。
シェリーは生きるのに精一杯だったし、愛は……ほら、二次元に忙しかったからね?
乙女ゲーをカウントしていいなら、かなりの経験豊富なんだけど……。
それと、ここが乙女ゲームの世界とはいえ、全く知らないゲームだからヒントが一切無いこと。
攻略方法どころか、攻略対象が誰かも分からないじゃない!
これでゲーム開始しろって言われても……。
っていうか私、半分はアラサーなんだけど……この学院の子達と恋愛するの?
十六歳から十八歳でしょ? 未成年でしょ?
……何もかもが大問題過ぎるわよッ!
こんなの無理ゲーよ! クソゲーよ!
返品できるものなら返品したい~!!
「あぁ~、もうっ! 次に会ったら覚悟してよね、あンの……のじゃロリ女神!!」
せめてこれが夢なら良いのに。
そう思いはしたものの、夢なのは『シェリー』か『愛』か、はたまた『女神』か。
答えが出ないまま、私は登校の支度を始めた。
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